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はじまりの町(10)

 翌日。

 カイは困り切っていた。

 頼りになるのかならないのかまったく未知数の仲間、シアを迎え、さっそくにも1人目のターゲットである「ゴールドショウグン」とやらを探し出してアタックしたい。

 しかしながらこのはじまりの町には、カイとシアと地下に閉じこめてある若干のプレイヤーのほか、戦力になる者がいない。ということはつまり、カイが不在の間、もしはじまりの町に快楽殺人プレイヤーが攻めてきた場合、これを迎撃することができないということだ。町は殺戮されるがままになってしまう。


「どーしたの、カイ」


 ギルド本部待合室のイスに座り、うんうん唸っているカイをそっとのぞき込むのは、漆黒のローブと輝く黄金のツインテール、雷撃の賢者シアだ。


「悩み事?」

「ああ」


 カイは苦笑してうなずいた。


「はじまりの町を防衛する戦力が欲しい。でもそれは、俺が心から信頼できるプレイヤーじゃなきゃダメだ。命をかけてまで弱者プレイヤーを保護する志をもった、高レベルの戦士――」

「シアじゃダメ?」

「…………すまん。正直なところ、シアの能力じゃ心細いんだ。レベルが90以上であることは、絶対の条件だ。どんな敵が来るかも分からないから」

「うん」


 完全に行き詰まった。

 できればLv99の仲間が欲しい。しかし全プレイヤー中187人のレベル99、自分を除いた186人は、おそらくその全員が《ケルゲテューナ大陸》の心酔者であり、かつ上流階級、支配階級によるVRMMOの独占を望んでいるだろう。仲間に引き込むのは困難だ。日本が常任理事国になるくらい困難だ。


 場合によっては時間をかけて弱者プレイヤーを鍛え、強力なプレイヤーとも渡り合えるレベルの自警団を結成しなきゃならない。カイは頭を抱える。それをやっていたらログアウトまで数年はかかる。数年のあいだに現実世界でどんな状況の悪化が起こるか分からない。ただでさえクレイジーな東野博士のことだから、きっととんでもない手段で任務の遂行を急かしてくるに違いない。それは避けたかった。


 もはやこの難問の迷宮に、出口は見つからないものと思われた。カイも8割がた諦めかけた。やはり地道に自警団を育て上げるしかない、と。


 しかし解決策は――思わぬところから転げ落ちてくる。

 人生とはいつもそうしたものである。

 ラッキーもアンラッキーも、度肝を抜くようなタイミングで訪れてくるのだ。

 カイのとって《ケルゲテューナ大陸》が青天の霹靂だったように。


「お困りのようだな」

「!?」


 ギルド内は現在カイとシアしかおらず(エルミィとフェノールは町の人々との生存戦略ミーティングに赴いていた)、他者の立ち入りを禁じているはずだ。だがカイは幻聴ではなく、たしかに凛々しい少女の声を耳にした。シアも神妙な顔でうなずいている。シアも聞いたのだ。


「誰だ」


 誰何の声も、自然と緊張で震えた。この場にやってくる人物は部外者――つまり町外からの新たな闖入者である可能性が高い。そして闖入者はレベルの高い有力者プレイヤーである可能性が高い。有力者プレイヤーはたいていカイに敵対的であるはずだ。


「ここだぞ」


 平然と答えながら、声の主は地下室へと続く階段を一歩ずつあがってきた。まずはじめにまばゆい白銀の髪が現れ、続いて白い肌、キリッと鋭い目、自信に満ちた口元――少女の全体像が明らかになっていく。


「私はルクルスクリヤ。《ケルゲテューナ大陸》においては『まったき白の女王』として親しまれている、古参プレイヤーだ。年齢は16。職業は結界士。趣味はオペラ観劇。現実リアルでは由緒正しい貴族学校の女子高生。成績は下の中。《ケルゲテューナ大陸》のせいで学業はさっぱりだ。将来は支配階級専用VRMMOの運営に携わる予定。結婚するまでだがな。まあ気軽にルクと呼んでくれ」


 ルクルスクリヤと名乗る少女は、粛々と義務を果たす、といった調子で、ほとんどまくしたてるように自己紹介を終えると、「次はお前の番だ」と言わんばかりにカイを見据えた。

