雨宿り
「あなた様はこうやって国を作りあげてきたのか」
「そうだな。大体今やったことの繰り返しだな」
木の家の中、スベトラーナと一緒に窓の外を眺めていた。
外は雨が土砂降りだ。
空模様があやしくなってきて、リベックに戻るまで持たないとみて、急遽木の家を作ったのだ。
スベトラーナにやらせて、素材を一緒に集めて。
完成したのが降り出した直後で、ちょっと濡れたおれは魔力で緊急生産した服に着替えてる。
スベトラーナもちょっと濡れたが、奴隷のドレスから着替えようとしない。ま、それはいい。
そんなわけで、おれは今彼女と二人で雨宿りしてる。
「この木の家という建物、都でたくさん見てきた。しっかり作られてる素晴しいものだと思っていたが、よもやこんなに簡単に作れるなど」
「簡単か?」
「少なくとも、あなた様には」
奴隷カードを見て、おれを見る。
まあ確かに、おれには簡単だろうな。
「これと同じような家を作るには普通どれくらいかかるもんなんだ?」
「大人五人かがりで、約一日って所だろうか」
「そんなもんか」
「あなた様が国王に登りつめたのは当然の様な気がする」
「そうか」
「あっ」
スベトラーナははっとして、慌てて言いつくろった。
「このカードがあるからという訳ではない! このカードを上手くつかいこなすあなた様だからと言いたいんだ」
「知ってる、慌てるな。魔力チャージの事を教えてやったろ?」
そう、スベトラーナにはそれをおえてある。
おれがしたいことを話すついでに、聖夜のやったこともだ。
だから彼女はおれが「誤解しない」って事ははっきりわかってる。
それでも弁明せずにはいられない。
おれを見る目が必死だ。捨てられまいと必死にすがる目。
一度リグレットになって――ご主人様を見つけられないでリグレットになってしまったからだろう。
ようやく手に入れたものを失うのが怖い心理だ。
「スベトラーナ」
「な、なんだ」
びくっとした、まだ怯えてる。
「おれの奴隷をやめる方法は一つしかない」
「え?」
「死ぬことだ」
「死ぬ、事?」
「そうだ。それ以外に方法はない。生きてる限りおれの奴隷をやめられない。やめさせはしない。何があろうとな」
「……あっ」
ちょっとまわりくどい言い方をしたが、その分効果的だった。
はっとしたスベトラーナ、表情がみるみるうちに安堵していく。
そうこうしてるうちに、外の雨が更に勢いを増した。
バケツをぶちまけたくらいの勢いで降り注ぐ雨。
この雨で木の家がどうにかなるって事はないが。
「しばらく帰れそうにないな」
「明日の朝まで降りそうだ」
「そんな感じだな。まっ、神様がくれた休暇だと思うことにするさ」
雨で足止めされてるのがここだってのがポイントだ。
もしもどこかの町にいたら、雨宿りついてに仕事が飛び込んできただろうな。
そう言う意味じゃ連絡の取れないここにいるのは大きい。
DORECAのメニューを開く。
魔力がちょこちょことへって、人口がたまに増える。
奴隷達が働いてて、国作りが順調に進んでる証拠だ。
おれの力を預けた五人の奴隷がいる。一晩くらい大丈夫だ。
――ぎゅるるるる。
盛大に腹の虫がなった。
おれのじゃない、スベトラーナだ。
彼女は腹を押さえて、顔を真っ赤にした。
「も、申し訳ない」
「いいさ、気にするな」
おれはDORECAを取り出した。
「食べ物を用意する」
「わたしが――」
「魔力を使っての緊急生産はノーマルの奴隷カードじゃ無理だ。素材もない、今回は見てろ」
「はい」
「メニューオープン。何が食べたい」
リストを開く。
ブラックカードのリストには様々な食べ物がある。
魔力さえ払えば大抵のものは作れる。
「な、なんでも」
「じゃあおれと一緒でいいか?」
「そ、それは恐れ多い」
「じゃあ一緒だな」
ご主人様と一緒なのが恐れ多いのもまた健気でかわいかった。
DORECAの魔力を使って、温かいパンとスープを二人前作った。
片方をスベトラーナに渡して、自分も食べる。
スベトラーナはそれをじっと見つめる。
「どうした、食べないのか?」
「いや、食べる! 食べるが……少し思うところがあって」
強く否定した後に、しっとりと話した。
「あなた様はすごいな、と」
「うん?」
「この家、あなた様が着ている服、パンとスープ。どれもあっという間につくった。例え今新たな土地に、無人の土地に飛ばされても、あなた様ならきっと新しい国を作り出すのだろうな、とおもっていたのだ」
「ふむ。まあ確かに、いま無人島に飛ばされても生き延びれる自信はある」
「それがすごいと思った」
「だがそれには必要なものが二つある」
「二つ?」
「一つはDORECA、そしてもう一つは――」
パンを一口サイズにちぎって、彼女の口につっこんでやる。
「奴隷の笑顔」
「あっ……」
「そうだろ?」
「そ、それなら!」
スベトラーナは大声をだした。
意気込んで、食って掛かるような勢いで。
「わたしがずっとあなた様のそばで笑う! それがあなたのすごさに繋がるのなら、ずっと笑う」
「そうだな」
「ふ、ふはははははは」
スベトラーナが笑い出した。
かなりわざとらしい、天井を仰いだ大笑い。
「……プッ」
思わず吹き出した。そういうこっちゃないんだが。
ないんだが。
やっぱりこいつらって。
「かわいいよな」
スベトラーナの頬に触れながら言う。
――魔力を50,000チャージしました。
ゆであがったタコのごとく赤面した。




