嬉しさ二倍、力も二倍
倒れている人間の数を数えた。
男女あわせて丁度二十人だ。
この人達を連れて帰れば、あそこは全部で27人になる。
今までは町と言っても5人しかいなかったから全然町っぽさはないけど、27人もいれば、まあ村くらいにはなるだろう。
人の数はどんどん増やしていかないとな、そのためにわざわざシュレービジュを探しに来たんだからな。
とりあえず全員が生きてるかどうかを確認して回ると、おれはある事に気づいた。
20人の内、ひとりが金髪に尖った耳の女だったのだ。
エルフみたいな見た目、エターナルスレイブと呼ばれる種族。
リーシャと、まるっきり同じ外見だ。
もしやこれって――。
「うう……ん」
少女が呻いて目を開ける、気がついたみたいだ。
「ここ、は……?」
「気がついたか」
「うん……はっ、に、人間!?」
少女は飛び上がって、ズザザザと後ずさった。
おれから距離をとって、尻餅をついた格好で震えてる。
人間が怖いのか……なにか怖い事をされたんだろうか。
とは言えおれはその「怖い事」を一切するつもりはない。
奴隷という健気な生き物は愛でるべきものだってのがおれのポリシーだ。
「大丈夫だ、何もしない」
にこりと笑いかける、しかしあまり効果はない。
少女はおれを見つめたままガタガタ震えてる。
こっちが一歩踏み出すと、向こうは一歩分後ずさる。
うーん、どうしたもんかな、これ。
そんな事を考えていると。
「ご主人様ー」
背後から声が聞こえてきた。リーシャの声だ。
振り向くと、首輪にドレス姿のリーシャがやってきた。
「どうした」
「ご主人様の帰りが遅いので、心配してきました」
「よく場所がわかったな――ああそうか、シュレービジュの爪をさす魔法陣の矢印があるからか」
それは今でもさしてる。サルたちが人間に戻ったあと、地面に散らばったいくつかの爪をさしている。
それを頼りに追いかけてきたんだろう、リーシャは。
「そうだ、万能薬をもってるかリーシャ」
「はい、ご主人様から頂いたものがまだ」
「それいったんおれにくれ、こっちの分は使い切っちゃったから」
「はい……えっ、使い切った?」
万能薬を取り出しかけて、思いっきり驚くリーシャ。
「ご主人様いっぱいもってましたよね。なんで使い切ったんですか」
「強いモンスターと戦ってな、それで使い切った」
「ええええ、大丈夫なんですか?」
「見ての通りだ」
なんとなくガッツポーズしてみた。
「よかった……」
リーシャはほっとした。心の底から安堵した顔だ。
おれはそんなリーシャをしばらく見つめて、ある事を思い出す。
「メニューオープン」
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アキト
種別:フロンズカード
魔力値:16
アイテム作成数:49
奴隷数:1
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魔力がやっぱり減ってた、しかもぎりぎりだった。
リーシャの髪から作ったエターナルスレイブは魔力をつかって本当の力を発揮する。
さっきのサソリの一戦で万能薬だけじゃなくて、こっちも使い切る寸前だったんだな。
「ありがとう、リーシャ」
「え?」
「お前のおかげで強敵を倒せた」
「わたし、なにもしてませんよ」
「してるさ」
おれはリーシャの手を取って、言った。
「お前は、おれの自慢の奴隷だよ」
「自慢の奴隷……」
リーシャはおれをじっと見つめた。
目を大きく見開き自分の耳を疑った。
しばらくして――にへら、と笑った。
顔が緩みきった笑顔を浮かべた。
――魔力を10000チャージしました。
喜ぶと魔力をチャージしてくれるリーシャ。その笑顔で10000をチャージしてくれた。
おれは奴隷を愛でたい、目の前の奴隷は愛でられると大量の魔力をくれる。
win-winな関係って言うのは、こういうことを言うんだろうな。
「あっ……」
離れたところから息づかいが聞こえる。
さっき起きた女の子、もう一人のエターナルスレイブだ。
その子はもう怯えてはいなかった、驚いた顔でおれを見つめてる。
どうやら話はできるようになってるので、話しかけてみた。
「おれはアキト、こっちはおれの奴隷のリーシャ」
「あ、うん」
「お前は」
「ミ、ミラ」
「ミミラー?」
「ミラです! ミラって言います!」
軽いジョークに反応してくれた。
これもさっきまでだったらただ怯えられてただけだろう。
「いくつか質問させてくれ。まずお前のその見た目、リーシャと同じエターナルスレイブでいいんだな、エルフじゃないんだな」
「エターナルスレイブです。エルフってなんですか?」
それは知らないのか、まあいい。
「で、なんであのサルに――気を失うまえの事を覚えてるか?」
今までの事を思い出して、質問を途中で変えた。
「えっと……森の中を歩いてたらいきなりモンスターに襲われて……あれ、生きてる」
ミラは自分の体を見た。
襲われた記憶があって、自分が生きてるのが不思議なんだろう。
エターナルスレイブでも、前に助けた四人と同じ感じみたいだな。
「じゃあもう一つ、おれの奴隷にならないか」
「はい、なります!」
即答された。
これにはおれの方がビックリした。さっきまであんなに怯えられてたのに、まさか即答で「はい」って言われるとは思わなかった。
「本当だな」
「はい! お願いします」
ミラは起き上がって、パッと頭を下げた。
「メニューオープン」
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アキト
種別:フロンズカード
魔力値:10016
アイテム作成数:49
奴隷数:2
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うん、奴隷の人数も二人に増えてる。
それで話が一段落したから、おれは他の人達、人間に戻って倒れてる人達を見て回った。
残った19人は全部人間だった。
あとは起きるのを待って話をしよう。できるだけ全員を口説いて町に連れて帰りたいな。
「あの……リーシャさん」
「なに?」
「リーシャさんは、ご主人様にどれくらい仕えて、その首輪を頂いたんですか」
「これはね――」
「ほしいのか」
背後で話す二人に振り向き、ミラに話しかけた。
リーシャに話す声と、振り向いた直後に見えた表情。
ミラが首輪をうらやましがってるのは間違いない。
「はい……わたし、奴隷ですから」
「ふむ」
首輪をほしいのは「奴隷ですから」か。
「よし、あげる」
「え?」
驚くミラ、おれは首輪の魔法陣を作った。
「い、いいんですか?」
「ほしいんだろ?」
「はいっ」
「ならやるよ。奴隷は首輪がないとしまらないもんな」
「はい!」
「リーシャ、お前も手伝え」
「わかりました」
穏やかに微笑むリーシャ、まだ半信半疑ながらワクワク顔のミラ。
――魔力を2000チャージしました。
――魔力を10000チャージしました。
同時に、二人分がチャージされた。