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ゴールドショーグン(2)

 カイは大地を蹴り、『ダッシュ』によって発生した加速力で大きな跳躍をする。マーベリックもアイスマンもビックリ、F14のカタパルト発進にも劣らぬ迫力。目指すは当然『全人民のすべからくして敬愛すべき東洋の明星、革命の導き手、偉大なる将軍様』こと、ゴールドショーグンの首だ。


 シアとルクのふたりはカイの勝利を確信した。カイの俊敏パラメータと『ダッシュ』のスピードが組み合わさる時、生まれ出づるは都市伝説妖怪スカイフィッシュをも超越する疾風の暗殺者。あまりの速度に反応できないゴールドショーグンの首がすぱっと断ち切られることは、もはや必定に思われる。


 ――が、ふたりの確信した通りにはならなかった。


 カイが『ダッシュ』を発動しかけた瞬間、さすがは《ケルゲテューナ大陸》でもトップクラスの廃人プレイヤーであるゴールドショーグン、にやりと不敵な笑みを浮かべて同時にスキルを発動していた。


「……スキル、『マス・ゲーム(Lv99)』!」


 スキル『マス・ゲーム』。それはゴールドショーグンのunique職業ジョブ『人民の父』のみが習得できるという幻の術。噂によれば彼が『赤の町』をゴーレムだらけにした理由が、このスキルにあるのだという。真相を知るものはみな消されてしまった。


 ――スーパージャンプによって、カイはぐんぐんとゴールドショーグンに迫る。そしてゴールドショーグンの『マス・ゲーム』も、カイの視界の外で効果を発揮していた。


「カイ、危ない!」


 シアが警告する。


「主人! きゃっ」


 ルクの悲鳴。

 カイは遙か下方から聞こえてくるふたりのただならぬ声に、意識をとられた。

 それがいけなかった。


「ピョンヤン! ピョンヤン!」


 気合いのかけ声。敵から意識を逸らしたカイは、ゴールドショーグンの杖から放射された光の矢をかわすことができない。


「ぐっ!」


 右の太ももに矢が刺さる。鋭い痛み。並のプレイヤーの攻撃であれば、鉄壁の防御値によって痛みなど感じずに済んだはずである。だがゴールドショーグンはカイと対等に渡り合うことのできるほどの強者である。全パラメータは4桁なのだ。


 墜落するカイ。着地点を見いだすべく首をひねって視線を下に向ければ、そこには驚くべき光景が広がっていた。ゴーレムが生を得たかのように動きだし、シアとルクのふたりを襲撃しているのである。シアは電撃を、ルクは防御魔法陣を用いて身を守っているが、整然とした隊列で攻め寄せてくるゴーレムの怒濤からどれだけの間耐えられるかは、神のみぞ知る。


「ゴーレムの革新的挙動! これこそわが『マス・ゲーム』の力! 『赤の町』にゴーレムを無数に配置していたのは、お前たちのような日和見主義者を『マス・ゲーム』によって総括するためだったのだ! ヌハハハハハ!」


 ゴールドショーグンの高笑いが響く。ゴーレムたちは将軍様の口上に反応して攻撃を一時中断、惜しみない拍手を主人に送る。その隙にカイは着地、シアとルクを抱き寄せていた。


「ふたりとも、大丈夫か?」

「うん」

「主人、さすがにこの数のゴーレムを相手にはできん」

「ルク、とりあえず魔法陣を張って、シアと自分の身を守ってくれ。120秒間。どうだ?」

「120秒か。……できないこともない。全力を尽くせば」

「よし。全力を尽くしてくれ」

「だが、主人はどうするのだ? まさかこの数を――」

「俺がやらなきゃ誰がやるんだ。俺は勝つ。まあ見てロッテ」


 拍手をやめたゴーレムがふたたび攻撃に転じる。

 ルクは最大魔力の魔法陣をつくりだし、シアとともにその中に入る。

 ふたりの瞳が不安そうに追うのは、ゴーレムの波のなかに身を踊り込ませたカイだ。


「ゴーレム? 所詮泥人形だ! 俺が全部ぶちこわしてやる!」


 叫んで、カイは漆黒の太刀を振り回しはじめた。

 大波に挑むトビウオのごとく、広場と町を埋め尽くさんばかりのゴーレムすべてを破壊すべく、突き進む!


