表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/172

奴隷総選挙

 王都リベックの南側。


 おれは一人の若い男と一緒に歩いて、まわりを見回していた。


 男の名前はエラスト。リベックの住民で、この辺り一帯に住んでるものだ。


 リベックに帰ってきたおれは早速、エラストの陳情を受けてココにきた。


「なるほど、確かに乱雑としてるな」


 目の前にある建物は計画なし、って感じで建てられてる。


 道がくねくねと入り組んでる。


 リベックの外から入って、しばらく歩いだだけで何回曲がったかわからなくなって、自分がどの方角を向いてるのかもわからなくなった。


 ちょっとしたスラム街、天然の迷路みたいな感じになってる。


「はい。この一帯は王様が統治する前からあったところで。家とか建物は全部王様が作って下さったものですけど、場所は前のままです。それに後から次々と建てましていったもんだから、こんな有様に」


「なるほど」


「すごい困るんです。南から来た人がリベックの中心部とか反対側とか行くと絶対迷うし、ものの輸送とかもすっごい手間取るんです」


 エラストは若者らしく、慣れてない敬語で説明した。


 簡単にその様子が想像できた。


 要するに大通りがないんだ。


 入り組んだ小道がいくつもあって、迷いやすい上につまりやすい、って事なんだ。


 初期にとにかく衣食住だけを確保する、それさえやってればよかった、という時代のツケが今になって出てきたって所か。


 小さな広場につく。そこに住民が数十人待ち構えていた。


 おれを見つめてる。


「この辺りの住民か」


「はい」


 エラストが代表して答えた。


「王様になんとかして欲しくて集まった人たちです」


「なるほど。再開発しよう、碁盤目に並び替えて、道に名前をつけよう。ああ、アスファルト的なやつの開発が成功したから、それを敷設させる」


「最後のはよく分からないけど、ありがとうございます!」


「「「ありがとうございます!」」」


 住民達が声を揃えていった。


「王様にはいつも感謝してます!」


「「「感謝してます!」」」


「きにするな。DORECAで作った家だから再開発もやりやすい。後で奴隷をここに来させる。並べ替えが出来る様に、家の中からDORECA製じゃないものは全部だしとけ」


