激戦、そして進化
さて次は何をつくろう、そう思って倉庫の前でメニューを眺めてたおれは新しいものが作れる事に気づいた。
素材はブシノ石とシュレービジュの爪、この二つだ。
魔力を払って魔法陣を作る。
ブシノ石は大量にあるから当たり前のように矢印が倉庫を指す。
もう片方の矢印は明後日の方角を指してて、そこを向くと地面が光ってるのが見えた。
町の外、何もない荒れ地が光ってる。
こんな近くにあったのかと、おれはそこに向かっていった。
すると。
「これは……あのサルの爪?」
ちょっと襲いかかってきた、凶暴な顔つきで、倒したら人間に戻ったあのサルの爪だ。
それが光ってるって事はこれがシュレービジュの爪で、あのサルがシュレービジュって名前か。
矢印は地面にある爪をさしている。
それを見つめて、考える。
しばらくして、おれはそこに落ちてる爪を粉々にした。
矢印が九十度曲がって、違う方向をさす。
そこにシュレービジュ……猿たちがいるはずだ!
☆
矢印を追いかけていく。
町から大分離れて、三十分近く歩いた。
いい加減疲れてきたころ、ようやくシュレービジュと遭遇した。
岩山の上にたむろってる、約二十匹の猿。
凶暴な面構えは相変わらず、そして爪は光っていた。
「二十人」
つぶやくおれ。それが爪を砕いて、魔法陣をレーダー代わりにしてここまでやってきた目的だ。
シュレービジュを倒して人間に戻す、町の住民を増やす。
それが目的だ。
猿が次々と山を下りて、こっちに向かってきた。
凶暴な顔と攻撃性は前と同じだ。
多分、弱さも前と同じ。
おれは応戦しよう――と思ったその時。
「ウ、ウキ……」
猿が怯えた。
こっちにぞろぞろと向かってきてたのが急に止まって、全員が怯えた顔で回れ右して、一斉に逃げ出した。
どういう事だ?
まさかおれに恐れを成したわけでもないだろうに。
おれは振り向いた。
そこに猿どもが怯える「なにか」を探した。
左の方からモンスターが現われた。
白い毛がびっしりと体を覆う芋虫、エルーカー。
そいつは突進して――途中で急ブレーキをふんだ
今までに見た事のない急速旋回で、九十度曲がって、また突進していった。
攻撃じゃない、逃げるための突進。
エルーカーは持ち前の突進力で逃げ出した。
その後も何匹かのモンスターが現われては、何かを見て、慌てて逃げ出す。
シュレービジュやそいつらが見た方向を集約させた。
そこに一匹のサソリがいた。
体の長さは約三十センチ、サソリにしては大きいけど、エルーカーを知った後では驚く程の大きさじゃない。
こいつを――みんな怯えてるのか?
そいつは動かなかった。動かないままこっちを見ていた。
睥睨。
その言葉がおれの頭に浮かんだ。
はじめて見たモンスターなのに、そこに威圧感を感じてしまった。
ドスン、ドスンという地鳴りがした。
音の方向を向く。そこに竜がいた。
龍じゃなく、竜。
恐竜タイプの大きな竜がこっちに向かってくる。
モンスター達が逃げ出した方向に向かって直進する。
逃げないのか――と思った次の瞬間。
サソリが竜に飛びついた。
飛びついてしっぽで刺した。
「グオオオオオ!」
竜がうなり声を上げた、空気が震える程の声で、おれは思わず耳を塞いだ。
直後、目を疑った。
サソリにさされた箇所が腫れ上がり、どろどろにとけた。
肉が溶け、骨がみえ、それも溶けていく。
暴れ回る竜に、今度は足を刺した。足も同じようにドロドロに溶けていく。
巨大を揺らして地面に倒れる竜は、しばらくして動かなくなった。
そこに、サソリが這っていく。
見た目はまるっきり巨獣と蟻だが、実際の強さは逆転してる。
「……くってる、のか」
サソリは竜を食べ出した。溶かして、それを口で吸い込む。
わずか、五分。
家にも匹敵する程巨大な竜は、サソリに全部食われてしまった。
もはや間違いない、モンスター達はこいつに怯えていたのだ。
これはまずい、逃げなきゃ。
「――!」
そう思って次の瞬間、サソリが飛びかかってきた!
