王様出張
「い、いや……こないで」
ぼろ屋の中、壁際に追い詰められた少女が怯えていた。
山間の寒村、邪神が世界中を蹂躙していた最中でも、あまりの存在感のなさによって難を逃れた名もなき村。
そこは今、一人の男とその部下に襲われていた。
男の名前はミドロファン。マラートとマクシムの部下をまとめ上げ、一勢力としてあっちこっちを荒らして回ってるものだ。
その男がいやらしい顔をして、建物の外で起きてる略奪をBGMにして少女に迫っている。
「なんもねえ村だが予想外の掘り出しもんだぜ。ちょっといもっぽいが、顔も体もわるくねえ」
「い、いやぁ……」
「安心しろぃ、おれ様は優しい。お前に本物の男ってもんと、めくるめくる女の喜びってもんをおしえてやるよ」
ミドロファンが徐々に少女に迫る。
「神様……っ」
少女は縮こまって、手を組んで祈りだした。
寂れた寒村、年端もいかない少女。
力のないものの代表格みたいな彼女は捕食される側だ。
「くっふふふ。いただきまーす」
同時に、助けられる側でもある。
「お頭!」
外からミドロファンの部下が慌てた様子で飛び込んできた。
ドゴッ! 話もきかず、ミドロファンは部下を裏拳で殴り飛ばした。
「が、がはっ……」
「おれ様言ったよなあ、これから楽しみの時間だ、邪魔をするなって」
「す、すいやせん。しかし大変なんです」
「……なんだ」
眉をひそめるミドロファンは、更に表情をかえてしまうことになる。
「奴隷の王が――」
☆
六つの宝石が煌めく真・エターナルスレイブで男の一人を切り伏せて、村の中心に進む。
全部で十軒くらいある家は半分くらいが黒い煙が立ちこめてて、残りの半分位は壁かドアがぶち破られてる。
炎上してるか、なけなしの財産を運び出されてるかのどっちだ。
「くそがああああ!」
それをやった張本人達――ミドロファンの別の部下が更に襲いかかってきた。
奴隷の剣で腰から両断する。
突進してくる勢いのまま、真っ二つになっておれの背後に転がっていく。
ザコを切り捨てていくと、唯一炎上も破壊もされてない建物の中からミドロファンが出てきた。
眉が逆立ててる、ド怒りだ。
「てめえ……なんでここにいる」
「偶然だ、あと魔法のちからでもある」
「んだとぉ?」
「た、たすけて下さい!」
怒るミドロファン。
その背後から一人の少女が飛び出してきた。
ミドロファンの横をすり抜けておれのところに来ようとする。
が、途中でつかまる。
ミドロファンにつかまって、細い首に腕を回される。
「おっと動くなよ? 動いたらこの小娘がどうなるかわからんぞ」
「人質か」
「奴隷の王様はお優しいからなあ、こういうのはきくだろ?」
「……」
「なあに、おれ様もそこまでおにじゃねえ、お前さんにも恨みはねえ。どうだ、ここは見逃すってことで手を打たねえか」
「……」
「了解ととるぜ? なあ」
「うぐっ!」
腕に力を込めた。少女は苦悶した。
受け入れないとこいつの命はない。暗にそう言ってきてる。
「その子を離せ」
「ここから無事離れたら解放してやるよ。おれ様は約束はまもるぜえ?」
「……約束は守れよ」
ミドロファンはにやっとした。
少女を拘束したまま歩き出し、おれの横をすり抜けようとした――瞬間。
風切り音が聞こえる、冷たい光が迫ってくる。
ガキーン!
奴隷剣でそいつの斬撃を受け止めた。
先手をとったミドロファン、更に斬撃が飛んできた。
不意を突かれたおれは押された。
「……逃げないのか?」
「ここでてめえを殺ったほうが良いに決まってるだろトンチキがあ!」
「なるほど」
「おっと反撃しようと思うなよ? 反撃なんてしたら――」
更に斬りかかってこようとするミドロファン――動きが止まった。
血を吐き出す、剣を取り落とす。
「な、んだ……これは」
驚愕した顔で自分の体を見る。
そこに六人の子供がいた。
半透明で、可愛らしい六人の女の子。
金色の髪に尖った耳、エターナルスレイブ。
全員が短いナイフを持ってて、それをミドロファンに突き刺してる。
「ガキだと……いつの間に」
「こういうことだ。みんな戻れ」
半透明のちびっ子奴隷が光になって、真・エターナルスレイブに吸い込まれた。
もう一度剣をふると六条の光が飛び出し、六人の子供が360度ミドロファンを包囲した。
そして、ナイフを構えて突進する。
ザクザクザク!
二度目の攻撃、累計12の穴がミドロファンの体にあく。
「が、はっ……」
信じられないとばかりに目をカッ開き、ミドロファンは地面に倒れていった。
☆
「けが人の治療を、万能薬は魔力生産でいい」
「わかった。いこうみんな」
シャスリに連れられて、ちびっ子奴隷が一緒になって駆け出した。
けが人を見つけては奴隷カードで万能薬を生産して治療する。
手際は悪いが、任せるのは問題ないようだ。
だから任せて、少女を向いた。
「怪我はないか?」
「は、はい……」
「そうか。運がよかったな」
ここに来たのは全くの偶然だった。
ちびっ子奴隷の力を実戦で試そうと、新しいカードにあるエネミーサーチという魔法で敵をさがしたらここに導かれたの。
手を差し伸べ、少女を起こす。
そうしながら村を見渡す。
何もない村だ。この世界にやってきた直後にたどりついた、マドウェイのぼろ屋よりもちょっとマシな程度だ。
「ずっとここに住んでるのか?」
「はい……あの」
「うん?」
「さっきあの人、奴隷の王っていったけど」
「ああ、言ったな」
奴隷王、そう呼ばれる事がよくある。
「もしかして……新しく出来た国の王様ですか?」
「ああ」
「そ、それじゃ……」
少女は何かを言おうとした。
切り出そうとして、口籠もって。言いたいけどいえない、そんな感じだ。
「おれの傘下に入りたいのか」
「はい……でもこんな村だし、差し出せる物が……」
「そんなのいらん」
「え?」
驚く少女、信じられないって顔だ。
「シャスリ、イリーナ、ヴェラ、アリサ、ベラ、オリガ」
大声で呼ぶ、一通り治療を終えたちびっ子奴隷が駆け寄ってきた。
「およびでしゅか、ごしゅじんしゃま」
「村はずれに家をつくれ。しばらくこの村で仕事する」
「わかりましゅた」
ちびっ子奴隷がまた走って行った。
少女に振り向く、まだきょとんとしてる。
説明よりも行動。村をまず作り替えることにした。




