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はじまりの町(9)

 トネガワの『死亡』から数十分後。


 カイが時計台でおこなった告知――「俺はこのログアウト不可状態を打開することのできる男だ。俺がとある任務を終えれば、このデス・ゲームは終了となるのだ。信じるも信じないも個人の自由であるが、しかし、俺の言葉に一筋の光明を見いだそうという者は、1時間後、ギルド本部に集合してくれ」――に従い、ギルドには3名のプレイヤーが待ち受けていた。


 そのうち2名は知った顔だ。エルミィとフェノール。

 残りのひとりは初対面だが、驚いたことにエルミィにもフェノールにも勝るとも劣らない美少女、いや美幼女だった。

 先端が膝までもある、とても長い黄金のツインテール。見る者にどこか冷たい印象を与えるも、残留するあどけなさがそれを中和してあまりある、秀麗な顔立ち。背はカイの胸に届くか届かないかといったところで、エルミィよりもさらにひと回り小さい。明らかに小学生の外見。装備している漆黒のローブだって、学芸会の魔女衣装に見えないこともない。


「小学生が《ケルゲテューナ大陸》にログインしてるとはな……」


 彼女を一目見て、カイはつぶやいた。

 刹那――


「――失礼な」


 金髪ツインテール魔女小学生(仮)の足下から一条の雷光がほとばしり、カイの竜皮ブーツに命中した。俊敏5000超えの動体視力をもってしても、これを回避することはできなかった。


「なっ!?」


 さらに言えば、防御5000超えのタフネスをもってしても、雷撃による『スタン』異常を無効化することはできなかった。カイは全身に衝撃を感じ、その場に崩れ落ちる。


「無礼なこと言うから」


 コツ、コツ、コツ、と、仰向けに倒れたカイの耳元で、ゆっくりと足音が鳴ったかと思えば、にゅっと視界いっぱいに魔女っ子のご尊顔が広がった。のぞき込まれているのだ。


「おしおき」


 ツン、ツン、ツン、と、彼女は白く細い人差し指でカイの頬を突っつく。カイは目の前の幼女の意図がまるで分からず、混乱する。とりあえず謝っておくのが上策と判断。


「無礼なこと言ってすまんかったお嬢さん。こう、近くで拝見すると、なんだ、俺が人生で出会った中でも一番の美女だよ。小学生だなんてとんでもない。骨の髄にクる色気をむんむん発してますなあ。どうして気づかなかったんだろう。きっとさっきは目にゴミが入ってたんだな。どうか許してお嬢さん」

「色気むんむんなの……?」

「むんむん、ゆんゆん、たゆたゆですな。魚介豚骨スープより濃厚な色気です。ライスの5杯はおかわりしたいぜ」

「ふふふ。色気むんむん…………ふふふ」


 幼女は頬へのツンツン連打を中断し、なにやら満足げにニヤニヤしながら立ち上がってうろうろ歩き回りはじめた。カイはスタン状態の解除を頼みこもうとしかけたが、その必要はなかった。時間の経過により自然回復したのだ。


 カイは服についた埃を払いながら立つ。幼女は怪しげにニヤつきながらまだ部屋中を旋回している。


「色気……シア、色気のある美女……ふふふ」

「シア、ってのかキミは」

「そうよ」


 幼女――シアは立ち止まり、振り向いた。箸につままれた麺のごとく、ツインテールがつるんと空間を舐める。


「シアはログアウトしたい。だからここに来たの」

「それは助かる。俺はカイ。はじまりの町の独裁者カイだ」

「うん」

「よろしくな」

「よろしく」

「すまんがひとつふたつ質問させてほしい。いいかな?」

「いいよ」

「現実世界の素性を教えてくれ。それからステータスを見せてくれ」

「シアはどっかの貴族の娘。パパに可愛がられすぎて、15歳なのにほとんどお外に出してもらえずいつも幼女扱い。いろんなところが幼いまま。それがコンプレックス。趣味は読書」


