奴隷の不得意
万が一の事がないように、ホルキナはマイヤらを護衛につけて、国に送らせた。
そして残ったのは、エターナルスレイブになったスベトラーナ。
そのスベトラーナと一緒にリベック、宮殿に戻ってきた。
「くっ!」
先に宮殿に入ったが、後ろからスベトラーナのうめき声が聞こえた。
振り向くと、何かにはじかれた感じで尻餅をついてる。
ちょっと考えて、思い出した。
「わるい、この宮殿には絶対結界があったんだ」
スベトラーナに手を差し伸べて、起こしてやる。
「絶対結界?」
「おれが許可出さない限りはどんな相手だろうが中に入れない、外からはどんな手だろうと破壊できない結界だ」
真・エターナルスレイブの全力の一撃でも無理だった。
間接的な比較だが、多分戦艦リーシャの主砲でもぶち抜けないだろう。
「そんなものが……しかし以前わたしが来た時は入れたが?」
「あの時は許可を出してたからな。むっ?」
おれはある事を思い出した。
宮殿の絶対結界、その許可は簡単にオンとオフっていう感じのものだ。
タイムオーバーはない。少なくとも今まで確認してきた中ではそうだ。
最初期に許可をだしたマルタはあれ以来なにもしてないが、問題なくは入れてる。
なのに、スベトラーナははじかれた。
……生まれ変わったから?
「まあいい。ちょっと待ってろ、今入れるようにする」
スベトラーナに許可を出して、中に入れるようにする。
彼女を連れて中に入って、執務室に連れてきた。
そこでおれは自分の椅子に座って、改めてスベトラーナをみた。
金色の髪に尖った耳、白い肌といった基本的なところは他のエターナルスレイブとかわらないが、髪の長さがショートヘアだったり目が切れ長だったりと、前からの口調と相まって、冷静沈着、あるいは冷酷タイプの女にみえる。
それが今は――赤面してる。赤面して、潤んだ目でおれを見てる。
発情ともちょっと違う感じの、ファンがアイドルに直にあった時の様な顔だ。
流石にわかってしまう、おれの奴隷になりたいって気持ちがさせてる表情だ。
「さて、どこから話すか」
「わ、わたしを奴隷に――」
「心配するな、奴隷にはする、それはもう決めた」
というか断る理由がどこにもない。
エターナルスレイブのことはよく知ってる、地上でももっとも健気でいじらしい生き物を奴隷にしない選択肢はもはやあり得ない。
そう言ってやるとスベトラーナは見るからにほっとした。
おれは話を続けた。
「奴隷にはする、そうする上で説明とか決まり事とか、どこからしたらいいのかって思ってな」
「ご主人様の命令には絶対服従だからっ」
「それは当たり前であえて言うまでもないことだ。違うか?」
「……う、ううん。その通りだと思う」
さてと、本当にどこから話したもんか。
まずはおれの目的か? それならDORECAを実演しつつ、原理を説明した方がいいかもな。ちょっと前までならともかく、今それをやるんならスベトラーナの奴隷カードを作って彼女に実際にやってもらった方が早いな。
そうだな、まずは奴隷カードを作ろう。
おれはDORECAを取り出した。
「メニューオープン」
リストの中から奴隷カード(ノーマル)を選ぶ、それの魔法陣を出そうとした。
「……」
スベトラーナの表情を見て、思いとどまる。
不安そうな顔だ。
ちがうな、全然ちがう。
順番がまったく違う。
「……まったく、おれは何を思い違いしてたんだ」
自重気味に苦笑いする。
「えっ? 思い違いって?」
「初心を忘れすぎだってことだ」
「???」
首をかしげるスベトラーナ、困惑してる。
……だめだよな。
不安そうにさせたり、困らせたり。
その前にほっとさせたり。
奴隷にそんな顔をさせちゃだめなんだ。
リストの中から別のものを選ぶ。
奴隷の首輪、10倍の魔力で緊急生産。
それを、彼女に差し出す。
「スベトラーナ」
「な、なんだ」
「笑ってくれ」
「え?」
「おれの奴隷でいる一番重要な条件。いつも楽しく、嬉しく笑ってること」
「楽しく、わらう……」
また困る彼女に、首輪をつけてやった。
この困り顔はわるくない、その先に期待が持てるから。
「に、にこり」
ぎこちなくスベトラーナは笑顔を作った。
――魔力を100,000チャージしました。
笑顔になれてないスベトラーナは健気でかわいかった。




