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カンパニーブラック(1)

 ゴーレムの山の上で、カイたちは次の戦いの支度を整えていた。ポーションで魔力を回復したり傷を癒したり。ルクルスクリヤは銀色の長髪を穏やかな風にはためかせながら、次なる敵『カンパニーブラック』について語る。


「カンパニーブラックは現実リアルでは某大企業のCEOらしい。まあ所詮成金、教養も品もないとるに足らぬ男だ。金にものを言わせて造ったアカウントは、たしかに《ケルゲテューナ大陸》のトップ7にはいるほどの実力を誇るが、さきほどの戦いを見るに主人の敵ではないだろう」


 以前自分で学業の成績は悪いと公言していたくせに、カンパニーブラックのことを「教養がない」と批判するというのはブーメラン発言じゃないのかとも思ったが、カイは黙っておいた。そんなことよりもシアの様子が気になったのだ。


「どうしたんだ、シア? さっきからずいぶん静かだけど」


 ふだんからシアは大人しい女の子だけれども、ゴールドショーグンを撃破したあとから、ずっと下を向いて無言のまま暗い表情をしている。なにか心配事でもありそうな顔だ。シアはゆっくりと顔を上げてカイを見据え、


「邪悪な魔力の流れを感じる」


 とだけ答えた。ふたたびうつむいてしまう。


「同感だな。風が悪い気をはらんでいる」


 ルクはシアに同意を示した。


「感じないか、主人は? 風に乗ってなにか漠然としたイヤなものが近づいてくる圧迫感を」

「まったく。気持ちのいい風だけど」

「そうか。まあ仕方ない。主人は魔法系の職業ジョブではないからな」

「その邪悪な魔力とやらが接近しているとして、そいつはいったいなんなんだ? 魔物かなにか?」

「いや。おそらくこれは……次なる敵の気配だろう」

「まさか。カンパニーブラックがもう来たってのか? というかなぜ向こうからわざわざやってくるんだ?」


 カイはカンパニーブラックに是非会わなければならないが、カンパニーブラックはカイなんぞになにひとつ用事などないはずだ。のこのことあちらから姿を現すとは考えづらい。


「言っただろう主人。カンパニーブラックはゴールドショーグンが遺したゴーレムを目当てに飛んでくる。奴にとってこの人形群はのどから手がでるほど魅力的なアイテムなのだ」


「――そういうことです」

「「「――!?」」」


 聞き慣れぬ男の声。

 カイたち3人は即座に立ち上がり、周囲を警戒する。ルクは先制攻撃を阻むための防御魔法陣を展開し、シアはいつでも雷撃スタン攻撃の放てるよう、足下に電流をバチバチと走らせる。カイは辺りを見渡して、ゴーレム山の中腹に、声の主である30代男性アバターがいるのを発見した。


 一見して日本人と分かる外見をしている。黒の短髪に、緊張しで強ばった顔。身につけているのはビジネス・スーツだ。ファンタジー世界観をぶちこわしにする風情のない格好。ゲーム内ですら商談をはじめそうな、実直かつ無粋な雰囲気。


「こんにちは。私はカンパニーブラックです。ビジネスマンです」


 男は名乗り、120°のおじぎを慇懃に実行する。正確な1、2、3の拍で姿勢を元に戻すと、これっぽっちも感情のこもっていない、欺瞞に満ちた悪徳経営者スマイルを口元に浮かべた。


「社会にイノベーティヴなソリューションを提供するために、こちらのゴーレムたちは我が社が接収します。よろしいですね? 私たち、ウィンウィンですね?」

「あー……っと」


 カイは困惑して、ルクに助けを求める。


「なんだこいつ」

「人生の大半を金儲けに費やしてきた男の末路だ。《ケルゲテューナ大陸》内でも商売をやっているのだ。おそらくこのゴーレムを回収して、無償の労働をさせるつもりだろう」


「私知ってる」


 シアが口を開いた。


「この人、悪い人。プレイヤーを捕まえて、辛い仕事させる。シアの知り合いも、この人の会社アジトに閉じこめられてる」

「そうなのか」

「うん。有名。この人のスキル、『過労死デス・カムズ』は強力」


 仮面のようにニコニコ笑っているカンパニーブラックは、胸からごそごそと金属のプレートのようなものを取り出して、それを手裏剣のようにカイに投げつけた。カイは2本の指で受け取り、プレートに刻まれている文字を読む。


