都市衛生
目の前にいるのは、アンナを初めとする村人達。
全部で十戸、二十人に満たない小さな村。
それが全員総出でおれの前に立っていた。
「ありがとうございます」
アンナがまず頭を下げて、他の村人も頭を下げた。
見渡す限り、DORECAで作ったものばかり。
住む家、食糧が入った倉庫、みんなが着てる服。
全部がDORECA製だ。
それは今まで村人が使ってたものよりも品質が高くて、心なしか、全員がホクホク顔をしてる。
「王様のおかげです」
「気にするな。それよりもプシニーがなくなったら連絡をよこしてこい。近いうちにココにもレールをはって列車を使える様にするから、それを使うといい」
「列車、ですか?」
首をかしげるアンナ、列車の事がわからないらしい。
「実物を見ればわかる」
「わかりました。本当にありがとうございました」
もう一度頭を下げるアンナと村人。
手を振って、立ち去ろうとする。
村の入り口に待ってる子供奴隷六人……はおれの方を見てなかった。
みんなで一カ所に集まって、何かをしてる。
「どうしたんだ?」
「あ、ごしゅじんしゃま」
すっかり子供奴隷のリーダーに収まった長女のシャスリがこたえる。
「ごみそうじです」
「ゴミ掃除?」
「うん!」
子供奴隷達の肩越しにのぞき込んだ。
そこにはいくつかの木材の様なものがあった。
銭湯や倉庫を作った時にまず木の家を作って、それを一部剥がした木材だ。
それを、ヴェラが奴隷カードを使って「解体」してる。
「なるほど、DORECAで出したゴミだからDORECAで消せるのか」
「うん!」
なるほどな、とおれは思いながら、奴隷カードの魔法でゴミを消していく子供達を見守った。
☆
子供奴隷と荒野を歩く。
アンナの村からリベックに戻る道中、子供達はおれの前を歩いてる。
何人かは手をつないで歌を歌う。
何人かはあっちこっちに興味をもって、リリヤの娘のアリサなんかはたたたと明後日の方向に走ってったと思ったら、石を拾い上げてそれをまじまじと見つめた。
仕事を言い渡してない時は年相応の子供、幼稚園児に見える。
それと仕事する時の子供奴隷、どっちがよりいいのかなと何となく考えた。
「オリガ」
「はい」
スベトラーナの娘、オリガがまっすぐおれを見あげた。
「椅子を作れ、魔力生産でいい」
「わかった」
オリガが奴隷カードを出して、十倍の魔力を払って丸いすを作った。
木で出来た丸いすを荒野の上に置く。地面が平坦じゃないからぐらぐらする。
それを気にせず座った。
「それから……イリーナ」
「うん」
「肩を叩いてくれ」
「……うん!」
――魔力を5,000チャージしました。
一瞬きょとんとして、それから目を輝かせておれの後ろに回った。
おれの肩を大喜びで叩くイリーナ、それを羨ましそうな目で見る他の五人。
微妙に手が届かないから背中をペチペチ叩いてるような状況になってるけど、それはどうでもいい。
……それはそれでかわいいけど、この際どうでもいい。
こどもでもエターナルスレイブ、奴隷だ。
ちゃんと何かをやらせた方がいいと思った。
おれはすっくと立ち上がった。
真・エターナルスレイブの宝石を触れて、六人を取り込む。
(ごしゅじんしゃま?)
