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幸せしかない人生

 リリヤにつれられてやってきたのは、生い茂った森。


 奥に入ると、一軒の小屋があった。


 まだ真新しい、作られたばかりの木の家。


 その外にミラとユーリア、そしてライサの三人がいる。


「あああああ!」


 苦悶の声が聞こえた、聞き慣れたリーシャの声だ。


「リーシャ!」


「入っちゃダメですの」


 リリヤがおれをとめた。


「だめ?」


「はいですの。エターナルスレイブは人間さんと違うから、生まれる時は同じ部屋の中にいない方がいいですの。だからここにいますの」


「なるほど。人気ない所に隔離って訳か」


「はいですの」


「じゃあおれを連れてきたのは?」


 おれも一応人間なんだが。


「リーシャお姉様の子供はおにーちゃんの奴隷にするですの。生まれた直後からご主人様がそばにいた方が一生幸せですの」


「一生幸せ」


「相手がおにーちゃんなら幸せしかなくなりますの」


「……っ」


 ちょっと驚いた。


 いや、その言葉を「いい」とおもった。


 幸せしかない――笑顔しかない。


 ついてきて、横にいるスベトラーナをみた。


 リグレットになったこともある彼女は、エターナルスレイブとしては不遇の時間が長かった。


 もちろんおれのもとにいるからには笑顔(しあわせ)の割合が増えていくのは確定だが、それでも100%にはならない。


 だが、これから生まれてくる子供は。


「幸せしかない……」


 それは……ものすごいことだ。


「ありがとうリリヤ」


「どういたしまして? ですの」


 訳がわからずきょとんとするリリヤ。


「リリヤは手伝いに戻りますの。赤ちゃんを祝福するためにおにーちゃんはそこで待機してるですの」


「ああ」


「わ、わたしも手伝う」


「もちろんですの」


 スベトラーナはリリヤについて言った。


 小屋のそと、五人のエターナルスレイブ。


 集まった五人はうなずき合って、手を組んで祈りだした。


 瞬間、体から光を放った。


 ミラは青、ユーリアは白、リリヤは黒――。


 それぞれの宝石の色、魂の色と同じ光をはなった。


 意味はわからない、が、そういうものなんだろう。


 おれはそこで待った。


 リリヤが言う、生まれた時に祝福してあげるために。


 じっと待った。


「……祝福?」


 その言葉が引っかかった。


 五人の奴隷達を見た。


 何かが違うと思った、何が違うのかを考えた。


 ……父親としてならここにいるだけでいいだろう。


 エターナルスレイブから生まれてくる子はエターナルスレイブ。


 生まれた直後から奴隷にして、「幸せしかない」ようにする子だ。


 もう一度奴隷達をみた。待ってるだけじゃダメだと思った。


 おれはDORECAをとりだした。


 ブラックカードのDORECA。


 それをにぎりしめる。


「……うおおおおお」


 何かを感じる、俺の中、DORECAの中。


 強く祈る、願う。


 思いを込める。


 やがて、DORECAが光った。


 今まで何度も見てきた光。


 ランクアップの光、何かが増えた時の光。


 至近だと――銅像が造れるようになった時の光と似てる。


「メニューオープン」


 リストを確認する、望んだものがあった。


 奴隷達に近づく。


「おにーちゃん?」


 リリヤがおれに気づいて、顔をあげた。


「リリヤ、子供がうまれるまでどれくらいかかる?」


「えっ、一時間くらいですの」


「わかった、それまでに戻る」


「え? おにーちゃん!?」


 驚き、呼び止める声を振り切って、おれは走り出した。


     ☆


 荒野、魔法陣の光に導かれてやってきた所に見慣れないモンスターがいた。


 大きな目玉に、人間の様な手足がくっついたモンスター。サイズは中型犬って感じで、体と同じサイズのでっかい盾をもってる戦士風な目玉だ。


 キモいとかわいいの対角?ライン上にあるような、そんなフォルムのモンスター。


 そいつを魔法陣の矢印がさしてて、体がひかっていた。


 今おれがもとめてる素材だ。


 そいつが盾を振り回して襲いかかってきた。


「悪いが、素材をおいてってもらうぞ」


 真・エターナルスレイブでそいつを盾ごと両断した。


 真っ二つにされた目玉は地面に倒れ、ビクンビクンとけいれんした後、動かなくなった。


「……でないか」


 素材は出なかった、矢印は別の方向を指した。


 それを追いかけて、別の目玉を見つけた。


 問答無用、であって3秒で斬り伏せる。


 同じように倒れ、素材は出ない。


 探して回る、見つけては倒す。


 十体ほど倒してもでなかった。


 おれは眉をひそめた。


「まさか……レアドロップか」


 今までにもあったこと、何回か繰り返し倒さないと出ないタイプの素材がある。


 これがそれらしかった。


 それはいい、それ自体は問題ない。


 普段なら――まったく問題ない。


「あと……10分ってとこか」


 ここまで来るのにかかった時間、戻るのに必要な時間。


 リリヤから言われた一時間で考えると、もう十分くらいしか残ってない。


 幸せしかない。


 それを実現させるためのタイムリミットが動き出したような気がした。


「やるしかない!」


 剣を握り直し、全身に力を込める。


 見敵必殺サーチアンドデスドロイ


 そのために全力を傾けようとした。


「――っ」


 次の目玉を探しに駆け出そうとした瞬間、足を止めた。


 心で何かが引っかかった。


 カードを取り出した。


 新しいカード。


「メニューオープン」


 現象を操る、魔法のコモンカード。


「エンカウントアップ!」


 魔力を1払って魔法を使った。探しに行く時間はもうないから、向こうから来てもらうことにした。


 あっという間に効果が現われた。


 目玉が三体一緒に現われたのだ。


「……まだだ、運アップ!」


 魔力を1払い、今度は運が良くなる魔法だ。


 サイコロを振れば7-8割がた6とかが出るようになる魔法。


 レアドロップならこれが聞くはずだ。


「……運アップ、運アップ、運アップ、運アップ!」


 魔法を立て続けに使った。


 角張った魔法陣が現われては、おれの体をつつむ。


 残った魔力を全部運アップにつぎ込んだ!


 効果があるかどうかはわからないが。


「……きっとある!」


 強くそう思い、剣を握り締めて、目玉に飛びかかっていった。


     ☆


「おにーちゃん!」


「間に合ったか」


「はいですの。もうすぐなんですの」


「そうか」


 森の小屋に戻ってきたおれはほっとした。


 後は、作るだけ。


「メニューオープン」


 DORECAのブラックカードのリストからそれを選ぶ。


 集めてきた素材を魔法陣の中に入れる。


 新しいアイテム、彼女(、、)の専用アイテム。


「生まれてこい」


 語りかける。


「おれはここにいる。お前のご主人様として」


 思いを全て乗せて。


「笑顔と幸せしかない人生をくれてやる」


 素材を全部入れる。


 ――奴隷の首輪シャスリ


 小屋の中から赤ん坊の泣き声が聞こえてきたのは、名前付きの専用アイテムが完成したのとまったく同じタイミングになった。

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