 カイは警戒を解かぬまま、


「俺はカイ。この町の独裁者にして、ログアウト不可の事情と打開策を知る男。レベルは99。年齢はオトメのヒミツだ。現実リアルではフリーター。一生日本社会の底辺マンだ。……で、ルクとやら、俺の記憶に間違いがなければ、たしかキミはVIPルームに閉じこめた有力者プレイヤーのひとりだったと思うんだが、どうして出てこれたのかな? 合い鍵持ってた?」


「いいや。合い鍵などない。しかし『全き白の女王』ほどの女が、粗末な地下室に閉じこめられたままじっと大人しくしているとは思ってもらいたくないな。私には『転移魔法』がある」


「なるほどな、魔法か」


 カイは己の失態を悔いた。こめかみを指で押さえる。


「俺の強さはすでに承知のことと思う。気は進まないが、俺の指示を無視するプレイヤーは、手荒な方法を用いてでも屈従させなきゃいけないんだが。すでにルクよ、キミは装備をすべて没収されている。手ぶらで俺に下克上仕掛けるなんて正気の沙汰じゃないぜ」


 カイの言うとおり、ルクは現在、布の服のみ装備している。ただルクルスクリヤ生来の気品のせいなのか、ただの布の服であろうとも、あたかも貴族の服のような優雅さを発揮している。着こなしかたが上手いのだ。ルクがファッションモデルとして働いたら、さぞ服飾業界は歓喜することだろう。


「下克上? 違うちがう。そんなつもりではない」


 心外だ、とでも言いたげに目を見開き、ルクは大きく首を振った。


「私は一度キミに負けている。武器だって取り上げられて、地下に閉じこめられたのだ。私はいわば奴隷の身分に墜ちたのだ。だから、これは奴隷としての懇願だと思って聞いて欲しい。――私を使ってくれ」

「使う……?」

「部下を欲しているんだろう? 事情はなんとなく察している。私は役に立つぞ」

「結構な申し出だけど、キミの動機が分からない。俺の手伝いをしてキミになにか利益があるのか?」

「あるぞ。まず一刻も早くログアウトをしたい。そのために微力ながら手伝わせていただきたい。それに、こんなところに閉じこめられているよりは、命をかけてでも戦っていたほうが、楽しい。そもそも私が《ケルゲテューナ大陸》をプレイしているのは、スリルを求めんがためなのだから。今の状況は最高にスリリングだ。私は興奮している」

「…………たしかにな。筋は通ってる」

「キミが私を使うことで得られる最大のメリットは、この『はじまりの町』を防衛する方策が得られるということだ」

「なんだって? 『はじまりの町』に有力者プレイヤーを寄せ付けない方法があるのか?」

「私は結界士だ。結界の維持に金はかかるが、コストを払い続けさえすればかなり強力な防衛結界をはることができる。Lv99の奴らだって締め出せるぞ。私はレベル92だ。十分対抗できる」


 ルクの言葉を受けて、カイは考える。

 結界士。願ってもない人材だ。ルクが戦う理由も納得できる。そもそも彼女も娯楽として《ケルゲテューナ大陸》にログインしているプレイヤーだ。VIPルームに閉じこめられ続けるのは、あまりに退屈――金持ちがもっとも恐れるもの――である。それだったら奴隷としてでも戦ったほうが、まだマシというわけだ。

 それにルクはLv92。おそらくパラメータの4桁に及ばない、ごく常識的な範疇の古参プレイヤーではあるのだろうが、貴重な戦力になることは間違いない。

 もっと言えば、銀色の髪と透き通るような白い肌、モデル顔負けのスタイルをもつ少女が、みずから「奴隷」になることを要望しているのだ。こんな機会、現実リアルではぜったいにありえない。ここで逃したら一生訪れないであろうerg的チャンスだ。


「採用!」


 カイはルクに握手を求めた。

 ルクは握手に応じる代わりに、ひざまづいてカイの手のひらにキスした。


「よろしく頼む、主人」


 シアはそうした様子をじとーっとした目で見守っていた。


「カイ、にやけてる」

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