奴隷ちゃんと大人達
リベックを出て、ゆっくり歩く。
かなり遅いペース、のんびりと散歩する、ってペース。
この世界でこのペースで歩いた事はあまりない。大抵はどこかに急行して荒野を駆け抜けたり、最近は列車が出来たからそれを使うことが多い。
……うずうずする。
荒れ果てた大地を見てると、うずうずして、どうにかしなきゃって気になる。
「どういうのがいいんだ?」
気を抜くとハイスピードスローライフになりかねないから、横を向いてネストルに聞いた。
「どういうの、とは?」
「どういう所に住みたい? どういう農村? を作りたい? どういう生活を送りたい。まあ、そのあたりかな」
「……………………競争がない生活を」
「うん?」
だいぶ長い間を開けて、ネストルはそう答えた。
「競争のない生活?」
「はい。国王陛下のおかげで国はゆたかになりました。働けば働くほど生活がよくなり、皆が頑張って働きました。しかし、頑張りが過ぎて、皆がこぞって働いて――少ない働き口を奪い合うようになりました」
「……なるほど?」
そんな事になってたのか。
たしかにそこは注目してなかった。
宮殿の執務室、黒板にあるユーリアメーターは「衣」「食」「住」の三つのパラメータしかない。
仕事の需要なんてどこにもない。
仕事は産み出してるつもりだ、公共事業として。
だが量の事まではまったく考えてなかった。
今度ユーリアに聞いてみよう。
まあそれはともかく、とネストルを見つめる。
ネストルは更にいう。
「その競争について行けなくなりました。かといって、リベックに住み続けるのも……国王陛下のおかげで衣食住は確保されてますが、まったく働かないというのも……あの町ではまわりの目がつらすぎます」
「なんで働かないのか? って見られるのか」
無言で頷かれた。
なるほどな。
「わかった、参考にする」
どこまで参考になるのかわからないけど、一応な。
「おわわ!」
背後から幼い声が聞こえてきた。
振り向く、そこにオリガと他の大人達がいた。
オリガはでっかい家を担いでる。
DORECAで作ったもの、とりあえず必要になるかも知れないモノばかりを詰め込んだ家。
おれの奴隷で奴隷カード持ちのオリガはそれを持てる。
三歳くらいの見た目で、自分の十倍から二十倍のでっかい「家を担いでる」。
異様な光景だが、オリガはそれをやってのけてる。
――のけていたんだが。
ビューー。
「わわわ!」
風が吹いて、オリガがよろめく。
家自体は重量無視でもてるが、風に吹かれてよろめく。
でっかい風船を持ってるけど風に苦労する、それと同じだ。
「奴隷ちゃん奴隷ちゃん、それおいて、おれ達が持つから」
「そうだぞ奴隷ちゃん、ここは大人に任せて、な」
まわりにいる大人達がオリガにいう。
絵面的に放っておけないんだろう。
「大丈夫、なぜなら私は奴隷だから」
一見まったく理由になってない理由でオリガが断る。
まあどのみちオリガが持つしか無いんだ。
あんなもの――。
「んああああ!」
「ふんぬーー!」
「はあ、はあ……重い」
「王様の奴隷ちゃんってすごいんだな……」
――おれの奴隷でもなきゃ、大人十人がかりでももてないんだから。




