命名基準
夜、戦艦建造の現場。
「アキト」
少し離れたところで眺めていると、マイヤがやってきた。
おれの横に並んで、一緒になって戦艦を眺めた。
「もうすぐ完成しそうだね」
「ユーリアの報告じゃ明日中には完成するらしい。はやかったような遅かったような」
「それよりも本当にいいのかい? あれをあたいらが使って。金も時間もかなりかかったんだろ」
魔力で作ったものの中でダントツに時間がかかった。
そのための素材と、人を動かすための金もかかった。
魔力はもっとかかったが、それはまあ大した事じゃない。
奴隷がいる限り魔力は無限に等しいからだ。
「気にするな、そういう約束だ」
「そうかい。なら、ありがたく使わせてもらうよ」
「使ってくれ」
「そういえばアレの名前は何になるんだい?」
「うん?」
「ああいうのは名前をつけるもんなんだろ?」
「ああ」
そういえばそうだった。
戦艦だし、確かに名前をつけなきゃいけない。
「何かいい案は?」
マイヤにボールを投げ返した。
「アキ――」
「おれの名前はなしな」
最近そういうことがかなり多かったから、いった直後に止めた。
マイヤはふくれっ面をした。
「せめて最後まで言わせとくれよ」
「町に武器、そこに戦艦まで加わったらおれどんだけナルシストだよって事になってしまう」
「それでもいいのに」
「悪いがなしだ。他には?」
「ないねえ。子供の名前ならみんな考えてるんだけど、船の名前なんてねえ」
マイヤは首をひねった。子供ってのは親衛隊全員の子供の事か。
一瞬冗談かと思ったが、マイヤはどうやら本気っぽい。
「ごめんよ、あたいじゃ力になれそうもない」
「いいさ。おれが考える。必要だって思い出させてくれてありがとう」
礼を言う。マイヤににこりと微笑んで立ち去った。
残ったおれは考えた。
戦艦の名前か、難しいな。
現実世界だと何があったかな。
ちょっと前に流行ったゲームで得た知識を思い出す。
昔の日本の軍艦の命名基準。
戦艦は確か古い国名。
空母はなんか飛ぶものばかり。
巡洋艦は山とか川とかの名前で揃えてたな。
それをこの世界に当てはめてみると、町名くらいしか使えるものはないな。
リベックとか、マガタンとか、ビースクとか。
「リベック、マガタン、ビースク」
口に出してつぶやいてみた。
だめだ、なんかしっくりこない。
「うーん、難しいな」
「何が難しいんですか」
「うん? ニーナか」
横にニーナがやってきた。
おれのところに来ただけで軽く鼻血を出してる。
「どうした」
「連絡です。魔法陣は全部出しました。あとは素材を入れて組み合わせるだけ。明日には予定通り完成します」
「そうか」
建造現場を見る。
奴隷の五人が一カ所に集まってる。
奴隷カードの出番が終わったので、彼女達もひとまずは、って事で休んでるっぽい。
「ニーナ、頼まれてくれるか?」
「はい! 何でもいってください」
おれはDORECAをだして、魔力でケーキを五人分作った。
それをニーナに渡す。
「彼女達に持ってってやってくれ」
「奴隷様達にですね! わかりました!」
ニーナはケーキを持って走って行き、奴隷達に渡して、また戻ってきた。
「わたしました!」
「ご苦労」
「奴隷様達喜んでました」
「そうか」
魔力が三人分……ユーリアとライサをのぞいた三人がチャージされてた。
「ああ……素敵です」
ニーナがうっとりしている。
「どうした」
「やっぱり王様にとって、奴隷様たちは特別な存在なんですね!」
「そりゃな」
当たり前だ。
実務的な意味でも、精神的な意味でも。
エターナルスレイブの五人はおれにとって特別な存在だ。
「……ああ」
ひらめいた、名前がひらめいた。
ひらめいた後は、まるで当たり前のように感じられた。
あれだけ頭を悩ませてたのに、いざ出るとこれしかないって思う様になる。
「ニーナ、頼みがある」
「はい! なんでも言ってください!」
「この戦艦、マイナーチェンジのヤツを4つ考えといてくれ。作るのは今すぐにじゃないから、実際に使うマイヤたちの意見とか取り入れてな」
「わかりました! あああ、また王様のために働ける……」
うっとりするニーナ。
おれは完成間近の戦艦を見つめた。
奴隷級一番艦リーシャ。
その名前が、おれに一番ふさわしい戦艦の名前だと確信した。




