奴隷キッズ
昼下がり、宮殿の中、執務室。
おれの前に第二奴隷のミラがいた。
「ニーナが道路を開発したよ?」
「道路?」
「うん、道路。よく分かんないけど、道路。なんだろうね」
「メニューオープン」
DORECAをだして、ミラが報告してきたものを見た。
カードの動画機能に表示されてるのはアスファルトような地面だ。
なるほど、道路か。
今は首都リベックも含めてほとんどが砂利道だ。
アスファルトと砂利道、どっちがより良いのかは――この世界のものにはわからないが、おれははっきりとアスファルトがいいと思う。
「素材は……ビチーム? なんだこれは?」
「モンスターの死骸から出てくるものだよ。特定のモンスターじゃなくて、モンスターだったらどんなのでも、三体に一体くらいの割合ででる」
「なるほど」
すこし考えて、ミラにいう。
「カザンのマルタに連絡して集めさせろ。ああ、国民にも布告を。持ってきたら相応の値段で買うって。値段はユーリアに決めさせろ」
「道路を作るの?」
「ああ、まずはリベック全体に敷き詰めさせる」
「わかった」
道路か。
おれの想像が間違ってないのなら、それを全面的に敷き詰めれば発展が更に加速するはずだ。
奴隷の大半をこの事業につぎ込んでもいいくらいだ。
「ごしゅじんしゃま」
幼い声がした。
ドアが開いて、危なっかしい足取りで小さな女の子が入って着た。
母親譲りの綺麗な金色の髪に尖った耳、無色の宝石がついた首輪に奴隷のワンピース。
シャスリ、生まれてから一週間も経ってない、だけどもう三歳児に見えるくらい成長した幼いエターナルスレイブ。
てこてこと、おれの元に向かってくる。
コップを乗せたお盆を持って。
足取りは危なっかしく見えるが……その分可愛いい。
ミラと一緒に、シャスリを見守った。
「はい、どーじょ」
無事おれの所にたどりついて、コップをトレイごと差し出す。
執務机の高さには届かないので受け取ってその上に置いた。
「お疲れ、よくやったな」
「えへへへ」
褒めて、頭を撫でてやる。
シャスリは満面の、無邪気な笑顔を見せた。
「リーシャは?」
「おしごとだよで、びーすくだよ」
「そうか」
「しゃすりにも、おしごと、ありゅ?」
「そうだな」
頭を撫でながら考える。ミラとも視線を交換する。
お仕事。
子供だが、シャスリは紛れもないエターナルスレイブ。
「ご主人様」
「わかってる。お手伝いよりお仕事。だろ」
――魔力を10,000チャージしました。
ミラは笑顔になった。
自分の子供でもないのに、おれの答えにものすごく喜んだ。
「なんかあるか? ユーリアがいればいいんだが」
「あのグラフ」
「ああそうか」
黒板に書かれた「衣食住」グラフを見る。
リベックにおける「食」の需要が昨日に比べて一段階上がってる。
紙を一枚産み出して、その上にさらさらとペンを走らせる。
宮殿から一番近い食料庫に行く簡単な地図を書いた。
それをシャスリに渡す。
「シャスリ。ここ、場所わかるか? おっきな倉庫だ」
シャスリはちょっと見て、大きく頷いた。
「うん!」
「じゃあそこに行ってプシニーを作って来い。倉庫が一杯になるくらい」
「これでつくりゅの?」
奴隷カードを出して聞く。
「そうだ。できるか?」
「まかせて。ごしゅじんしゃまのためにはたらくの」
ドン、と小さな胸を叩いて部屋の外に出て行った。
「みんなー、いくよー」
声が聞こえた。ドアが締まる直前、廊下に小さなエターナルスレイブが走って行くのが見えた。
シャスリと、他五人。
ちびっ子奴隷軍団が全員出動だ。
「……ぷっ」
思わず吹き出した。
ちびっ子たちがプシニーを作る光景を想像した。
奴隷カードと魔力を使って作るが、素材は土だ。
それをちびっ子達がやれば……傍から見たら砂遊びに見えないだろう。
ほのぼのこの上ない光景。
だが――。
「いいなあ……あんな小さいのにちゃんとお仕事が出来て」
ミラはそう言った。顔は本気でうらやましがってる。
それもそのはず。
プシニーの生産補充はおれの国政でも最重要要素だ。
やれそうだから任せたが、間違いなく「ちゃんとした仕事」だ。
「娘にも嫉妬か?」
「だって……」
「そんなお前にも仕事だ」
「本当に!」
――魔力を50,000チャージしました。
「ニーナの所に行って来い。今回開発した道路よりもとにかく硬い道路も作れるかどうか研究させてくれ」
アスファルトもいいが、コンクリートの道路も欲しい。
用途が違うから、両方欲しい。
「わかった!」
一瞬だけいやそうな顔をしたが、ご主人様の命令に従って、ミラは宮殿から飛び出していった。
一人になった執務室、立って窓際にきて外をみた。
ちびっ子奴隷の行進が見えた。
第七奴隷シャスリを先頭にテクテク歩いて行く。
微笑ましくて、頼もしい。
「メニューオープン」
DORECAのメニューを開く。
12人になった奴隷、カンストに張り付いたままの魔力。
国は、まだまだ発展していく。




