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満腹と別腹

 食料が底をつきた。


 おれは全部収穫された果樹の前に立って、それを見上げていた。


 住民がミラを含めて、いきなり二十人も増えたせいで食料の消費が一気に増えた。


 昨日はなってる果物を全部とって、それでぎりぎり何とかなった。


 今倉庫の中にある、残った果物は一人分あるかないかくらいだ。


 ぶっちゃけこのままだと今晩からみんなが飢える事になる。


 それを解消するために今はマドウェイとヨシフの二人がみんなを連れて狩りに行ってる。


「絶対狩れるって保証はないしな……メニューオープン」


 DORECAをもって、メニューを開く。


 アイテムリストの中から食べ物を探す。


 前の時は食べ物がなかった、代わりに「果樹」とか「畑」とかがあった。それで何とかお茶をにごした。


 でも今はある、フロンズカードになったことで増えた、作れるようになった食べ物なのがいくつかある。


 食べ物を見ていく、それは全体的に消費魔力が高かった。


「……おいおい、ショートケーキが3000って、ぼったくりか?」


 思わず突っ込んでしまった。


 それらの消費魔力は数百数千とかは当たり前、ケーキとかのデザート系に至っては木の家より高い有様だ。


 しばらく眺めて、そこに法則がある事に気づく。


「贅沢品とか嗜好品は高いのか」


 肉とか野菜とか数百(それでも高い)だけど、ショートケーキは3000、パフェに至っては10000という大台に乗ってる。


 他にも色々あるけど、概ねそういう法則で必要魔力量が変わる。


 って事は――ここに一個だけ桁外れに少ないのが気になるな。


 食べ物の中にはいってて、プシニーと言う名前で、消費魔力が1だ。


 1、たったの1。


 それを魔法陣にした。


 矢印が出て、すぐそばの地面をさす。


 地面の土が光りだした。


 その土を掘って、魔法陣に入れた。


 魔法陣がプシニーとやらになった。


「……カ○リーメイト?」


 それをみた最初の感想がそうだった。


 それはブロック形の塊、パッケージに入ってないブロック栄養食みたいなものだ。


 試しに手に取ってみる、匂いを嗅いで、ぺろっとなめる。


 味も匂いもしなかった。ビックリするくらいしなかった。


 おそるおそる一口かじってみた。


「……まずっ」


 思わず声に出るくらいまずかった。


 味はしない、匂いもしない。


 おまけにパサパサして口の中がつらい。


 一言でいうと――とんでもなくまずいカ○リーメイトだ。


 だけど――。


「あっ、腹がふくれた」


 また声に出るくらいビックリした。


 一口食べただけであきらかに腹が膨らんでいくのを感じた。


 わき水のところに行って、水と一緒に残った分を全部口の中に流し込んだ。


 更に腹がふくれた、ちょっとした分量なのに腹がもうパンパンだ。


 なるほど、消費魔力超低くて、とんでもなくまずいけど、腹はふくれるのか。


 わかりやすいと思った。そしてありがたいと思った。


 これなら、二十人と言わず、数百人でもまかなえるぞ。


 ならば量産しよう、と思ったその時。


「ただいまご主人様」


 リーシャが戻ってきた。


「おうリーシャ、丁度良かった。これからものを作るから手伝え」


「はい」


 リーシャは笑顔で即答した。


「素材は土だ。片っ端から魔法陣作るから、横にある土を掘って片っ端から入れて」


「わかりました」


 おれはDORECAを持ったまま、次々とプシニーの魔法陣を作った。


 その横にぴったりくっついてきて、魔法陣ができたそばから土を掘って放り入れるリーシャ。


 魔法陣作る、土を入れる。


 魔法陣作る、土を入れる。


 魔法陣作る、土を入れる。


 消費魔力1の非常食、腹がふくれるだけの非常食をリーシャと二人で量産した。


 とんでもなく作業で、それを無心でやった。


 流れ作業で食料を量産する、まるでそういう工場で働いてる気分になった。


 一時間それを続けると、山の様なプシニーができた。


 それを眺めて、手の甲で汗を拭った。


