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リーシャの初陣

 エターナルスレイブに戻ったスベトラーナはおれをちらちら見ながら、ぼつぼつと語り出す。


「わが女王の親書を携えて、国王陛下のところに向かう最中だった。しかし途中でモンスターに襲われ、必死に抵抗をしたが……」


「やられたって訳か」


 頷くスベトラーナ。


「致命傷を負い、意識が遠のいたと思ったら、次の瞬間国王陛下のお顔が目の前にあった」


「なるほど。今まで何回か聞いた話だな」


 隣にいるリーシャを見る、リーシャは頷く。


 シュレービジュから戻った人間に話を聞くようにしているが、大体がスベトラーナの話と一緒だ。


 モンスターに襲われ、殺され、気がついたらこうなってた。


「リーシャ」


「はい」


「ミラから昔のことを聞いてるか?」


 第二奴隷ミラ。


 かつてシュレービジュを倒して戻った人間の中から見つかったエターナルスレイブ。


 今のスベトラーナと似てる。


「聞いてます。モンスターに襲われる前もエターナルスレイブでした」


「参考にならないってことか」


 スベトラーナをもう一度みた。


「なんか心当たりはないか? なんでもいい、記憶でも感覚でも」


「……ない」


 眉をひそめて難しい顔でうんうん唸ったが、スベトラーナは結局そう答えた。


 仕方ない事だが、それはちと困る。


 原因不明の事は精神衛生上よくない。なんとかして原因を解明したいな。


「あっ」


 ふと、スベトラーナが何かを思い出したかのように声を上げた。


「どうした」


「わたしと一緒にリベックに向かうものがいたのだ」


「そいつもエター……リグレットだったのか」


「そうだ。わたしを逃がすためにわたしよりも先に殺された。同じモンスターにだ」


「って事は……そいつもサルになってる可能性が高いな」


 リーシャを見る、うなずき合う。


 同じ時に殺された者同士がサルになっても行動を共にする事なら今までもあった。


 あるいは同じ時に殺されて、サルになったはいいが別々に行動しておれ達に助けられて人間に戻るのが遅くなったって場合もある。


 どっちにしろ、スベトラーナの仲間もシュレービジュになってる可能性が大いにあった。


     ☆


 奴隷戦艦リーシャ。おれはブリッジにいた。


 他にはマイヤと数人の女達もいて、マイヤは艦長の椅子に座って、おれを見つめていた。


「本当にいいのかい? ここはあんたが座った方がふさわしいと思うんだけど」


「リーシャはお前の船だ、艦長らしくどーんと構えていろ」


「……わかった、そうする」


 いったん目をつむって、顔をリセットさせるマイヤ。


 艦長、そして親衛隊隊長のキリッとした顔に戻した。


「それで、どうすればいいんだい? 言われた通り人気のない荒野のまっただ中に来たよ」


「モンスターをおびき寄せる、この船で倒していけ」


「全部をかい?」


「いや、サルは素通りさせろ。通して白兵戦で倒すんだ。じゃなかったら――」


「荒野のまっただ中で人間に戻られると、戦艦の砲撃でやってしまうから、だね」


「そういうことだ」


 頷く、マイヤは話が早くていい。


「やれるか」


「やってみせるよ」


 マイヤはにやりとして、すこし離れたところにいるオペレーターっぽい子に言った。


「聞いたとおりだよ、みんなに伝えて。アキトが『活躍に期待してる』って」


「うん!」


 彼女は大きく頷いて、艦内に連絡を飛ばした。


 おれはマイヤに聞いた。


「そんな事は言ってないんだが?」


「士気を高めるためさ、それくらいいいだろ?」


「別にかまわないが、こんなことで――」


 言いかけたそのとき歓声が起きた。


 ブリッジにいても聞こえるくらい、艦内の女達が次々と歓呼をあげた。


「なっ」


 にやりと唇をつり上げるマイヤ。


「なるほど」


「活躍した子にご褒美をやるって言えばもっと効果があがるよ?」


「好きにしろ――いや、一番活躍した子だけだ」


「わかってるじゃないか」


 マイヤはにやりと笑った。


 その事を更に艦内に伝令で飛ばした。ますます歓声が上がった。


 はっきりと士気が高まってるのが伝わってくる。


 ご褒美は何にするのか考えないとな。


「さて移動するか、サルどもを探さないとね」


「それはおれがやる」


「どうするんだい?」


「こうだ」


 新しいカードを出して魔法を使った。