 この外見で15歳なのか、とカイは絶句。開いた口が塞がらないけれども、無理矢理にでも口をコントロールして尋問を続ける。


「なぜ《ケルゲテューナ大陸》をプレイしてた?」

「パパが《ケルゲテューナ大陸》ログインに必要な機器をもってて、それを勝手に使った。暇だったから長時間プレイした」

「OK。じゃあ次はステータスを」

「いいよ」


 カイはシアのステータスを確認した。

 レベルは66。かなりの高レベルだ。はじまりの町制圧時に戦ったプレイヤーのなかでも、最高レベルは63だった。相当やりこんでいる。

 職業は賢者(雷)。魔女めいた外見そのままのジョブ。「(雷)」というのは専門にしている属性だろう。医者のなかにも内科、外科、小児科、泌尿器科と分かれているように、賢者のなかでもきっとそういう分担があるのだろうとカイは推測した。

 装備品の類はまずレベル相応といったところか。特にレアリティが高い品があるわけじゃない。かといって貧弱な武器しかもっていないわけじゃない。装備している黒のローブは、わりかし強力な防御力と追加効果を秘めている。

 パラメータはとうぜんながらどれも3桁で、値は400前後。魔力だけずば抜けて高いがこれは職業特有の現象だ。なんらかのチート、あるいはドーピングをしているわけじゃないはず。

 

 ありていに言って、ごく一般的な有力者プレイヤーのステータスだった。

 強烈なスタン魔法には見所があるが、攻撃魔法によってカイを傷つけるほどの威力はもっていない、常識的な数値のパラメータの持ち主。

 カイとしては複雑な気分だ。

 有力者プレイヤーは全員監禁するか、あるいは地下室に閉じこめたものとばかり思いこんでいた。しかし現に目の前に「討ち漏らし」がいる。


「シア、聞いてほしいんだが」


 カイは咳払いののち、口調を改めてまじめに語る。


「なに?」

「俺は信頼できる人材がほしい。弱者を虐げたり、誰かの命を『現実世界では偉いから』という理由でえこひいきしたりせずに、ひたすらログアウトのために戦ってくれる、こいつになら命を捧げてもいい、というほど信頼がおける仲間がほしいんだ」

「うん」

「俺としては、俺から一本とるほどの実力があるシアと、ぜひ共闘したい。せっかくここに来てもらったことでもあるしな。短時間だがちょっと話してみて、シアが悪心をもつような子じゃないことも、なんとなく分かる」

「うん」

「だからその、なんだ。実はとある事情で、俺は7人のプレイヤーを討たなくてはならない。そして7人を討ちはたした時、さる人物の手によって、ログアウト不可能状態は解除されることになっているんだけども、シアにはその7人を倒すためのパーティに加わってほしい」

「うん」

「こんな言い方はいかにも上から目線だが……ちょっとずつお互いのことを知っていこう。そしていずれはシアは俺の信頼できる仲間、命まで預けられるパートナーになってくれ」

「え?」


 うん、うん、とやたら素直にうなずいていたシアだが、ここへ来て急に頬を赤らめ、首を傾げた。


「それって……もしかしてシアの色気にあてられた?」


 とたんに自己解決したらしく、目を輝かせて何度もうなずきながら、またしても部屋を歩きはじめた。じっとしていられない性分らしい。


「愛の告白。愛の告白。カイからの、告白……」


 ほとんど小躍りしながら室内を旋回する。

 カイは今なされた会話を即座に思い出してみるが、どこがどうなってどういう経路でどういう結論にいたってシアを歓喜させることになったのか、まるで分からなかった。


「あの、カイさん」「カイ様」


 ここまで唖然として沈黙を保ってきたエルミィとフェノールのふたりが、毅然とした表情でカイに詰め寄る。


「「さすがに小学生は犯罪です」」


「……いや、あれでも15歳だって。おふたりさん、お話ちゃんと聞いてた?」

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