「お疲れ様です」


「そっちもな」


「ところで、これってどんなものでしょうか?」


「プシニーっていう食べ物だ。人が増えて、食料が足りなくなったからな」


「食べ物……」


「……食べてみるか?」


「いいんですか?」


「みんなに食べさせるために作ったんだからな」


「そうですね」


 リーシャはプシニーを一つとって、三分の一くらいかじった。


 手で口を押さえて、もぐもぐする。


「……うっ」


 表情が変わった、ちょっと呻いた。


「あはは、まずいよな」


「いえ、そんな……ご主人様が作るものですから」


「いやまずいぞ、おれもさっき試食したから知ってる。そのかわりメチャクチャ腹ふくれるぞ」


「……あっ、本当です」


「そういうものらしいな。まずいけど腹はふくれる」


「はい……」


 リーシャはプシニーをまじまじと見つめた。


 どうしようかって顔をしてる。


「……ご主人様のものっ」


 ちょっとして、えいっ、ってかけ声と共に残ったプシニーを全部口の中に放り込んだ。


 もぐもぐして――メチャクチャ涙目になった。


 無理して食べなくてもいいのに。


 ……。


「お腹はいっぱいになったか?」


「えっ、はい! ごちそうさまでした!」


「もうちょっとくらい何か入らないか?」


「えっと……」


 リーシャはプシニーの山をちらっと見て、泣きそうな顔をして、それでも頷いた。


「ちょ、ちょっとなら」


「そうか、まあ別腹って言うしな」


「?」


「メニューオープン」


 DORECAを持って、魔力3000をはらって魔法陣を作った。


「あれ? 素材は倉庫――プシニーじゃないんですかご主人様?」


「別のヤツだ。ほら、素材もってこい」


「わかりました」


 リーシャが命令通り素材を持ってきて、魔法陣に投入。


 光の中から……ショートケーキが現われた。


 倉庫の中に残った一人分の果物、イチゴがのったショートケーキだ。


「これはなんですか?」


「一口食べてみろ」


「はい……」


 リーシャはおそるおそるショートケーキを食べた。


「――美味しい!」


 プシニーの時とは違って、顔がぱあと綻んだ。


 満面の笑顔、と言っても過言ではない。


「甘いです、美味しいです。すごいですご主人様」


「そうか」


「こんなものをわざわざ……ありがとうございます、ご主人様!」


 リーシャは感謝してきた。


 ――魔力を2000チャージしました。


 頭の中で声が聞こえる、リーシャの喜びで魔力がチャージされた。


 3000で作って、2000がチャージされた。


 まったくの赤字だが。


「まっ、いっか」


 それくらい、別にいいかなと思った。


 さて、リーシャが食べ終わったらまたプシニーの生産を再開しよう。


 なにしろ住民は二十人もいるんだからな。


「あ、あの……ご主人様」


「うん?」


「あ、あーん」


 リーシャは恥ずかしそうにしながら、ショートケーキを一切れ差し出してきた。


「……」


「あ、あーん」


 同じ事を繰り返した。


 ビックリしたおれだが、気を取り直してそれをパクった。


 ……美味しかった。


 魔力はやっぱり赤字だが。


「うまいな、リーシャ」


「ご主人様がつくったものですから。もう一口どうですか」


「くれ」


 これでいいと本気で思った。


     ☆


 夜、アキトとミラが寝ている中、リーシャは布団の上で身もだえていた。


 遅れてやってきた喜びをかみしめていた。


 ――うまいな、リーシャ。


 頭の中でご主人様の言葉がリフレインする。


「……くふ、ふふふふふ」


 顔がにやける、笑い声が漏れる。


 時間がたつに連れ、嬉しさがこみ上げてくる。


(食べてくれた、ご主人様があーんで食べてくれた)


 嬉しいな、またさせてくれないかな。


 リーシャは一晩中、布団の上で悶え続けた。


 アキトが気づかないところで、魔力がグングンチャージされていった。

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