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涙のハグ  作者: 櫟 千一
宇宙人との出会い
3/19

2話

 こうして手と手を触れあっても、宇宙人には見えない。同じ人間としか思えない。

「レイゼイ、この地球って星は、どんな場所なの? 文明レベルは発展途上段階だけど、著しい成長もありそうな気がするの。さっきレイゼイが使っていた声だけを伝えられる機械を見る限り、期待も見込める」

 レニーニャは地球の環境に興味を持ったようだ。

「その前に、僕からも質問をして良いかな」

「私も気になるけど、どうぞ」

「まず聞かせてほしいのは、何故、君はそんな流暢な日本語を話せているの?」

 レニーニャは目を見開く。そして、すぐに笑いだす。

「あっははは! そんなことで驚いているの? あはははは! 傑作!」

「あ、あの、笑ってないで教えてほしいんだけど」

 祖父母の家の前で涙が出るまで笑っている。そこまでおかしなことを聞いただろうかと僕は不安になる。

「ごっ、ごめんなさい。そっか、地球には翻訳するものがないのか。それで驚いているんだね。そんなにすごいことじゃないよ。その星にいる高度な知能を持つ生き物を見ただけで、どんな言語を使っているのか瞬時に理解できるようになっているんだ」

「僕からすると十分すごいことなんだけど……」

 レニーニャの笑いが止まったので、船のある場所へと歩き始める。夏の炎天下が容赦なく照りつける中、麦わら帽子をかぶったレニーニャは説明をする。

「レイゼイを見たとき、すぐに分かったよ。だからレイゼイの言っていた物騒なものをおろしてって言葉も理解できたんだよ。あとあれは厳密には銃じゃなくて、あの先から発射された光に触れると私たちの星に転送されるようになっているの」

