新しいご主人様
村作りしてる最中、遠くからドドドドド、という音が聞こえた。
何の音なのかと首をかしげて、まわりをきょろきょろしてると。
「お、お、王様!」
アンナが慌てた様子で走ってきた。
途中でつまづいて転んでしまって、膝をすりむいてしまった。
「あいたたた……」
「大丈夫か? ほら薬だ、飲んどけ」
常備してる万能薬を差し出した。
「え、でも」
「いいから」
遠慮するアンナに強く言ってやった。
アンナはおずおずと申し訳なさそうに頷いて、万能薬を受け取って、飲んだ。
すりむいた膝がみるみるうちに治り、跡も残ってない。
「ありがとうございます王様」
「それよりなんのようだ? そんなに慌てて」
「そうだ! 王様! なんかすごく大きい鉄の塊が迫ってくるんです。見た事ないですけど、多分モンスターだと思います」
「大きい鉄の塊?」
眉をひそめて聞き返す。
そういえばドドドドド、という音がまだ鳴ってる。
「ああ、そういう事か」
音とアンナの説明で理解した。
「それは戦艦だ、モンスターじゃない」
「戦艦?」
「ああ。おれが作った――武器だ。モンスターとかと戦うためのな」
「そ、そうなんですか」
「マイヤが来たのか? ちょっと見に行ってくる」
「あっ、わたしも行きます」
アンナが慌ててついてきた。
村を横断して、新しく作ったイリヤの泉の効果範囲ギリギリまで出てきた。
すると、戦艦リーシャが見えた。
巨大な体で道をならしながら、山を登ってくる。
かなりの偉容だ。
その証拠に、村人は総出で出てきて、ぽかーんとした顔でそれを見あげてる。
おれは前に進み出た。戦艦リーシャが止って、しばらくすると中からマイヤが出てきた。
「アキト!」
マイヤが入り口から現われて、ダッシュでおれの所にやってきた。
なんだろう、普段の彼女に比べるとかなりテンションが高い。
「どうした、いきなり来て」
「アキトに話したいことがあるのさ。いい知らせとどうでもいい知らせ、どっちから先に聞く?」
「斬新だな。その二つならどうでもいい知らせからだな」
エビフライは最後まで取っておく派だ。
「そうか」
一瞬で落ち着くマイヤ。
「ミドロファンの残党を殲滅してきた、副砲斉射で片付いた」
「そうか。確かにどうでもいい情報かもな」
殲滅すると決めた瞬間、連中の生死の重要度はそれくらいまで下がった。
別の意味でも、あの程度の連中に戦艦リーシャをのったマイヤたちがやられる訳がないから、やっぱりどうでもいい情報だ。
マイヤが伝えてきたのは確かにどうでもいい知らせだった。
と言うことは、いい知らせもいい、のかな?
「いい知らせは?」
「できた」
「なにか?」
「できたんだよ」
一転、現われた時と同じテンションではしゃぎはじめるマイヤ。
にしても……何が出来たって言うんだ?
そんな事を考えてるうちに、マイヤが出てきた入り口からヴェラが現われた。
伝令に言った子供奴隷はおれのところに走ってきた。
「ご主人様」
母譲りの冷静な表情でおれの前に立ち止まる。
「伝えてきた」
「よくやった」
褒めると、ヴェラの口角はわかりにくくびくっとだけ動いた。
――魔力を3,000チャージします。
まあ、バレバレなのだけど。
おれは手を伸ばしてヴェラの頭を撫でようとした。
「――っ!」
伸ばした手が止った。
ぎぎぎ、とマイヤの方を向く。
まだテンションの高いマイヤ。
そうか、そういう事か。
「デキたのか!」
「そうさ! アキトの子ができたんだよ」
「そうなのか!」
「そうさ!」
できた――デキた。
子供が――できた。
マイヤとその仲間達、戦艦リーシャを預かる親衛隊。
おれに「全員孕ませとくれ」とせがんできて、それをかなえた女達。
それが……できた。
奴隷達の時とは違う感動がある。
どっちが上かじゃない。
特上寿司と高級和牛みたいなもんだ。
「しかも三人! 三人孕んでたよ!」
「おおお……」
ものすごく感動した。
舞い上がった。
「ねえねえシャスリ、どういうことなの?」
「ごしゅじんしゃまの子供ができるの」
「ご主人様と人間さんの子供だから、おぼっちゃま?」
「それかお嬢様だ」
「新しいご主人様なの、わくわくなの」
子供のことで舞い上がったおれは、同じ子供ながらとてもエターナルスレイブらしい奴隷達の発言を聞き逃していた。