聞いて来るシャスリ、他の五人も同じように不思議がってる気配が頭の中に感じる。
「こっちの方が早い」
やっぱり不思議そうになる六人。
「急いでリベックに戻って――仕事をするぞ」
言った直後、全員から魔力がチャージされた。
☆
夕日がほとんど沈みかけたリベック郊外。
戻ってきたおれはよく知ってる姿を遠目に見つけたから、町に入る前にそこに立ち寄った。
「リーシャ」
(おかあしゃま)
付き合いが長くて、シルエットだけでわかった。
そこにいたのは第一奴隷のリーシャだった。
エターナルスレイブを作った時に「奴隷の贈り物」として切った髪はすっかり伸びて元に戻ってて、奴隷の中で一番「エルフっぽい」外見に戻ってくる。
「あっ、お帰りなさいご主人様」
「ただいま。何をしてたんだ?」
「えっと、ゴミ処理です」
「ゴミ処理?」
首をかしげる。
リーシャが自分の背後をちらっと見て、おれもそっちを見た。
当たりがかなりくらくなってるからわかりつらかったけど、そこにあるのは大量のゴミだ。
ゴミの山である。
「……こんなにあるのか」
ちょっとびっくりするくらいの多さだ。全体を見渡せないくらいの量――野球場一つ分くらいの量はある。
「こんな所にゴミの山があったのか」
「はい、リベックのゴミはぜんぶここに運ばれてきます。それでわたし達はたまにここに来て、DORECAで消せるものを消してるんです」
(しゃすりのはおかあさんから教わったんだよ)
なるほど、それでか。
「ご苦労、続けてくれ」
「はい!」
リーシャはゴミの処理にもどった。
半分に割れた木の家があった。あきらかにDORECAで作られたそれを「解体」で消した。
そのほかにも色々あって、次々と消してくリーシャ。
それをしばらく見守ってから、リベックに戻っていく。
町に入った頃にはすっかり日が暮れてよるになった。
夜のリベックはそれでも賑わっていた。
大通りなんかはいくつかの屋台があって、一日の仕事を終わらせたであろう男達が飲み食いして盛り上がってる。
それはいい、どんどんやればいい。
が、問題がある。
子供奴隷達がやったこと、リーシャがやったこと。
それを見てきたから気づくようになった。
町が……汚い。
あっちこっちにゴミがある。
散乱してるって程じゃないが、積み上げられてる。
おそらくは運ぶ前のゴミだ。
一人の町民がちょうどその横を通った。鼻を摘まんで足早に通り過ぎた。
これは――対策しないとな。
☆
リベック宮殿、執務室。
おれはユーリアを呼び出した。
「現状のゴミの状況はどうなってるんだ?」
「状況……」
「多さで表現してくれ」
「……じゃあ、こう」
ユーリアはいつも通りの乏しい表情で黒板に向かった。
そこにあるリベック街の衣食住ゲージ、その一番下にゴミって付け加えた。
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リベック
衣 ■■□□□
食 □□□□□
住 ■■■□□
ゴミ■■■■■
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「おいおい。大変なことになってるじゃねえか」
「もっと正確にすると……こう」
そういって、ゴミの所にさらに付け加える。
四角を一つ、二つ、三つ……五段階評価なのに8になった。
「おいおい……他の町は?」
「こう」
「ほとんど7か……ゴミ問題を解決しないといかんな。放置したらそのうち衛生問題――病気が流行ることになる」
「万能薬を大量につくればいい」
「病気なんてならない方が一番だ。それに病気にならなくても町があんなのになってるのは見過ごせん」
世界再生するのにゴミを放置するのはあり得ない話だ。
「ゴミ処理」
「順当に行くと燃やすか埋めるか」
「海に捨てるか?」
「なんの解決にもなってないな」
苦笑いする。それは本当に意味がない。
「埋めるのもアレだし、燃やすか」
「あんなに大量に燃やすの、大変。毎日増え続けるから……コンロを作ったとして、ラーバの魂が1000個以上欲しい」
「うん?」
「え?」
「ラーバの魂?」
「そう。コンロとか、銭湯のボイラー? とか。そういうの作ってゴミを燃やすと、規模的に1000個は欲しい。だから大変。魔力生産すると一気に空になる」
ユーリアは難しい顔をした。
その辺の数字をわかってる人間としての苦悩だ。
が、おれは違う。
それを解決する切り札を手に入れたばかりだ。
「焼却炉を作る。手が空いてる奴隷を全員集めろ」
ユーリアは首をかしげながらも、おれの命令に従って奴隷を集めに部屋から出て行った。