「……あのさ、その銃を自分に当てれば帰れるんじゃないの?」

「言うと思ったよ。残念だけど、すでに壊れているから意味はない」

 最初から僕に対して攻撃性はなかったと言うことだろうか。

「つまり、レニーニャさんは初めから僕に殺意はなかったの?」

「うん、なかったよ。私と似たような見た目だったし、むしろ仲間かと思ったくらい。だからこうやって船のエネルギー補充作業も頼んでいるんだ」

「なるほど、そう言うことだったんだね。あまりにも冷静に話すから、どうしても聞きたかったんだ」

 僕の疑問が解けたので、次はレニーニャが質問する。

「それじゃ、次は私が質問するよ。さっき言っていたこの地球のこと、もっと教えてほしい」

「内容が大雑把すぎるよ。もう少し具体的に言ってよ」

「うーん、そうは言われてもなあ。この星の生き物の考え方はすごく興味深いんだ。だから、もっと知りたいんだ。この星のこと」

「そうは言われてもなあ」

 答えが出せずに戸惑っているうちにレニーニャの宇宙船がある岩場へとやってきた。

「まあ、答えはまた聞かせてもらうよ。道具箱取ってくるけど、絶対にレイゼイは来ないでね」

「何で?」

「何ででも!」

 そう言ってレニーニャは海へと続くアスファルトで補強された道を下りて行く。

 しかし、すぐに悲鳴が聞こえてきたので、来るなと言われていても心配だったのでそっと覗いてみる。

「大丈夫、レニーニャさん?」

 彼女は尻もちをついていて、オマケに被っていた麦わら帽子もズレていて、半笑いを浮かべていた。

「へ、平気……って、言いたいけど、やっぱり着いてきて……」

「良いの? 見られちゃいけないものとかあるんじゃないの?」

「格好つけてみただけだから、気にしなくて良いよ」

 そう言って、帽子のズレを直して、彼女は立ち上がる。

 僕が先頭を歩き、その後ろをレニーニャが歩く。コンクリートで整備されていて、ご丁寧に手すりまであるので、すぐに宇宙船のある岩場に到着する。

 身軽な僕たちは、ひょいひょいと岩場から岩場へと跳び、すぐにレニーニャの宇宙船がある場所へ到着する。

「そこで少しだけ待っていて。道具箱を持ってくるから」

 宇宙船の後ろに向かって歩いていく。ウイイと機械音がした後、ゴソゴソと何かを探す音が聞こえてくる。

「あった。でも、使えるかなあ」

 ブツブツ言いながら、レニーニャが船内から出てくる。

「まさか使うことになるとは思わなかったな。備えあれば憂いなしってやつだね」

「日本語、本当に詳しいね」

「これくらい簡単だよ。さ、早くエネルギーを集めよう」

 手に持っているものはどう見ても箱ではなく、球体であった。

 その球体を上に放り投げると、すぐに僕たちを岩から助けてくれたような薄い膜が宇宙船を包み込む。

「驚いている?」

「この星の人で、こんな光景見せられて驚かない人はいないよ。どんな技術使っているの?」

「技術は説明しても仕方ないけど、最速で何が足りていないのか探してくれるから結構便利だよ。宇宙旅行へ行くときは最低でも五個は常備していなきゃね」

 僕たち地球人類は月へ行くのが精いっぱいなのだ。それも、半世紀近く前の話だ。

「宇宙旅行なんて一体いつの話になるか分からないけど、もしも、その時が来たらその技術、僕たちにも提供してね」

「うん。イニジードの人に言っておくよ」

 球体が小さな音を上げると、空間に補充するべきエネルギーが表示される。

「結構多いなあ。1つで、どうにかなると思っていたんだけど……」

「どれくらいあったの?」

「3つだけど、すぐに溜まるかな。結構、時間がかかっちゃうかもしれない。損傷は大きくないから大丈夫だけど、この星にこの宇宙船に見合ったエネルギーがあるかどうか……」

