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母娘剣

 リベックの外、ゴミ山から少し離れた場所で。


 おれはブラックカードのDORECAを取り出して、動画機能でそれを確認した。


 空中に浮かぶパネルが映し出すのは密閉された空間。


 空間の中に木の家とか、山積みのプシニーとか、初期から作ってきたアイテムがある。


 それらのサイズから推測するに、テニスコートくらいの広さ、高さは十メートルくらいある密閉空間だ。


 完全に密閉されてるらしきそれの壁から火が噴き出された。空間はたちまち炎に満たされた。


 炎の勢いは凄まじく、まさしく轟炎と呼ぶにふさわしいものだ。


 炎が中にあるものを燃やし尽くした。


 素晴しい光景だ。何しろ燃えかすどころか、燃えてる最中も一切煙が出てない。


 炎が収まった後、密閉空間にあるのは完全なる無。


 空間だけがそこに残ってる。


「こいつにゴミを放り込めば全部燃やせそうだな」


 まさに今、おれが一番欲しい機能を備えたものだ。


 それに満足して、DORECAをしまって、真っ正面に待機してる奴隷たちを見た。


 エルフの外見をした奴隷は十二人。首輪をつけたおれの奴隷全員集合だ。


 12人は2列に並んでる。


 前の列は母親奴隷の六人、後ろの列は子供奴隷の六人だ。


「ユーリア」


「うん」


 呼ばれたユーリアは一歩前に進み出る。


「ヴェラをつれて、今見たヤツを建てるのにあった場所を見つけて来い。離れた、開けた場所がいい。万が一なんかあった時に町に被害が及ばないようにだ」


「ここから北にちょっと行ったところにはげ山に囲まれた場所がある」


 ユーリアはすぐに候補を出してきた。


 流石だ。


「そこでいい。先行して泉作ってこい、あとこいつの魔法陣だ、ブロンズで作れるはずだ。それを貼ったら建設場所が矢印で辿れる」


「わかった」


 頷くユーリア。いつも通りもの物静かを通り越して寡黙だが、奴隷としての安心感・安定感がある。


 次の命令を下す。


「リーシャ、そしてリリヤ」


「はい」


「待ってましたの」


 第一奴隷と第四奴隷が同時に一歩進みでた。


「お前達はシャスリとヴェラをつれて線路張りだ。既存の線路は使わない、ゴミ運搬専用の線路を作れ。各町からユーリアがさっき言ったリベック北のはげ山につないでくれ」


「わかりました」


「チビ達、行くですの」


「ミラ」


 母親二人組に頷き、今度はミラを呼んだ。


「うん」


「お前はイリーナと一緒にニーナの所だ。既存の列車じゃなくて、ゴミ運搬に適した列車の開発をやらせろ。ものがものだから多分そんなにかからん」


「こっちが一番キツいじゃん」


 と言いつつもミラの顔はちょっと喜んでる。


 ここ最近そうなってきてる、ニーナの扱いは彼女の専門になってるから。


 自分専用の仕事だと、エターナルスレイブは普通の仕事以上に喜ぶようだ。


「ライサ」


「うん」


「ベラも?」


 ライサと娘のベラが同時に前に出た。


 パターンがわかってきたみたいだな、奴隷達にも。


 おれは満足げに頷き、言った。


「二人は各町を回ってお触れをだせ。これからのゴミは『解体』できるものとそうじゃないものの分別をする様にって」


「今までのものも分別させた方がいい?」


「そうだな、やってくれ」


「わかった」


 かつて虐げられた、しかし今はすっかり笑顔を覚えたライサとその娘が頷く。


 そうして、命令を受けた奴隷が次々と動き出した。


 五組の母娘奴隷、命令を遂行するためにこの場から離れる。


 残ったのは、スベトラーナ母娘。


「ご主人様。わたし達は何をしたらいい」


「なんでも出来る」


 同じような口調でおれに聞く。


 母娘奴隷の中でも一番似たもの同士の二人は、仕事くれくれ、と言わんばかりの目をしてた。


「二人はおれと一緒に素材狩りだ」


「足りない素材があるのか? ……我々が必要な程の強敵だと言うことか」


 固唾をのんで、気を引き締めるスベトラーナ。


「そうじゃない、ついでに試したいことがあるだけだ」


「ついでに試したいこと?」


「ついて来い」


 ご主人様の命令に疑問を唱えなかったが、スベトラーナ母娘は不思議そうな顔をしておれの後についてきた。


     ☆


 母娘をつれて荒野を進んだ。


 荒野とはいうが、変化が少しあった。


 前のような完全な荒野じゃない。


 あっちこっちに雑草がちょっとずつはえてくるようになった。


 世界は少しずつ回復している――が、遅い。


