ブラックマックス
小屋の中に入る、リーシャが赤ん坊を抱いている。
おれを見あげる姿は母性に満ちあふれていた。
同時に、何かをせがんでるようにも見える。
「ご主人様」
「その子か」
「はい」
「顔を見せてみろ」
赤ん坊をしっかり抱いたまま、おれによく見えるように差し出すリーシャ。
母親によく似ている。目とか鼻とか口とか、パーツはまるでリーシャを小さくしてはり付けたような感じだ。
おれに似てる所なんて一つもない。
女しか……エターナルスレイブからはエターナルスレイブしか生まれない事を考えると当たり前なのかもしれない。
「かわいいな。母親によく似てる」
「ありがとうございます。それで、その……」
褒められた事はそこそこ嬉しそうだが、それよりも気になる事があるって顔をしてるリーシャ。
望んでる事はわかってる。引っ張るつもりはない。
「リーシャ、その子をしっかり抱いてろ」
「はい……あっ」
息を飲むリーシャ、顔が一気に綻んだ。
おれが取り出した小さな首輪を見て喜ぶリーシャ。
「これはな、専用アイテムなんだ」
「専用アイテム?」
「DORECAで作ったが、これ一個きりだ。作った後リストからも消えた。この子専用の首輪ってことだ」
「専用……よかったね」
我が子に慈しむ微笑みを向けるリーシャ。
その子はまだ泣いてる。赤ん坊らしくおぎゃーおぎゃーと泣き続けてる。
「つけるぞ」
「はい」
首輪を近づける。
すると、赤ん坊は泣き止んだ。
くるっとした目がおれの持つ首輪を見つめてる。
不思議だなあ……生まれたばかりだと言うのにもう全部わかってるって感じだ。
首輪をつけてやった。
細くて、まだ座ってない首につけてやった。
直後、彼女は笑い出した。
ケタケタと、こっちまでつられ笑いをしそうな笑顔で。
――魔力を10チャージしました。
「よかったねー、生まれてすぐに奴隷にしてもらえて」
――魔力を1,000,000チャージしました。
母娘の奴隷。
正直ちょっと疑ってたところがある。
本当にそれを望んでるのか、そういうていで言ってるだけなんじゃないかって思ってた。
それが今完全に消えた。
生まれたばかりの赤ん坊は嘘をつかない。
DORECAも嘘をつかない。
エターナルスレイブ。
遺伝子レベルで、奴隷になるのを望んで、幸せと感じる人種だ。
「あっ、ご主人様」
「なんだ?」
「よかったらなんですけど、ご主人様にこの子の名前をつけてもらえませんか?」
「名前か。それなら決まってる」
「本当ですか!」
「ああ。シャスリだ」
「シャスリ……素敵……」
リーシャは我が子の……シャスリのほっぺたを突っついた。
「良かったね、名前までご主人様からいただいて」
シャスリはケタケタわらいでこたえた。
「しかし早かったな、生まれるまで」
「はい。わたしたちは早いんです。生まれてから何日かで人間でいう三歳から五歳くらいの大きさまで成長して、その後ちょっと長い期間子供の姿のままでいるんですけど、第二期成長期が来たらまた何日かで今のわたしたちくらいの見た目に成長するんです」
「そうなのか」
そういう生き物……種族なんだな。
「じゃあシャスリも?」
「はい! 一週間もすればお手伝いできるようになると思います」
「そうか、それは楽しみだ」
「この子にもお仕事をあげてください」
「子供にもやれる事を考えておく」
――魔力を100,000チャージしました。
喜ぶリーシャ、ケタケタと笑うシャスリ。
それを見ていると、ふと、背後から物音がした。
振り向く。奴隷達がおれを見つめていた。
ミラ、ユーリア、リリヤ、ライサ、スベトラーナ。
おれの奴隷になったエターナルスレイブが全員物欲しげな顔で見つめて来た。
何を求めてるのかは、聞くまでもない。
おれは部屋の奥に向かって行き、DORECAをだした。
奴隷達が訝しむ中、魔力でベッドを緊急生産。
奴隷が全員上がってもまだ余裕のある、巨大なベッド。
「来い」
そう言った直後。
DORECAのブラックカード、魔力値がカンストしてしまったのだった。