「であああああああああああああ!」


 1体目! ゴーレムの胴がまっぷたつになる。

 2体目! ゴーレムの首が虚空に飛ぶ。

 3体目! ゴーレムは脚を斬られて倒れ伏す。

 4体目! 5体目! 6体目! 7体目! 8体目!


「隊列を崩すな! 革命の意気を見せろ! ピョンヤン!」


 ゴールドショーグンはゴーレムを激励する。ゴーレムは主人から言葉をかけてもらったことがよっぽどうれしいのか、攻撃の手をゆるめて涙する。その間にもカイの太刀は華麗に舞う。


 50体目! 100体目! ――1000体目!


 ゴーレムの残骸は積み重なり、がらくたの山と化す。

 『ダッシュ』を駆使して麓のゴーレムどもを斬っていくカイの姿は、まさに戦の化身。


 2000体目! 3000体目! ――10000体目!


 ゴーレム破壊数がついに5桁の大台に乗った。


 20000体目! 30000体目! ――100000体目!


 6桁! さすがのゴールドショーグンも慌てはじめる。


「ピョンヤン! ピョンヤン!」

「なあ『全人民のすべからくして敬愛すべき東洋の明星、革命の導き手、偉大なる将軍様』よお」

「!?」


 ゴールドショーグンは自分の目を疑った。いつの間にやらカイがバルコニーに上がり込んでおり、自分に太刀の切っ先を向けているのだ。地上からバルコニーまではかなりの高さがある。どうしてここへやってこれたのか? 『ダッシュ』と跳躍を用いたのであれば、滞空の隙にゴーレムたちの矢の掃射があったはずだ。


「気づかないのか? 皮肉なことに、『愛すべき人民』ゴーレムどもが俺に活路を開いてくれたのさ」


 カイの視線の先には、ゴーレム残骸の山がある。山の頂点はバルコニーの2メートル下に迫るまで高く成長していた。


「こんなにガラクタ山が高くなりゃ、ジャンプしてここへ来るのも楽勝ってわけだぜ」

「ピョンヤン! ピョンヤン!」


 悪足掻きの光の矢も、攻撃を予測していたカイによって難なくはじき返された。

 もはや、打つ手なし。自分の操るゴーレムは、バルコニーに立ち入ることができない。術者を尊敬するあまり、半径10メートル以内の距離に近づくだけで感激して自壊するのがゴールドショーグンの造ったゴーレムの欠点だった。


「ルクの魔法陣の限界があと5秒。3秒で決着をつける。すまんが手加減する余裕はない」


 カイは漆黒の太刀をゴールドショーグンの心臓に突き刺した。

 ゴールドショーグンは声にならぬ叫びをあげ、もがき苦しむ。


「現実世界じゃあんた、相当鳴らしてる独裁者なんだろ? たぶん近くに侍医もいるだろうよ。痛みでショック死する前に麻酔を打ってもらうことだな。運が良ければ助かる」


 太刀を引き抜き、流血しながら痙攣する将軍のアイテムボックスを漁ったのち、カイは言い放つ。


「――現実世界での幸運を祈るぜ」


 *


 1人目の敵を撃破した3人は、ゴーレム山に座り込んで一時の休息をとっていた。


「ゴールドショーグンの奴、相当ため込んでたな。いっぱい金が手に入った」

「では防衛結界の維持のために、主人よ、私が責任を持ってはじまりの町へ転送しておこう」

「頼む」


「カイ、次どこ行くの」

「シア。あ、そういえば次の敵の居場所が分からん。ゴールドショーグンを尋問するのすっかり忘れてた」

「大丈夫だ、主人」


「――2人目の敵『カンパニーブラック』は、ゴールドショーグンの死を嗅ぎつけてすぐにもこの『赤の町』へとやってくるだろう。この死んだゴーレムの山を目当てにな……」


 ルクの不吉な予測は、はたして見事的中することになる。


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