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自然界の不思議

「ご主人様、水を持ってきました、です」


 そう言って現われたオリガは、水甕を持ってふらふらしている。


 水甕自体はDORECA製だが、中の水は自然界にあるものだからオリガにには重い。


「気をつけろよ」


「大丈夫、です――ひゃん!」


 地面の石ころにつまづいて転ぶ、水は盛大にぶちまけられ、洞窟の地面に染みこんでいく。


「ほらいわんこっちゃない」


 オリガの手を引いて立たせた。


 泥水をかぶって、草色のドレスが汚れてしまった。


「怪我はないか? 膝とかすりむいてないか?」


「ぜんぜん大丈夫、です」


 気丈にそう話すが、まっさらな膝小僧がすりむいてて血がにじんでる。


「ほら、万能薬だ」


「ごめんなさい……」


「気にしなくていい。新しいの汲んでこい。今度はゆっくりな」


「はい!」


 走って行くオリガ。


 ちょっと待ってるとまた水甕に水を汲んできた。


 やっぱり子供のオリガには重くてふらふらしてる。


 そしてまたすっころびかけたが。


「お疲れ」


 予想してたおれは先に動いて、すっころぶ直線に水甕を支えた。


 オリガ自身気づかない、ちょっとおおきくよろめいたかな? って所で支えてやった。


「それをあっちの魔法陣に」


「はい!」


 水を魔法陣に注いで、水場が完成する。


 地下でも半永久にわき出る水場だ。


 水は沸き続けて、あふれだす。あふれ出した分はあらかじめ掘った溝に沿って、部屋の端っこに流れていった。


 端っこに穴があって、あふれた水がたまる。


 そこに行って、DORECAから別の魔法陣を貼った。


 魔法陣から光る矢印が出て、オリガの服のポケットをさす。


「それをいれろ」


「わかりました!」


 オリガが持ってたのはズンカという名前の鉱石。


 最近よく使うようになったものだ。


 それを入れると、魔法陣が小さな黒い塊になって穴の底に落ちた。


 黒い塊に触れた水は音もなく、跡形もなく消えていった。


「ご主人様。これはどういうものなの、かな」


「消去装置、別名消しゴムだ。DORECA、奴隷カードから出たものだけを消すアイテムだ」


「わあああ! これがあるとゴミも平気、ですね」


「消せることは消せるが、こいつは時間あたりの処理能力が決まってるから、量が多すぎると消すのが追いつかないんだ。ほら、今も水は徐々にたまってってるだろ?」


「あっ、本当、です」


「と言うわけ――メニューオープン」


 DORECAを出して、同じ魔法陣をもう一つ貼った。


 二つあれば水はたまらない程度の処理能力になる。


 その魔法陣の光矢印はオリガじゃなくて、別の方向を指した。


「ズンカをもう一つとって来い」


「はい!」


 てくてくと走って行くオリガ。


 子供でも、エターナルスレイブの奴隷はいつもと変わらぬ働きをする。


 それを見送ってから、おれは――。


 さっきからずっと背中に負ぶってるリラに話しかけた。


 ぴったりくっついてくるリラ。人間の様な上半身が温かくて、下半身の鱗がひんやりしてて不思議な感覚だ。


「まだなのか?」


「すみません使者様、まだなんです」


「ふむ。そんなに長くかかるものなのか」


「わたしのお母さんは十日間かかったって言ってました」


「十日も!? すごいな」


 驚くおれ。


 実はこれ、子供を産むための作業である。


 リラの様な種族は、雄の体に絡みついて、肌と肌がふれあったところからエネルギーをもらって、それで子供を作るという。


 最初は子供って聞いて、下半身がヘビだからどうするのかなって思ったけど、意外となんとかなりそうでほっとしてる。


 生命エネルギーをすわれてるのは、なんとなく体がだるいので「ああそうなんだな」って実感してる。


「他の人に聞いた話だと、薄い人だといくらたっても生命力が足りないから、最初は相手を食べてそれで補うって」


「食べる!? おいおい、そんなの聞いてないぞ」


「大丈夫です! 使者様なら足りると思います! それに……」


「それに……?」


 リラは顔を真っ赤にして、もじもじしていった。


「使者様を食べちゃうなんて……そんな事できません」


「そうか」


 頷くおれ。


 言った後、ますますくっついてくるリラ。


 見た目も相まって、ちょっとだけヘビに締め付けられてる様な気分になる。


 それで改めて考える。


 彼女のそれはやっぱりと言うべきか、自然界にあるヘビの交尾と似てる。


 ヘビって言うのは基本的に一回絡まったら何日間も交尾しっぱなしの動物で、種類によってはカマキリとかみたいに、交尾のあとに雌が雄を食べてしまうこともあるとか。


 下半身が蛇だけあって、その辺同じなんだな、と思った。


「あ、あの……使者様」


「ん、どうした」


「その……あの……えい」


 もじもじ言いにくそうにしたあと、リラはおれのほっぺにキスをしてきた。


 そしてゆであがった蛸のように顔を真っ赤にして、おれの背中に隠れてしまった。


「リラ」


「こ、この方がちょっとだけ早くなり……ますから」


「そうなのか」


 本当なのか嘘なのかわかりつらいところだ。


 リラが照れ過ぎてて、言い訳のようにも聞こえる。


 だが、どっちにしろ。


 彼女はそれを望んでるみたいだから。


「リラ」


「……はい」


「顔をだして」


「でも……」


「いいから」


「はい……」


 天岩戸のごとく顔を出してきたリラに、おれは首をひねってさっと唇にキスをした。


「あわ、あわわわわ」


「わあああ」


 彼女はますますパニックになって、戻ってきたオリガにキラキラ目で見つめられた事もあった。


 ますますおれの背中に隠れてしまったのだった。

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