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普通の主従、普通じゃない親子

 夜、村外れの平屋。


 おれと、六人の子供奴隷が家の中にいた。


 子供達はひとかたまりになって寝ている。身を寄せ合ってるように見えて、ちょっと微笑ましい。


 外の気配を探りつつ、六人を眺めた。


 おれも……この世界に染まってきたなあ、と何となく思ってしまう。


 子供奴隷、エターナルスレイブが産んだ新しいエターナルスレイブ。


 おれの子供であり、奴隷でもある。


 ところが、おれの認識では「奴隷」って認識の方が強い。


 あまり自分の子だ、という認識はない。


 彼女達に関しては「六人の子供奴隷」か、「六組の母娘奴隷」という認識が強い。


「実の親子なのにな」


 思わず自嘲気味につぶやく。


 昔エターナルスレイブの事を(愛らしいと思いながらも)変だと思ってた。


 ご主人様の命令で過労すら名誉とし、子供と一緒に奴隷になりたがる。


 その考えを心のどこかでおかしいと思ってた。


 ところがふたを開けてみれば、おれも我が子を奴隷として見てる。


 奴隷王は伊達じゃない、なんてつい思ってしまう。


「ご主人様」


 六人のうち一人が起き上がった。


 ヴェラ、ユーリアの娘だ。


 他の五人が舌っ足らずな中、一人だけはきはきと話す、ちょっとおしゃまな感じのする子だ。


 そして小柄――というか子供体系なユーリアとは並んでると親子ってより、姉妹に見える。


「どうした」


「ご主人様は寝ないの?」


「ああ、もう少し起きてる」


「何か待ってる?」


「待ってると言えば待ってるな」


「……敵?」


「なんでそう思う?」


「剣を手放さないから」


「賢いなヴェラは」


 言葉で褒めて、手を伸ばして頭を撫でた。


 ヴェラは顔を赤くして恥じらった。


「その通りだ、敵を待ってる。だからこの家を村の入り口に作ったんだ。人が通れる道で村に入ろうとしたら必ずここを通るからな」


「そうなんだ」


「ミドロファンの残党はまた何回か来るって予想してる。様子見するにしてもな」


「母から聞いた」


 ヴェラが真顔でいう。なかなか子供っぽくない、天才児の風格漂う喋り口調。


 どことなくユーリアに似てる。


「ご主人様は出来るだけああいうのは殺さないことにしてるって」


「そうだったが、この村に来て気が変わった。そいつらを助けて野放しにしとくとそれ以上の人間が犠牲になる。町も村もメチャクチャにされる」


 そこまで言ってから、気づく。


 子供にする話じゃないな、って。


「ヴェラ」


「はい」


「喋りすぎて喉が渇いた。茶を淹れてくれ」


「わかった」


 ――魔力を5,000チャージしました。


 ヴェラは立ち上がって、部屋の隅にある簡易キッチンに向かって行った。


 この家はセーブ・ロード機能でまとめて生産した建物。家としての機能は一通り備わってて、道具も必要分用意されてる。


 ヴェラは小さな体で、うんしょうんしょ言いながら湯を沸かして、お茶を淹れようとしてる。


 おしゃまでも賢くても、体はまだまだ子供だ。


 その姿は見てて微笑ましい。


 とはいえ手伝おうとは思わない。


 好きな様にさせた。


「お待たせしました」


 しばらくして、湯気立つお茶を淹れてきた。


 それはおれを受け取って――口をつけない。


 外から気配を感じたからだ。


 かつてヴェラの母、ユーリアをきっかけに身につけた気配感知能力。


 五……いや六人か。


 おれはお茶を置いた。


「ご主人様?」


「すぐ戻る」


「飲まないんですか?」


「あとで飲む――甘い物を用意しとけ」


 ――魔力を5,000チャージしました。


「はい!」


 頷きヴェラをおいて、おれは外に出た。


 遠くからたいまつの火が見える、それが徐々に近づいてくる。


 村に続く道の真ん中で仁王立ちした。


 ミドロファンの残党が現われた。


 気配で感じたとおり、全部で六人だ。


 おれは眉をひそめた。


 全員が馬に乗ってて、何人かは馬の上にぐったりしてる女を荷物のように乗せてる。


 なんかの戦利品、って感じがした。


「てめえ、アキトか」


 男の一人がおれの名前を呼んだ、他の男がざわつく。


「お頭もヴィゴッチも戻ってこないって思ったら……まさかてめえが?」


「……一度だけいう。心を入れ替えて真っ当に暮らせ。おれの国でなら衣食住に困ることはない」


「ほざけ!」


 男が肉厚の刀を抜いて斬りかかってきた。


 真・エターナルスレイブを横薙ぎにふる。刀ごと男を真っ二つにした。


 次々と襲いかかってくる男達を切り捨てた。勧告は済んだ、これ以上の手心は加えない。


 加えたら。


「く、くるな。来たらこの女の命はねえぞ」


 最後の一人のように、罪のない人間を危険にさらしてしまうからだ。


 無言で真・エターナルスレイブを投げつけた。


 切っ先が男の肩を貫き、そのまま背後の木にたたきつけた。


 まるで大きな杭のように、男を木に釘つけにした。


 女が地面に投げ出される。苦悶に呻く……怪我も凌辱のあとも見当たらない。


 ちょっとだけほっとして、男に近づく。


「た、助けてくれ……」


「いえ、他の連中は今どこにいる」


「ほ、ほか?」


「お前ら、マラートとマクシムの残党が合流した連中だ」


「そ、そんな事を聞いてどうする――ぐあ!」


 男の顔を殴った。くぎ付けにしてる剣の傷口が開いて血が噴き出した。


「いえ」


「わ、分かった言うから、いうから」


     ☆


 家の中に戻った。ヴェラが甘い物を用意しておれを待っていた。


 甘い物を一口食べて、お茶をすする。


「あちち」


 まだお茶が冷めてなかった。


「ふーふーします」


 ヴェラが申し出たが、手をかざしてとめた。


「それよりも仕事がある」


「なんですか!」


 ヴェラは目を輝かせた。


 幼くてもエターナルスレイブだ、そこに一番に反応してくる。


 セーブ・ロードのセットで一緒に作られてた紙とペンを使って、男から聞き出した情報を走り書きする。


 それをヴェラに渡す。


「これをマイヤに渡してこい。戦艦ユーリアはここから西に行ったところに停泊してる予定のはずだ」


「わたせばいいの?」


「ここにいる連中を殲滅、とも伝えてくれ」


 それでいったん切って、口調を変えて聞く。


「夜道だが、一人で行けるか」


「大丈夫!」


 ヴェラはおれの手からメモをひったくる様にして、部屋から飛び出していった。


 夜の山道に消えていく後ろ姿はまるで「はじめてのおつかい」のようだ。


 それをしばし見て、家の中に戻る。


 そして、ちょっとだけ苦笑いする。


 普通の父親なら行かせないだろうなあ、と。


 ――魔力を10,000チャージしました。


 まあ、ヴェラも普通の娘じゃないから、問題はないか。

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