奴隷の勲章
おれはミラと一緒に歩いた。
イリスの泉から出発して、一直線に進む。
黙々と歩く、ミラも黙々とついてくる。
二人で歩くこと約五分。
「おっ」
「どうしたんですかご主人様」
「こっちに来てみろ」
後ろからミラがやってくる。
「あっ」
「わかるだろ」
「はい」
ミラは自分が立ってるところの前と後ろを交互に見比べた。
まるでそこに見えない線が引かれてるかのように。
「こっちとこっち」
おれはその見えない線の上で反復横跳びした。
「こっちにいるとなんかほっとして、こっちにいるとなんか不安になる」
「はい」
「つまりここまでがイリスの泉の効果範囲なのか。もうちょっと歩くぞ」
「はい!」
ミラを連れてさらに効果範囲を確認する。
中心から徒歩五分……300メートルを半径にした円が効果範囲みたいだ。
つまりこの効果範囲の中で町を作るってことだ。
そのためには、魔力は必要だ。
「メニューオープン」
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アキト
種別:フロンズカード
魔力値:2016
アイテム作成数:58
奴隷数:2
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魔力が大分減ってる。そんなに残ってない。
人が増えたから一気に家を作ったのが響いた。
一気に作ったけど、家は足りてないんだよな。
もっと魔力を増やさないと。
おれはミラを見た。
「どうしたんですか、ご主人様」
首輪をつけてるエルフ的な見た目の女の子。
おれの奴隷。
笑ったり喜んだりするとおれに魔力をチャージする愛らしい奴隷。
「ミラ」
「はい」
「なにかほしいものはあるか?」
「ほしいものですか?」
「そうだ。なんでもいえ、作ってやるぞ」
「ええっと……」
ミラは考えた。
首をかしげてうんうん唸った。
「特に……ありません」
「ないのか」
おれは困った。
喜ばせるために何かを作ってやろうと思ったけど、何もほしいものがないのは困る。
「本当にないのか? 遠慮なんかしなくていいんだぞ」
「本当にないです。その……」
「うん」
ミラはうつむき、もじもじしながら言った。
「こんなに素晴しいご主人様の奴隷でいられるだけで充分ですから」
――魔力が1000チャージされました。
言った直後魔力がチャージされた。
今までの経験だと笑ったり嬉しくなったりする時に魔力がチャージされるらしい。
今のチャージは嬉しくなったからだろう。
その言葉を言って、嬉しくなった。
……顔が熱い。
「……」
「ご、ごめんなさい。わたし生意気なことを言っちゃってますよね。奴隷のくせにご主人様の命令に逆らってそんな事を言っちゃダメですよね。えっとえっと、ほしいもの……ほしいもの……」
ミラが大慌てで考え出す。
おれが聞いた「ほしいもの」をなんとかして見つけようと努力してる。
健気だ。
その姿を見てますます顔が熱くなった、耳の付け根まで熱くなった。
「ミラ」
「は、はい」
「その事はもういいから」
「ごめんなさい、本当にすぐに見つけますから」
「いいから、それよりも仕事。イリスの泉の効果範囲を確認して、地面にわかりやすく線を引いてくれ」
「――わかりました!」
ミラは大喜びで頷き、近くに落ちていた木片を拾って、範囲を確認しつつ地面に線を引き出した。
――魔力を5000チャージしました。
おれはちょっと困った。
恥ずかしいのをごまかすために無理矢理仕事を振ったんだけど、それで魔力がチャージされた。
つまり今のもミラには嬉しい事。
「もしかして……」
おれはある可能性を思いついた。
「ミラ、家に戻ってる、終わったら戻ってこい」
「はい!」
家に戻って、メニューからフロンズカードで解禁された「紙」を作って、その紙でメダルを折った。
折り紙のメダル、出来映えは普通……いやそんなに良くない。
幼稚園児なみの出来映えだ。
できたところでミラが戻ってきた。
「ご主人様、お仕事終わりました」
「おわったのか? 引いた線はどんな感じになった」
「ぐるって一周して、最初と最後が繋がりました」
「そうか、よくやったな」
「はい」
「じゃあこれをやる」
といって、今折ったメダルを渡す。
「これは……?」
「仕事をちゃんとやったからな、ご褒美だ」
おれはそう言った。
奴隷としておれの役に立ちたいって思うミラ。
ならば仕事の褒美という名目はどうなんだろうかと。
……わざとらしいか?
そう思って、ちょっと不安になったから付け加えた。
「それを十個集めたら特別な奴隷にしてやる」
特別な奴隷ってなんだ、って自分でもおもったけど。
「ありがとうございます!」
――魔力を100000チャージしました。
「うお!」
効果は抜群、思わず声が出るくらいの量がチャージされた。