『株式会社 暗黒ソリューションズ

 CEO(闇) カンパニーブラック』


「名刺か。なんだよCEO(闇)って……」

「私の職業ジョブですよ」


 カンパニーブラックは首だけで小さくおじぎする。


「以後ご贔屓に。……さあ、あなたの名刺をください」

「名刺? そんなんあるわけないだろ。ここゲーム世界だぞ」

「なに? 名刺がないですって?」


 空気が変わった。シアがはっと息をのむ。ルクがぎゅっと拳を固く握りしめる。

 カイの言葉に反応してわなわなとふるえだしたカンパニーブラック。いったいなにが始まろうというのか。


「ど、どうしたんだよ」


 自分の発言になにか相手を怒らすような点があったかどうか、よくよく思い巡らせても思いあたる節のないカイだが、カンパニーブラックの発散する殺気が膨張するのを感知し、そっと太刀の柄に手をそえた。


「名刺がない。ほう――」


 カンパニーブラックは両手を満開の花のように広げ、カイに手のひらを見せつけるように突き出した。そのアクションにどういう意図があるのかは分からなかったが、少なくとも意味のない挙動ではないはずだ。おそらく、なんらかの攻撃手段。カイはどの方向から攻撃されても対処できるように、極限まで集中力を高める。カンパニーブラックは唸る。


「――市場価値皆無の新入社員ニュービーめが。ビジネス・マナーを教えてやるっ!」


 なにか、来る。だが、なにが来るのか――まだ分からない!

 本能的に危機を察知していても、肝心の攻撃が見えない。

 このまま直立しているべきか、それても右によけるか、左によけるか、あるいは上方へとジャンプするか――どの選択肢を選び取るのが最善なのか。分からない。判断材料がない。


「――となれば、先制攻撃だ! スキル――ダッシュ!」 


 カンパニーブラックが広げた両手を重ね合わせ、スキル過労死デス・カムズ』を発動するのと、カイがダッシュで敵の懐へとスタートを切ったのは、ほぼ同時。笑ったのは――カンパニーブラックのほうだった。


「決まったなあ。今日からお前は私の奴隷、会社の畜生、すなわち社畜だ」


 あと一歩で攻撃半径に届こうかという距離まで接近したカイだが、まるで透明の壁に阻まれたみたいにそれ以上前進することができなくなった。前進できないばかりではない。体のコントロールを失ってしまった。全身に透明のギプスがはめられている感覚。


「主人!」

「カイ!」


 背後で2人の声が聞こえるが、振り向こうとしてもそれができない。強制的にカンパニーブラックの嫌らしい笑顔を眺めさせられる。まばたきひとつ行えないのだ。


「動くな」


 カンパニーブラックはシアとルクを牽制する。


「なにか変なまねをしたらこの男をクビにする。……ああ、私の言うクビというのは『解雇』ではなく、文字通り『首』にしてやるという意味だ。首から下をちょん斬ってなあ。ふはははは」


 絶体絶命。カンパニーブラックのスキル『過労死デス・カムズ』がカイに命中したのだ。このスキルは対象者の身体の自由を奪い、使用者が意のままに彼を操ることができるというもの。カイ、つまり独裁者のスキル『強制ギアス』とほとんど類似の術であるが、これはようするに政治的独裁者もブラック企業の経営者も本質的には同種の生物であるということを示唆しているのである。


「おい、社畜、なにかしゃべってみろ。泣き言のひとつでもなあ」


 カンパニーブラックは自身の指をわずかに折り曲げた。そうすることでカイのあごを一時的に自由にした。


 カイは与えられたこの機会を逃さず、大胆に言ってのける。


「――残念ながら、俺の勝ちだ」

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