 真剣な顔をして、空間に浮かぶ映像を見ている。

 こうやって見ると、僕と同じ人間にしか見えない。

「どうしたの? 私の顔なんか見て」

 僕の視線に気付いたのか、彼女は突然僕の方に振り向く。彼女の碧眼が、僕の瞳の中に映り込んでくる。

「あっ、いや、ええっと、やけに真剣に見ているから、そんな酷いのかなって思ってさ。僕に出来ることなら何でもするから言ってよ」

「じゃあ、早速だけど一つ目のお願い言うね。1000年以上時間の経ったもの」

「えっ?」

 言っている意味は理解をしているが、脳が理解するのを拒み、思わず聞き返してしまう。

「1000年以上時間の」

 もう一度言おうとするレニーニャを止めて、僕は話を続ける。

「ちょ、ちょっと待って、1000年以上時間の経ったものが、どうして必要なの?」

「この星の力が、1000年分必要なの。どんな些細なものでも良いの。石1つでも変わるから」

 今から1000年前と言えば平安時代だろうか。平安時代からあるものなんて、ここにはない。僕の知っている限りでも、旧灯台が四百年前だ。

「あの、400年分じゃダメかな? 1000年は流石に、僕も思いつかないけど、400年前からあるものなら分かるんだ。しかも結構近くにある」

 レニーニャは少し考えてから、口を開く。

「半分以下も力がないって思うと、400年はやっぱり少なすぎるかな。でも、一応教えて」

「ここから歩いて5分もかからない場所に、灯台があるんだ。そこは400年前に造られたって話は聞いたことあるよ」

「じゃあ、一旦そこへ行ってみよう」

 そう言うと、球体を持って、僕たちは陸へと戻っていった。

 祖父母の家がある坂道を通りすぎ、海が見える道を進む。看板にも旧灯台と書かれている。

「わあ、綺麗。風も気持ちいいね」

「夏だからね。冬は波も高いし、天気もすぐに変わるから、危ないよ」

 僕の言葉を聞いても、レニーニャは海から目を離さなかった。

「それでも、ここの景色はとても綺麗だよ」

「夕方に、また来よう。夕日が沈む景色は、もっと綺麗だからさ」

「うん! 楽しみにしているね!」

 そして旧灯台が見えてくる。

 塗装が少し剥げてきているのが時間の流れを感じさせる。

「これが400年前からあるの?」

「聞いた話だけどね。最古の木造灯台って言われているくらいだからさ」

 レニーニャは僕の話を聞かないで、すぐに灯台へ近付いて、触っている。

「中に入れそうだけど、入って良いの?」

「昔は入れたみたいだけど、今はもう入っちゃいけないみたいだね。鍵がかかっているからさ」

 右手で口を隠すようにして、軽くうつむいていた。

 そして、少し間を開けてから、レニーニャは話し始めた。

「レイゼイ、本当にこの建物は400年前からあるの? どう見ても140年前なんだけど」

「そんなはずはないよ」

 しかし、レニーニャは灯台の近くにある看板を指さし、説明した。

「でも、そこの看板見てみなよ。レイゼイは勘違いをしているんだ。400年前に篝火を焚いたのが始まりで、建てられてからは100年弱しか経ってないんだよ」

「140年じゃ、ダメかな?」

「140年分のエネルギーだと、大気圏に入る前にエネルギー切れになっちゃうよ」

 まさか140年しか経っていなかったとは。ずっと400年だと思っていた。

「他を探してみよう。きっと、ここなら千年以上時間の経ったものがきっと見つかるはずだよ。化石とかさ」

「この辺に化石なんてあるの?」

 あまり聞いたことはないが、地層はたまに見かける。化石くらいは見つかるかもしれない。

「隣の県では古代の化石がたくさん見つかっているんだ。だから、ここにも少なからずあるはずだよ。そのためにはまず地層とか調べないといけないけどね」

「でも、見つけるのに一体、何日かかるの? あまり長い時間かかるようだったら、その考えはやめにしてもらえないかな」

 ジッと僕の目を見つめながらレニーニャは否定する。

「近場で1000年以上時間の経ったものなんて、もうないよ。車があればあちこちへ行けるけど、僕、まだ高校生だから」

「クルマって何?」

 この辺は車があると言えばあるが、この時間帯は畑や漁に行き、遠くのスーパーへ買い出しに行っていて、車があまり停まっていない。

「車って言うのは、ええっと、どう説明すれば良いかな。さっき、この家に来た時、家の前に停まっていたものなんだけど、覚えているかな?」

「覚えているけど、全部あのカタチなの?」

 そうか。母親のあの車しか見ていないのか。それでもこの界隈は車がない。

「他にもたくさんあるけど、この辺じゃあまり車はないからなあ。あったとしても軽トラくらいだから。 まあ、レニーニャさんの乗ってきた船に近いものだよ。それを運転するためには免許がいるんだ」

