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主砲と主君

 リベックの郊外。


 晴れ渡った青空の下に大勢の人々が集まっている。


 簡易的な木の柵があって、その向こうに人々がいる。


 さらにその向こうには様々な出店がある。


 食べ物を売ったり、飲み物を売ったりで、まるで縁日の境内のような感じだ。


 おれは高台に設えられた大げさな椅子――玉座の様な椅子に座ってそれを眺めてる。


「時間ですご主人様」


 傍らに侍らす五人の奴隷のうちリーシャが言った。


「はじめろ」


「はい」


 リーシャが一歩前に進み出て、手をすぅーとあげた。


 瞬間、それ(、、)動いた。


 離れた先にある巨大な鉄の箱。


 無骨なフォルムが男の子心をくすぐるそれが動き出した。


 奴隷級一番艦リーシャ。


 奴隷の笑顔でたまった魔力、そして国力を注いで建造した魔法戦艦だ。


 ――おおおおお!


 民衆から歓声が上がった。


 一千人を超える民の歓声は服の裾にピリピリ来た。


「列車の低速よりちょっと遅いくらいか」


「全速力なら列車とほぼ同じです」


「意外と速いな」


「それをするとすぐに動力切れで走れなくなります」


「なるほど。そこは二番艦以降の課題だな。ニーナなら何とかしてくれるだろ」


「はい」


「よし、次だ」


「はい」


 リーシャが答えて、もう一度前に進んで手をあげた。


 すると、戦艦の反対側から列車が飛び出してきた。


 地面にレールを敷き詰め、その上を低速で走る無人の列車。


 いきなりの列車の登場に民はどよめく。


 直後、轟音が響く渡る。


 戦艦の側面に取り付けられたニートカが一斉に発射した。


 砲弾がすっ飛んでいき、列車のまわりに着弾した。


「外れたな、もう一度だ」


「はい」


 リーシャの指示で二回目の斉射が行われた。


 今度は二発列車に命中した。


 轟音を立てて、列車が木っ端微塵になる。


 ――おおおおお!


 また歓声が起きた。


「次」


「はい」


 三度目の号令、今度はリベックの町から轟音が鳴り響く。


 民が一斉に町の方を向く。


 防衛用のニートカが一斉に戦艦向けて砲撃を開始した。


 それに対して、戦艦リーシャは同じくニートカで応射した。


 砲弾で砲弾を撃ち落とした。


 一発だけ撃ち漏らして、戦艦のそばに落ちた。


「はずしました」


「訓練が必要だな」


 あきらかなミスにおれはそう言うが、民は気にしていなかった。


 町からの砲撃を防いだ戦艦に喝采を送った。


「次」


「はい」


 四度目の号令。


 直後、戦艦が反撃した。


 全砲門をリベックに向けて発射した。


 どよめきと動揺が民に広がる。


「いくぞ」


「「「「「はい」」」」」


 五人の奴隷が同時に応じた。


 彼女達を真・エターナルスレイブに取り込んだ。


 五色の宝石、奴隷の魔法剣。


 それを握って、高台からとびだした。


 民の頭上を一気に飛び越えて、町の方に走る。


 砲撃の着弾地点に先回りして、魔法剣を振るって、砲弾を全部打ち落とした。


 ――おおおおお。


 歓声が起きた。


「やっぱすげえな王様」


「ばっかおまえ、王様がすげえのは当たり前だろ。今のはそういうことじゃねえんだ」


「じゃあどういう事だよ」


「あの戦艦はその気になれば敵の町とか砦に移動していって攻撃できるってデモンストレーションだよ」


「そうか!」


「敵なんかいないけど、いたら同情するぜえ。向こうにはこうして防げる王様がいないんだからな」


 聞こえてくる民の声。説明はかなり的を射ていた。


 おれがやりたいこと、その目的をぴったり言い当ててる。


 それが民の間に急速に広まった。


 戦艦リーシャをたたえる声が徐々に大きくなる。


 次だな。


 奴隷達を取り込んだ剣を掲げる。


 魔力を高め、五色の光が煌めき出す。


 マイヤら親衛隊が全員のりこんで操縦してる戦艦が動いた。


 艦首から長い砲身がせり上がってくる。


 戦艦そのものの半分近い、バカみたいに長くて太い砲身だ。


 それが火を噴く――主砲発射!