「わかりました! ……その、王様」


 勢いよく返事をしたのはいいが、一瞬で声のトーンが変わって、おそるおそる、って感じでおれに聞いてくるエラスト。


「どうした」


「その、奴隷様の事ですが……第一奴隷様に来ていただくって訳には……いかないっすか」


「リーシャに? なんでわざわざ」


「お願いします!!!」


 エラストはさっき以上の勢いでいって、頭を下げた。


 いきなりどうしたんだ? って思ってると。


「「「お願いします!!!」」」


 他の住民達も同じように、さっき以上の勢いで頭を下げた。


「な、何だ一体」


 全員が顔を上げて、熱烈な視線でおれをみつめる。


 おねがいします――視線でも訴えかけられた気分だ。


「……わかった、リーシャに来させる」


 その熱意に押されて、思わず、おれは同意した。


 すると、そこにいる住民達は更にテンションを上げて、大いに喜んだのだった。


     ☆


 リベック宮殿。


 戻ってきたおれはそれを見あげた。


 絶対結界を持つ宮殿、作った時はよかったけど、母娘奴隷が増えたことで手狭感が出てきた宮殿。


 そのうち改築しないとな、と思った。


「うん?」


 その宮殿から奴隷が出てきた。


 奴隷の中で一番物静かな、第三奴隷ユーリアだ。


「ユーリア――」


 名前を呼ぼうとしたが、声が途中で小さくなって消えた。


 ユーリアの元に何人かの子供が一斉に走ってきて、集結したのが見えたからだ。


 全員が小学生くらいの年頃の子で、男女合わせて10人だ。


 そのうちの一人、帽子を逆さにかぶってるリーダー風の男の子が言った。


「奴隷様、アンケートを集めてきたよ」


「ご苦労様。見せて」


「はい!」


 男の子が代表して、紙の束をユーリアに渡した。


 ユーリアはそれをパラパラめくって、確認する。


「うん、ありがとう」


「それでいいの?」


「いいの。情報の元があれば、わたしが整理する」


「あたしたち、奴隷様のお役に立てた」


「立てた」


 ユーリアがやはり物静かにいう。


 子供達が喜んだ。女の子は歓喜にふるえ、男の子はハイタッチとかした。


 へえ。子供を使って情報集めてるのか。


「奴隷様! 他に何か出来ることはない?」


 リーダーの男の子がいう。他の子が全員期待する目でユーリアを見る。


「うん、それじゃ――」


 ユーリアが子供達に指令を出した。


 邪魔するのも何だから、おれはそっとその場から離れた。


     ☆


 何となく、リベックの街中を歩いて回った。


 南側もそうだけど、リベックを再開発して、道路も全面的に舗装しなきゃな。


 それと、今までは衣食住を優先的にやってきたけど、これからは色々発展させていくフェイズだと思う。


 女神はこの世界を「再生」してくれって頼んだ。


 普通なら再生するところだが、それじゃつまらない。


 せっかくだし、再生した上で進化させようと思った。


 色々と話を聞いてると、この世界は邪神に滅ぼされる前、大体中世くらいの技術レベルだったらしい。


 おれの知識と常識からすれば、再生してもまだ「時代遅れ」って感じだ。


 だから進化させる。


 おれの中には知識がある、中世から近世、近代に至るまでの進化をあらかた知ってる、その草分けになった知識も持ってる。


 それを、徐々にDORECAで実現させていこう。


 さしあたっては機械かそれに似てるものの開発か、動力や電灯みたいなもの開発からだな。


 電灯は特に重要だ、夜を克服したとき人間は違う領域に足を踏み入れたってよく聞く。


 ま、魔力をつかう――魔灯なんてものになる可能性が大だがな。


 おれは静かに笑いながら、賑やかな街中を歩く。


 ふと、ある事に気づく。


 おれがさっきから目にしてる店、ちゃんとした店舗や露店にかかわらず、店は必ず二種類のうち、どっちかのマークをつけている。


 赤いマークと、白いマークの二種類だ。


 いったん気になると、ますます気になる。


 商店街をくまなく歩いて回る。


 例外なく、全部の店は二種類のうちのどっちかのをつけてる。


「アキトはどっち派?」


「うお」


 背後からいきなり話しかけてられてびっくりした。


 振り向くと、そこにカザンの長、マルタがいた。


「マルタ。どっち派ってどういう事だ?」


「ああいうの」


 マルタは近くにある二つの、種類の違う二つのマークをさした。


「リーシャ派とユーリア派、どっちなの?」


「は?」


 何を言われたのかわからなかった。


     ☆


「ごめんなさいご主人様!」


「ごめんなさい」


 宮殿の応接間、マルタが紅茶とケーキを美味しそうに食べてる横で、リーシャとユーリアがおれに謝った。


「それよりもどういう事なのか教えてくれ」


 リーシャとユーリアが視線を交換して、リーシャの方が質問に答えた。


「ご主人様が留守にしてる間の事です。なんだかよく分からないうちに、街のみんなが第一奴隷派と第三奴隷派にわかれてしまったんです」


「争いでもしてるのか?」


「争ってる訳じゃないですけど……その……」


「……」


 リーシャもユーリアもいいにくそうにした。


 一体どうしたんだ。


「あたしが代わりに答えるよ」


 ケーキを食べて、満足したマルタが笑顔で代わりに言った。


「奴隷にはご主人様からの寵愛があるじゃん? で、アキトは奴隷を可愛がるじゃん?」


「ああ、奴隷は可愛がって、愛でるのが基本だ」


 それが? って顔でマルタを見る。


「それがどういう風にねじ曲がったのか知らないけど、いま巷じゃ『奴隷は功績によって寵愛の度合いが変わる』っていわれてるらしいんだ。それで最初は一部の人間が盛り上がってリーシャに協力してたんだけど、最近はヒートアップしてきて」


 にやりと、悪戯っぽい笑顔をしていう。


「その二人に協力して、よりどっちがより功績を積んで、あんたの寵愛を受けるか競い逢うようになったってわけ。それがリーシャ派と、ユーリア派。そしてあんたが見たあのマーク」


「……えっと、つまり」


 おれは頭の中で整理した。


 なんか知ってるぞ、それ。


 それと同じ事を、おれはよく知ってるぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