奴隷服ver2
町の建設予定地から少し離れた所。
おれはオリガと二人で歩いていた。
「あっ、毛虫の毛が落ちてる、です」
オリガがトタタと入っていって、エルーカーの毛を拾い上げた。
「これで布の服が作れる、かな」
「量がちょっと足りないな。それの倍はいる」
「集めておく、です」
オリガは背中からリュックを下ろして、その中に白毛虫の毛をしまった。
出かけた時はペコペコだったリュックも、今は素材でパンパンになってる。
「こっちにも落ちてる……あれ?」
「どうしたオリガ」
子供奴隷が素材を拾い上げて、きょろきょろとまわりをみる。
「ここは来る時に通った場所、だよ」
「うん? ああ、そういえばそうだな」
まわりをみる。
変哲のなさそうな荒野だが、微妙に見覚えがある。
リベックから来る途中に通った場所だ。
「それがどうした」
「来た時はこんなに素材がなかった、はず」
「ああ、ないな」
そりゃないさ。
今落ちてる素材はおれがモンスターを倒して回った後に出てきたものだ。
みんなが家を建ててる最中に、おれが倒して回ったモンスターのものだ。
なるほどオリガがおかしいって思うのも無理はない。
今の状況だと、牧場系のゲームで、一晩明けたらそこになかった素材が出てくるようになった状況と似てる。
まあそれはいい、それよりも。
「よく覚えてたな」
「母が言ってた、ご主人様のためにちゃんとみないとだめ、って」
「母、スベトラーナか」
オリガの言い方がちょっとおかしかった。
見た目は3-5歳の幼女だ。
生まれたばかりのエターナルスレイブは一気にこの見た目まで成長して、それから長い間この姿のままでいるらしい。
ある意味蝶々と似てる。
幼虫と蝶々の二つの形態しかないところが。
その幼女姿のオリガがみてて微笑ましくて、楽しかった。
そんなかわいい子供奴隷を愛でてやりたくなった。
考える、なんかないかと。
「……」
ふと気づく、オリガが動いてるのを。
リュックの中から小さな弓を取り出して、構えてまわりをみる。
みてるだけじゃない、軽く殺気のようなものを出してる。
構えてるのがただの弓じゃない、ほとんどエターナルスレイブ専用にした改造弓・グラディックなだけあって、見た目はかわいいがちゃんとした戦闘力があるはずだ。
「それを持ってきたのか」
「母が言ってた。ご主人様が考え事をし始めたら邪魔が入らないようにしないといけない。そのための道具、なの」
母親の教えを律儀に守ってるらしい。
ますます愛らしい。
「はっ!」
感心してたら、オリガが可愛らしいかけ声とともに矢を放った。
放った矢は途中で分裂してとんでいき、白い毛虫に突き刺さった。
「ふう……」
とうのオリガはと言えば、しっかり命中してモンスターを倒せたことに一息ついた。
その時に見せるほっとした様な笑顔が年相応で愛らしかった。
「オリガ、危ない」
「――!」
蜂の巣にされた毛虫は死んでいなかった。
地面に倒れてたのがいきなり飛び上がって、オリガに向かって飛びかかってきた。
おれはオリガの手を引っ張った。
それでエルーカーの猛突進をかわしたオリガが矢をつがえて、うつ。
連続で撃った。つがえて撃つ、つがえて撃つ。
放った矢が次々と空中で分裂して、エルーカーを貫いた。
蜂の巣にされたエルーカーは今度こそ絶命して、体が溶けて白い毛だけになった。
「ごめんなさいご主人様、油断した、です」
「気にするな」
「あっ……ご主人様からもらった服が」
オリガの表情が陰った。
おれの奴隷のトレードマークとも言える草色のドレス、エターナルスレイブのエルフ的な見た目によく似合うドレスが破けていた。
エルーカーの突進にかすってやられたんだろう。
「服はいい怪我は?」
「大丈夫、です」
「そうか。じゃあ新しい服を作るか。せっかくエルーカーの毛が山ほどあるんだしな」
おれがそう言うと、オリガは自分の奴隷カードを取り出した。
「何をつくりますかご主人様」
「いい、しまってろ」
おれはそういってDORECAを取り出した。
オリガが驚く。
「どうしてもってるん、ですか?」
おれはにこっとして何もいわなかった。
本当においてくるわけがない、新天地で何が起きるかわからないし、力の源を手放すはずがない。
「それよりもオリガ、何かリクエストはないか?」
「リクエスト、ですか?」
「ああ、なんでもいい。作れるものなら作ってやる。言ってみろ」
「……」
オリガは考えた。
首をひねって一生懸命考えた。
考えたけど、思いつかない様子だ。のぼせて今にも頭から煙を噴きそうな勢いだ。
「思いつかないか」
「ごめんなさいご主人様」
どうやらおねだりは得意ではないらしい。
エターナルスレイブは総じてそういう傾向はあるが、オリガはその中でも筋金入りみたいだ。
「ならこっちが決める」
メニューを開いて、リストを確認。
最近はニーナに開発を任せてて、毎日のように新しく作れるものが増えてる。
それを確認する。
その中で一つ、面白いものをみつけた。
「オリガ。奴隷にものすごくふさわしい服があるが、それでいいか?」
「……はい!」
奴隷にふさわしい服と聞いて、オリガは目を輝かせた。
☆
「お戻りですか国王陛下――えっ」
町の建設予定地に戻ってくると、出迎えたネストルがキョトンとなった。
おれの隣にいるオリガに、信じられないものをみたような目を向ける。
「そ、それは?」
「奴隷に着せる、次世代制服候補の一つだ」
おれはわざと大げさに言った。
それはある意味あってるけど、大げさに言ってる。
「奴隷様の制服ですか」
「ああ、似合うだろ」
「はあ……いわれて見ると使用人の服装だから、国王陛下の奴隷としてはあっているのかもしれませんが……」
そう言いつつも微妙に納得しがたいって顔をするネストル。
ま、気持ちはわかる。
何しろ今のオリガが着てる服は――メイド服だ。
白と黒をベースにした、エプロンとフリルが多めのメイド服。
「よかったなオリガ、奴隷にあってるってよ」
「ご主人様のおかげ、です」
――魔力を10,000チャージしました。
口ではそう言いながらも、メイド服の子供エルフはとびっきりを笑顔をしていた。




