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敵も利用する

 リラの部屋に戻る。


 そこに彼女が卵を温めてるのがみえた。


 自分が産んだ卵を大事そうに、ヘビのしっぽで囲んで、包み込んでいる。


 その姿にちょっと見とれた。


 母親の神聖さがにじみ出ている。


「使者様」


「いい、動くな」


 起き上がろうとするリラを止める。


「どうだ、調子は」


「はい、多分そのうち生まれます。もう中にいるのがわかります」


「ふむ」


 頷いて卵を見た。


 見てる分にはよく分からないけど、実際に温めてる彼女がそういうのならそうなんだろう。


「色々作ってきた。あっちに三つブロックいったところにある部屋は果樹の部屋にした。いろんな果物の木を植えて、水を適量に自分で撒くシステムと、照明もつけておいた。木を切り倒さない限りずっと実がなると思う――果物は食べられるか?」


「はい。お肉やお魚より喉に引っかからないので好きです」


「うん?」


「その、丸呑みするから」


「ああ。骨とか引っかかるのか」


 その発想はなかった。


「んであっちの部屋には宝箱を置いた。中身は値打ちものだがかさばる、手に入れたら手がふさがるから外に出ないといけなくなるだろう。満足して帰ってもらう用だから、あっちの部屋には近づくなよ」


 どうやらリラの方がだいぶ値打ちものらしいからな、侵入者からすれば。


「ありがとうございます」


「で、反対側は偽の女王の部屋を作った。『解体』じゃなくて普通に武器とか使って壊した。襲われた後の廃墟、って感じだ。すでに人間が襲った後の巣って演出で帰ってもらう仕組みだから、あっちにも近づかない方がいい」


「ありがとうございます」


「それと――」


 おれは次々とリラに説明した。


 街作りじゃなくて、ダンジョン作り。


 撃退する仕組みも作ったけど、それ以上に偽装して侵入者に帰ってもらう仕組みを用意した。


 おれの傘下にある街とかとは違って、ここには防衛用の兵を置くことは出来ない。


 だから撃退よりも、穏便に帰ってもらう作りにした。


 我ながら回りくどい事をしてるなと思った。もしかしたら無理矢理法律や国王の威光でリラたちを守った法がいいとも思ったが……とりあえずこうした。


「使者様は」


「うん?」


「使者様はやっぱりすごい人です。あっという間に、わたし達じゃ想像も出来ないような物をつくってすごいです」


「たち?」


「わたしたちの一族です。お母さんもそのお母さんも、そのまたお母さんもずっと深く穴を掘って、なるべく関わりあいにならない様に身を潜めるだけだったから」


「そっちのノウハウもいずれ聞いてみたいな」


「え?」


 驚くリラ。


「た、大した事はしてないですよ?」


「それはわからんな。本人達が大した事ないって思ってやってるのにかなりすごい事もあるし」


「そうでしょうか」


「メニューオープン」


 DORECAを出して、アイスクリームを魔力で緊急生産。


 5万の魔力を消費した。


「食べるか? アイスって言うんだ、甘くて冷たくて美味しいぞ」


「甘くて冷たい……? 本当です! 美味しいです。こんなもの食べた事ないです!」


「これもたいしたことはないことの一つだ。今となって5万魔力はな」


「あっ……はい」


 おれが言いたい事を理解して、頷くリラ。


「それに、本当にたいしたことがない事でも、それを組み合わせて大した事あることにしていくのが楽しい。ものつくりの基本だ」


「そうなんですね。わかりました。今度お母さんの巣を教えます」


「ああ、そうしてくれ」


「ご主人様」


 オリガがやってきた。


「侵入者が現われました、です」


 リラの体が緊張した。


 顔が強ばって、卵をより守ろうと体の後ろに隠す。


「どうだった」


「偽女王の部屋を見た後かえっていきました、です。『ちっやられた後かよ』っていって部屋を壊していった、です」


 侵入者がいなくなったと聞いてリラは見るからにほっとした。


「八つ当たりだな。その部屋は直さずに放っておけ。リアルに冒険者が壊していった痕跡、ありがたくいただこう」


「はい、です」


 報告を終わって、オリガがてくてくと走って行った。


「使者様すごい」


「うん?」


「私だったらそこ直してました」


「使えるものは使わせてもらうだけだ。たいしたことじゃない」


「はい、使者様はすごいです」


 リラはそう言って、卵を温めながら、ますますおれに心酔する顔になった。

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