奴隷の再生
「あの、ご主人様」
「なんだ」
「お仕事を……していいですか?」
「仕事?」
リーシャはちらっと森を見た。
ああ、森を作る・広げることか。
荒れ果てたこの世界に緑を取り戻させるのは確かに仕事だ。
「いいぞ、やれ」
「はい!」
リーシャは大喜びで動き出した。
ご主人様から仕事を任されれば喜ぶのがエターナルスレイブという人種だ。
彼女は働いた。
奴隷カードで様々な魔法陣をはる。
木や草を魔法で作っていき、それを並べて、森を広げる。
「続けてろ。おれは森の中を歩く」
「はい!」
一人で森の中を散歩した。
世界の大半は壊れたままだが、ここはもうすっかり再生してる。
木漏れ日が差し込む森の中、住まう動物たち。
オアシス。
その言葉が一番似合っている場所だ。
歩いてると、いつの間にか森を横断して、木々の生え際までやってきた。
荒野が見えたから、引き返そうかと思ったその時。
「ウッキー」
「むっ、サルかっ」
反射的に腰の奴隷剣に手を伸ばした。
サルだったが、例のサルじゃない。
鋭い爪と凶悪な見た目をもちながらも、ゲームで言うところのスライムやゴブリン以下の弱さのシュレービジュという名のモンスター。
そのサルじゃなくて、普通のサルだった。
動物として、よく見れば愛らしいくらいのサルだ。
サルは森の外から中に入ってきて、きょろきょろ見ている。
「吸い寄せられてきたのか?」
おれの質問に答えず、サルは好奇心たっぷりの顔をして、森の奥に入っていった。
こうして森の住民が増えていくんだなと思った。
「そういえば……メニューオープン」
新しい方のメニューを開く。
そこに表示されてる魔法を見る。
まだ使ってない、エンカウントアップとエンカウントダウンってのがあった。
エンカウント、どっちの意味合いなんだろ?
本来の「遭遇する」って意味なのか、それとも広く知られるようになったモンスターが現われる方の意味なのか。
「どっちでもいいか」
とりあえず使ってみることにした。
魔力を1払って、エンカウントアップを使う。
三角の魔法陣が光って、森を包み込む。
そこでしばらく待った。
ちょっとして、続々と動物がやってきた、虫もやってきた。
兎とかそういう小動物から、トンボとか蝶々とかそういう昆虫まで。
様々なのがやってきて、森の奥に入った。
「動物の方だったか――いや」
結論を出しかけて、すぐに思い直す。
続々とやってきた生き物の中にモンスターもいた。
白い毛にびっしり覆われた毛虫、エルーカーという名前のモンスター。
そいつはやってきて、おれを見つけるなり持ち前の突進力で襲いかかってきた。
奴隷剣を抜きはなって、真っ向から両断する。
エルーカーが消えて、白い毛が大量に残った。
ふむ、動物じゃなくてモンスターも来るのか。
これは便利だな。
いったん森の中に引き返して、リーシャを探した。
「リーシャ、森はあとどれくらい動物がすめそうだ?」
「動物ですか? まだまだ全然住めると思います」
「そうか。だったら増やすぞ」
「はい。どうすればいいでしょう」
「それはおれがやる」
新しいカードを掲げてみせる。
リーシャはすぐにはっとして、尊敬の眼差しを向けてきた。
「お前は森の拡張をしてろ」
「わかりました!」
リーシャと別れて、また森の外周にやってきた。
しばらく待つ、動物もモンスターも来ない。
もう一度エンカウントアップを使うと、またすぐに現われるようになった。
動物は素通りさせる、モンスターは斬り伏せる。
しばらくすると魔法が切れたから、更に使って続ける。
「ロープレやってるみたいだな」
なんとなく声にでた。
無限沸きのポイントでモンスターを狩り続けるゲームをやってる気分になってきた。
ちょっとした作業だが、悪くない。
素材はどんどん積み上げられ、森に移住する動物も増える。
「むっ、今度こそサルか」
遠くからやってきたのはモンスターのサルだった。
鋭い爪に凶悪な見た目。シュレービジュ。
弱いのに好戦的なそいつはおれをみるなり飛びかかってきた。
一刀両断。カウンターで真っ二つにする。
切り捨てられたサルは絶命し、やがて光に包まれ、人間の姿にもどった。
「あれ? もしかして――エターナルスレイブか?」
よく見るとただの人間じゃなかった。
金色の髪に尖った耳。エルフっぽい見た目。
エターナルスレイブ。
おれは密かに喜んだ。
六人目の奴隷を手に入れられるかもしれない、という事に。
魔法を消して、エターナルスレイブが起きるのを待った。
動物もモンスターも途切れる中、じっとまった。
やがて、そいつが目覚める。
「う、ん……こ、ここは?」
「気が付いたか」
「はい……あれ? 国王陛下」
「うん? おれの事をしってるのか?」
首をかしげる、おれを知ってるエターナルスレイブ?
ただの人間ならともかく、これは驚きだ。
出会ったエターナルスレイブは少ない。
ライサを含めて、全員おれの奴隷にした。
だから知らないエターナルスレイブがおれを知ってるってのはちょっとした驚きだ。
が、次の瞬間。
彼女の返事が更に衝撃的だった。
「何をいう、わたしだ、スベトラーナだ」
「……え?」
スベトラーナって……あのスベトラーナ?
「お前、リグレットじゃなかったのか?」
「そうだ、今でも――え?」
スベトラーナは自分の姿を見て驚いた。
エターナルスレイブのなれの果て、リグレッド。
主を得られなかったエターナルスレイブはやがて変化し、エルフのような見た目からダークエルフのような見た目になる。
褐色の肌に銀色の髪。
何から何まで、目の前の女とは正反対だ。
驚くスベトラーナ。
自分の手を見て、髪を見て。
そして胸をつかむ――おそらくは心を感じながら。
「エターナルスレイブに戻ってる……」
「そういうことがあるのか?」
「前代未聞だ」
「ふむ」
前代未聞か……。
とにかく、まずは話を聞こう。