 一瞬地震がおきたかと錯覚するような揺れが起きた。


 今までのものに比べて桁外れの轟音と共に巨大な砲弾が撃ち出された。


 放物線を描いて飛んでいく砲弾。


 その先に小山があった。


 リーシャと一緒に森を作った技術で緑化した小山だ。


 それが――吹き飛んだ。


 なだらかに盛り上がってたところが三分の二くらいえぐられて無惨な姿をさらした。


 主砲の轟音で静まりかえった民が一拍あけて、この日一番の歓声を上げた。


「狙い通りだな」


(この破壊力を目の前にして当然だと思うわ)


(もし邪神がいてもあれで吹き飛ばせそうだね!)


(それはいいすぎ)


(そうですの。邪神を吹き飛ばせるのはおにーちゃんだけですの)


(それも……それはあってるかも)


 奴隷達の声が次々と頭の中に響く。


 これで予定していたデモンストレーション、戦艦リーシャのお披露目プログラムが全部終わった。


 機動力を示して、有用性を示して、最後は圧倒的な火力を示した。


 民達を眺めた。


 見渡す限り笑顔ばかりだ。


 老若男女問わず、全員が笑顔になっている。


 戦艦を眺めてあれこれ雑談したり、出店で飲み食いしたり。


 まるっきりお祭り騒ぎだ。


 さて、これでおしまい――。


 歓声があがった。


 戦艦リーシャがまたしても動き出したことに対する、期待の歓声だ。


 今度は何をしてくるんだろう、何を見せてくるんだろう、と言う期待。


 わかる、その反応はわかる。


 おれもそっち側でさえあれば。


「なんだこれは、マイヤは何をしようとしてる」


 おれは何も知らなかった。


 何も知らないから期待する民と違って、何も知らないからおれは戸惑った。


 やがて、艦首がこっちを向いた。


 主砲の砲口がこっちをむいた。


 照準が……こっちに定められた。


「まさか」


 つぶやいた瞬間、それが起きた。


 二度目の轟音、大地をゆるがす爆音。


 それを伴って砲弾が飛んできた。


 歓声と悲鳴が同時に上がった。


 楽天的なものたちと、異変に気づいたものたち。


 それらの声がない交ぜになった。


「くっ」


 考える前よりも体が動いた。


 真・エターナルスレイブを握り締め、魔力を高める。


「うおおおおおお!」


 飛び出して、砲弾に突っ込んでいった。


 五色の光と砲弾が激突する。


 瞬間、全身に衝撃走る。


 バットで思いっきり地面にたたきつけた時にしびれ――あれの数百倍近い衝撃が全身にはしった。


「こん……なっ」


 手に力を込める、奴隷剣を握り直す。


「――はぁっ!」


 おれの体とほぼ同じサイズの砲弾をはじき飛ばした。

 砲弾は放物線を描いて、十メートル先の地面に落ちた。


 勢いはなくなったが、それでも純粋な質量は変わらない。


 砲弾は地面にめり込んでクレーターを作った。


 辺りが静まりかえる。


 その間、実に十秒。


 ――うおおおおおお!


 この日一番の歓声が巻き起こった。


 おれを称える声があっちこっちからあがった。


 戦艦のデモンストレーションの一環と認識されたようだ。


「なんだこれは」


(マイヤの提案です。戦艦の力の後に、ご主人様の力がそれ以上であるの示したいからとのことで)


 リーシャが説明した。


 惜しみない歓声と称賛がいつまでも続く。


「ますますお礼をしなきゃならんな」


 民達に手を振って応えつつ、おれはそうつぶやいたのだった。

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