パーフェクトダンジョン
オリガと一緒にダンジョンをつくる。
今度の部屋はニートカを応用したもので、トラップにかかった侵入者を物理的に外に放り投げる部屋だ。
実際に一回自分で飛ばされてみて、ちゃんと作動することを確認してから、ダンジョンに――すっかりダンジョンになったリラの巣に戻ってきた。
「これでだいぶ完成してきたな」
「はい」
オリガが頷く、幼いエターナルスレイブの顔は充実感があふれている。
「あとはメンテナンスだが……オリガ、たまにここに来て直していけ。スベトラーナと一緒でいいから」
「了解しました、です。でもご主人様」
「なんだ?」
「ご主人様がこのダンジョンを作ったのは、あの人を守るため、です?」
「ああそうだ」
「それならあの人にも奴隷カードを渡すといいと思います、です」
幼いオリガがそう言った。
奴隷カード、DORECAのサブカード的なもの。
ちょっとだけ制限はあるが、それを持てばおれと同じものつくりの能力が使える。
「確かにそれを渡した方が楽だな。自分でメンテナンスして、何だったら拡張とか増築とかできる」
「はい」
「だがそれは無しだ」
「どうして、です?」
「あれは奴隷だけに渡す特別なカードだ」
「奴隷、だけ?」
「そう奴隷だけ」
「オリガ達、だけ?」
「そういうことだ」
頷くおれ。
――魔力を10,000チャージしました。
オリガがジーン、と感動した。
幼いながらも、大人奴隷の様な感極まった表情をする。
おれは更に言った。
「おれの奴隷にだけ特別渡してる。マイヤ達にも渡してないだろ」
オリガは目を見開かせて、コクコク頷いてる。
実際のところ、リラに渡すことは出来ない。
名前が「奴隷カード」であるように、それは奴隷にだけ、エターナルスレイブかつおれの奴隷である相手にしか渡せてない。
それは物理的な制限。
だがそれとは関係なく、例え渡せてもおれは渡す気はない。
例え出来ても、おれは力を奴隷達以外にわたすつもりはない。
おれを心から慕う、この健気な生き物たちだけの「特別」だ。
☆
「リラ」
「あっ、使者様!」
「いい、そのままにしてろ」
オリガと一緒に、リラの所に戻ってきた。
おれをみた彼女は腰を浮かせかけたけど、卵を温めてる最中だからてをかざして止めた。
「ダンジョンはだいたい完成した。これが地図だ」
そう言って丸まった紙を渡す。
DORECAでコーディングした特別製の紙だ。
「各部屋の詳細と、使い方が必要なものは解説を書き込んである。時間ができたらゆっくりよめ」
「ありがとうございます!」
「自分で言うのもなんだがかなり攻略しにくいダンジョンになったはずだ。普通に考えて攻略は割りに合わない。途中で外に出られる仕組みも作っといた。よほどのもの好きでも無ければ無駄に粘る事はないはずだ」
「はい!」
「これからもメンテナンスとアップデートに来る」
「……あの、もう帰っちゃうんですか?」
「ああ」
おれは頷く。
「流石に国をちょっと長くあけすぎた。戻らないとまずい」
「そうですか……」
リラはシュンとなった。
「そんな顔をするな、またくる。その時は子供の――」
顔を見せてくれ、って言おうとしたとき。
「あっ」
リラが声を上げた。
「どうした」
「えと、かえるみたいです」
「かえる? おれがか?」
「いえ、この子が」
リラはそう言って卵をさした。
かえる――孵る。
卵が孵るのか!
そう、彼女がずっと温めてた卵に変化が起きた。
ぷるぷるふるえたあと、ビキビキ、ってひび割れだした。
ぱかっと割れて、中から小さな――幼い蛇女が現われた。
赤ちゃんのようなぷにっとした体、つるつるの鱗。
愛嬌がある……というか普通に可愛い。
その子はまわりをきょろきょろ見回して、まずおれにいった。
「おかあさん?」
「すぐにしゃべれるのか。違う」
「じゃあおかあさん?」
今度はオリガに向かって行った。
「オリガは奴隷、だよ」
オリガが即答する。きっぱりと、ちょっと強めな口調。
子ヘビは最後にリラに向かって。
「おかあさん?」
「うん」
「おかあさん!」
もう一度呼んで、リラに飛びついた。
リラは我が子を抱き締めて、愛おしげに撫でてやった。
「うん、お母さんだよ」
「おかあさん!」
抱きしめ合って、じゃれ合う母娘。
どーん!
遠くから轟音がきこえてきた。
「きゃ、な、なに?」
リラは我が子をかばうようにたきしめて、慌てふためいた。
「侵入者だろ。あれは天井が落ちてきたヤツの音だ」
「天井が?」
驚くリラ。
しばらく待ってみたが、次のトラップが発動する音はなかった。
「ああそうだ。トラップが発動しなくて解除されたら――オリガ」
「いってきます」
オリガは女王の部屋から飛び出した。
しばらくして、さっき、リラに渡した紙が光り出した。
「わわ!」
「オリガが今なんか解除したんだ。こんな風にトラップが発動しないで解除されたら、解除した側になにも知らせないでこっちだけわかるようにしてある。そんな事はないだろうが、これが光り続ける事態になったら待避してくれ」
「すごい……こんな事もできるんだ」
「考えつくことは全部やった。これで安心して子育て出来るはずだ」
「ありがとうございます! あの、使者様……」
「なんだ?」
リラは何かして欲しそうな、おねだりする人の目をしていた。
それでしばらくもじもじしてから、おずおず切り出した。
「もっと、使者様からお卵をもらってもいいですか」
「ああ、いいぞ」
リラはパアと表情を赤らめて、おれに抱きついた。
おれは一晩中彼女に付き合った。
そして次の日、十個の卵が産み落とされたのを確認してから、おれは地底を――リラの巣を離れた。
新しい女王にまた会いに来よう、そう心に決めながら。