 全然遅い。こんなペースじゃ自然任せの再生を待ってたら数年単位で時間が必要だ。


 やっぱりおれがやらないとな。


「ご主人様、光が」


「うん?」


 スベトラーナがおれの懐をさした。


 指摘通り、そこが光り出した。おれがもって、ちょっと前に手に入れた真なるラーバの魂がそこに入ってる。


 同時に背後から光の矢印がおれを――ラーバの魂をさした。


「ユーリアが魔法陣をはったんだな。これで帰り道も向こうも居場所もわかる」


 DORECA・奴隷カードがはった魔法陣は一番近くにある必要素材に向かって矢印の伸ばす効果がある。


 今もそうだ。ユーリアがはった魔法陣、つまりゴミ焼却炉の建設予定地に魔法陣をはって、そこから光の矢印がここまで続いてるってことだ。


「そうか、そのためにあらかじめ魔法陣を……。すごいなご主人様は、魔法陣の矢印にこんな使い方があるなどと思いもしなかった」


「ちょっとした応用だ。大した事じゃない」


 本気でそう思う。一番奴隷歴の長いリーシャあたりならこの使い方がわかってるはずだ。


「わたしでは一生思いつかなかっただろう。ご主人様がこの力をもった――預かった理由がよく分かる」


「ご主人様じゃなかったら、ダメだったかも」


 スベトラーナだけじゃなくて、娘のオリガも母親の言葉に同意した。


 母娘の二人しておれを褒め称える。


 割と慣れてきた褒める言葉だが、母娘奴隷に同時に言われるのは新鮮だ。


 悪い気はしない。


 本当にそうかもしれないとも思う。


 ――おれしか出来ないこと。


 実際同時に召喚されて、異世界に転移してきた聖夜が完全失敗に終わったのだ。


 おれしか出来ないってのは証明されてると言ってもいい。


 聖夜、か。


 もういない男の事をなんとなく思いながらしばらく歩いてると、谷のような地形の場所にやってきた。


「ここなのか?」


「ああ」


「しかしご主人様、矢印が追いついてきてないが。必要素材ならここにもう一本の矢印があるはずだ」


「それは後で何とかする。まずはこっちだ」


 といって、真・エターナルスレイブを持った。


 母娘をつれて来たのはちょっとした期待があってのことだ。


 期待、そう、期待。


 同時に母娘を剣に取り込んだら何かが起きるんじゃないかっていう、期待。


「今から戦う。お前達の力を借りるぞ」


「喜んでっ」


 スベトラーナを取り込んだ。


 剣についてる宝石が輝き出す、緑色の輝き、スベトラーナの首についてるものと同じ色の輝きだ。


「次、オリガ」


「わかった」


 娘のオリガを取り込んだ。


 その状態でしばらく待った。


 何もしないで、そこで待った。


(ご主人様?)


(いかないの?)


 うーん、何も起こらないのか。


 母娘だったら何かあると思ったんだけど。


 どうやらないみたいだ。


 ま、ないんなら仕方ない。


 ――と思っていたら。


(あれ?)


 オリガが声をあげた、なにかに驚いたような声。


「どうした――って、むっ」


 おれも思わず声を上げた。目の前に起こったこと、剣の変化に驚いた。


 真・エターナルスレイブについてるスベトラーナの宝石からにじみ出た。


 それがおれの体を包み――鎧になった。


 色のついたつむじ風のような感じで、見るからにふわふわしてるけど、間違いなく鎧って感じのするもの。


 いわば――風の鎧だ。


「これって……」


(オリガだよ)


 鎧が喋った。


(オリガ? あなたそれは)


 奴隷剣スベトラーナもしゃべった、こっちは驚いてる。


 なるほど、そういうことか。


 母親は剣の中に残ったまま、娘が鎧に化けた。


 おれは満足した、起きたことに。


「狙い通り、だな」


(そうなのかご主人様)


「何となくこうなるんじゃないかって思ったんだ。母娘を同時に真・エターナルスレイブに取り込んだらなんか起きるんじゃないかってな。それをやろうとしてお前達をつれてきたのだ」


(そうだったのか……ご主人様はすごいな。その発想はまったくなかった)


(ご主人様、すごい)


 感嘆しつつ、おれを褒め称える母娘。


「これを試すぞ、二人とも」


(喜んで!)


(オリガに任せる)


 ――魔力を100,000チャージしました。


 ――魔力を10,000チャージしました。


 奴隷剣の新しい運用パターン――母娘を同時に愛でてやれるパターンを得たおれは、その興奮で手に汗がにじむのを感じたのだった。

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