 魔力を1使って、エンカウントアップ。


「何だいそれは。今までのとちがわないかい」


「まあ見てろ」


「艦長! 遠方より敵影。モンスターです」


「早速来たか」


「あんたがやったのかい?」


「ああ。モンスターが集まってくる魔法だ」


「そんな事もできるのかい?」


「お前達のおかげでな」


「えっ」


 きょとんとするマイヤ。


「そ、それは本当かい?」


「ああ」


「……」


 息を飲むマイヤ。ブリッジにいた他の子も同じだ。


 全員して顔を赤らめた。


「ほら、モンスターがくるぞ」


「はっ、げ、迎撃っ」


 我に返って慌てて命令を下すマイヤ。


 直後、次々と砲撃の音が聞こえてきた。


 側面にある砲台から砲弾が次々と吐き出されて、モンスターをなぎ倒していく。


 戦艦リーシャ初の実戦だが、すこぶるいい感じだ。


 群れの中にいるシュレービジュをよけて、モンスターを砲撃した。


 弱いくせに好戦的なサルどもは、見た目上砲撃をかいくぐって、戦艦に迫ってくる。


 待ち構えていた白兵戦担当の親衛隊が船の中に引きずり込んで倒す。


 それを繰り返した。


 途中でエンカウントアップの魔法が切れて、かけ直した。


「艦長! 九時の方向からドラゴンです!」


 ブリッジの中に響き渡る焦りの声。


 左方向を見る、巨体で大地を揺らして、向かってくるドラゴンの姿が見えた。


「ど、どうしましょう」


「あんなのとやれるかい。ここはいったん――」


「待て」


 及び腰になるマイヤを呼び止める。


「アキト?」


「艦首を向けろ。主砲用意」


 代わりに命令を下した。


「主砲? アレにむけてぶっ放すのかい?」


「ああ」


「しかし、効かなかったら――」


「その時はおれがいる」


 そう言って真・エターナルスレイブをちらつかせた。


 逃げ腰だったマイヤの表情が変わった。


「わかった。副砲全砲門、ドラゴンに向けな」


「ふ、副砲ですか?」


 オペレータの子がまだ驚き戸惑っている。


 おれも驚いた、何で副砲なんだ?


「アキトが守ってくれるんだ。いまこの船は今が一番安全だよ」


「あっ……」


「色々試すチャンスなのさ。主砲を打つ前に副砲が通用するかどうかやってみようじゃないか」


 マイヤがいう、オペレーターの子がはっとした。


 ブリッジにいる全員がまたおれを見た、熱く、潤んだ目で。


 マイヤもおれを見る。さっき見たことのある表情。


 一番活躍した子に褒美があるって言い出した時と似たような顔だ。


 ――いいね。


 事後承諾の台詞が聞こえたような気がしたけど、問題なかった。


 軽く頷き返す。


 砲口がドラゴンに向かって一斉に火を噴き、砲弾が集中的に打ち込まれた。


 ドラゴンは多少のダメージを受けたが、前進をやめようとしない。


「だめかい」


「みたいだな」


「次ぎ行くよ。主砲用意」


「主砲用意」


「打てー!」


 反動力が戦艦リーシャを揺らし、巨大な砲弾が撃ち出された。


 砲弾はドラゴンの頭にジャストミートし――吹き飛ばした。


 倒れるドラゴン、もがいて、けいれんして。


 立ち上がろうとしたが、やがて力尽きて、動かなくなった。


「主砲をあてればいけるね」


「みたいだな」


「アキトのおかげで試せた、礼を言うよ」


「気にするな。さあ、次が来るぞ」


 モンスターはつぎつぎと襲いかかってきた。


 気のせいか、ドラゴンを倒した後、戦艦の動きが変わった。


 今まではモンスターを集中砲火でとにかくなぎ倒してたのが、火力をけちるようになった。


 いや、けちるってのは正しくないな。


 倒せる火力の下限を探ってる感じだ。


 おれが守ってるから、その間に試す。


 ドラゴンだけじゃなくて、他のモンスターにもそれをした。


 いいことだ。


 それをしばらく続けていると。


「わかった」


 伝令にやってくる子から報告を受けて、マイヤが頷いた。


「どうした」


「白兵戦をやってる子からの連絡さ。サルから戻した人間の中に変なのがいたってね」


 来たか!


 おれは興奮し、それに期待した。


「なんでも……黒い奴隷ってはなしだ」


「むっ」


 気分が真っ逆さまに落ちるって感じだ。


 眉をひそめた。


 黒い奴隷……。


 それはリグレットってことなのか?

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