とっさにエターナルスレイブを抜いてガードした。
ゴッ! しっぽと剣がぶつかりあって鈍い音がして――おれは吹っ飛ばされた。
トラックにはねられて吹っ飛ばされたような浮遊感。
すっとんで、猿たちがいた岩山にぶつかった。
まずい! と体を起こそうとするが足に痛みが走った。
足首が腫れ上がってて、紫色に変わってる。
今の一撃ですっ飛ばされて、当たりところが悪かったみたいだ。
とっさに懐から万能薬を取り出して、飲んだ。
足がたちまち治って、立ち上がれるようになった。
サソリがじりじり向かってくる、プレッシャーが近づいてくる。
逃げられない――倒すしかない!
おれは腹をくくって、奴隷の剣を振りかぶって、こっちからせめていった。
小さい、圧倒的な速さ、桁違いのパワー。
エターナルスレイブがなかったらすぐにやられてた。
攻撃を防いで、持ってきた万能薬でケガを治して、反撃する。
「くっ!」
しっぽに刺された! すぐに万能薬を取り出して刺されたところにかけた。
腫れ上がっていったのが一気に元に戻った。
ほっとした。ほっとして戦いに集中。
防御、回復、反撃。
それを繰り返す。
やがて、サソリの動きが鈍くなってきた。
移動から攻撃まで、全部の動きが遅くなった。
攻撃も弱くなる。防御をすり抜けて腕にしっぽがあたったけどメチャクチャ痛いだけですんだ。
さっきまでなら間違いなく折れてたのに。
間違いない、ダメージが蓄積してる!
これならいける――と思ったけど。
「くっ、万能薬が切れた!」
懐の中がすっからかん、持ってきた万能薬を全部使い果たしてしまった。
まず「撤退」という文字が頭の中に浮かんだ。
今なら逃げられる。さっきまでと違ってサソリは弱ってる、今なら逃げられる。
次に「もったいない」という言葉が浮かんだ。
ここまでやって、弱ってる相手を置いて逃げるのはもったいなさ過ぎる。
迷う、どうすればいいのか迷う。
おれは続行をきめた。ここまで来て逃すのはもったいない。
続行する代わりに慎重にたたかった。
今まで以上に攻撃を喰らわないように立ち回った。
攻撃も深追いはしない、確実に当てるときだけ攻撃して、ちょっとでも危ないと思ったら引いた。
超、安全策。
自分がHP1になって、あと一発でもあたれば死ぬ。そのつもりで慎重に動いた。
それから五分。
慎重にちくちくやった結果、サソリは倒れた。
地面に転がって、けいれんして、動かなくなった。
「……」
エターナルスレイブを構える。油断はしない、最後の最後まで油断しない。
じりじり近づいていって――慎重に、慎重に剣を振り下ろす。
ザシュッ。切っ先が抵抗されることなく突き刺さった。
サソリは真っ二つ……もう死んでいた。
「はあ……」
気が抜けて、その場にどかっと座り込んだ。
ヘトヘトだ、体のあっちこっちも痛い。
いまエルーカーが来たらもう観念するしかない、ってくらいおれは弱っていた。
「ウキッ」
「ウキー」
声の方を向く、猿の大群が戻ってきた。
凶暴な顔で、爪を煌めかせて戻ってきた。
弱ってるおれに向かってきて、一斉に飛びついてきた。
「……」
エターナルスレイブで反撃する。
一撃一殺。
弱ってるけど、こいつらなら楽勝だ。
猿――シュレービジュを一匹残らず倒した。
そいつらは倒した順に、人間に戻っていく。
「目的……達成」
今度こそへとへとで、仰向けに倒れて猿が人間に戻るのを見守った。
そして、最後の一人が人間に戻ったとき。
――レベルアップ! ノーマルカードがフロンズカードに進化します。
頭の中から初めての声が聞こえた。
同時に光がおれの体を包み込んで、体が軽くなった。
動けるようになった――いや全回復した!
そして――。
「メニューオープン」
作れるものが、倍以上に増えていた。