「そう言うのは分かったけど、実物見ないと実感が湧かないな。この辺にはないの?」

「夕方になれば見られると思うんだけど」

 定かではないが、みんな漁や畑から帰ってくるのは夕方だと言う勝手な僕の憶測である。

「じゃあ、夕方まで家にいる?」

「家にいても、することがないよ。あ、そうだ。港に行けば、車の一台や二台あるかもしれない。行ってみよう」

 僕とレニーニャは港へ向かった。



 港への道は単純に見えて、複雑だ。この辺は、小さな道が事細かにあり、分かれ道があったり、通って良いのかも分からない場所が通れたりする。

 そして、結局どの道から行っても、港には着くようになっているのである。

「ほら、あそこに停まっているのが車だよ」

 すぐ近くにあった軽トラックを指さす。

「さっきレイゼイの母親が乗っていた車と全然違うんだね。と言うことは、種類もたくさんあるの?」

「そうだね。用途によって車の種類を変えなきゃいけないしね。僕のお母さんが乗っていた車は、移動するためだけの車だよ。軽自動車って呼ばれているよ」

 レニーニャは僕の方を向いて質問してくる。

「あのトラックってやつは?」

「後ろに何でも乗せられるんだ。もっと大きなものもあるよ。大きな港に行けばたくさん停まっているよ」

「……やっぱり、地球は著しい成長がありそう。すごく興味深い」

 真剣な顔をしてボソボソ呟いていたが、すぐにいつもの表情に戻り、僕に話しかける。

「ところでレイゼイ、そろそろ時間も時間じゃない? 周りも結構、薄暗くなっているよ」

「ああ、夕日でしょ? 本当にきれいだよ。もう一度戻ってみよう」

 港から離れて、先ほどいた旧灯台へ向かった。港道からは歩いて10分もかからない場所にある。

「わああ……」

 レニーニャは沈む夕日に目を輝かせている。

「すごい! こんな綺麗な景色が、未知の星で見られるなんて!」

「僕もここで見たのは10年ぶりくらいだよ。本当綺麗だなあ」

 それにしても、本当に綺麗だ。最近は悩みが多すぎて、こういう景色を見ることもなかったので、余計に綺麗に見えるのかもしれない。

「レイゼイはいつもこんな綺麗な景色を見ているの?」

 まるで僕の心を読んだような質問に躊躇する。

「いつもでは、ないよ」

「そっか」

 その後、レニーニャは何も言わなくなったので、日が完全に海に沈むまで見ていた。

この辺りは街灯も少ないので、暗闇になる前に家へと戻った。

 玄関の戸を開けると、魚介料理の匂いがした。

「冷泉、レニーニャさん、おかえりなさい。ご飯、出来ているよ」

 玄関まで祖母がお出迎えをしてくれた。

 夕日を見たときのように、レニーニャの目は輝かせていた。

 すぐに靴を脱いで居間へと向かう。喜んで居間の戸を開けると、そこには魚以外にも貝系の料理が増えていた。

「すごい! この岩みたいなものも食べられるの!?」

 テーブルに座って、僕に問いただす。

「これはサザエと言って、中にある実を食べるんだ。僕はあまり好きじゃないけど」

「どうやって食べるの?」

 サザエを手に持って、手中でぐるぐると回している。

「この串を駆使するんだ。こうやって、テコの原理を使って……」

 僕は皿に盛られているサザエを1つ持って、鉄製の細い棒でサザエの中身をくり抜く。中身が出てくると同時にレニーニャから歓喜の声が上がる。

「すっごい!! こんな硬い岩の中に、グルグルのプニプニが入っているなんて!」

「このプニプニが苦手なんだよね。レニーニャさんは食べてみなよ。気に入るかもよ」

「いっただっきっまーす!」

 そう言って、壺焼きにしたサザエを食べると、目を見開いて、すぐに美味しいと絶叫する。

 その後も、これも美味しい、あれも美味しいとレニーニャは夢中で食べ続けていた。

 夕食後、居間の横にあるレニーニャと僕の寝室である6畳間で作戦会議を行うことにした。

「レイゼイ、分かっていると思うけど、1000年以上の時間の経ったものは化石以外には何もないの? 本当に何でも良いの。何かない?」

「いきなり言われてもな。あっ、そこにある海は1000年以上どころか地球が出来てからずっとあるけど、海水じゃだめなの?」

「海水でも大丈夫と言えば大丈夫だけど、その場合、海水の半分以上を使うことになるの。だから、この地球から水が、ほぼなくなっちゃう」

 海水を半分以上使ってやっと動き出すだなんて、それはエネルギーとして認めても良いのだろうか。

「どうしてそんなに……?」

「レイゼイたちの言葉で言う、液体って言うのは、私たちの船の動力源としての力が最も少ないの。順番で言うと、固体が1番、気体がその次、液体は1番力がないの」

「そんな重要なことは最初に言ってよ」

「ごめんなさい。とにかく、何でも良いの。なるべく固体の方が良いけど、ないなら気体でも良い。その周辺の大気をある程度この装置に吸い込めば力になるから」

 言いながら僕に道具箱である球体を見せてくる。

「それで海の近くの空気を吸い込めば? 海は千年どころか一億年前からあるよ」

「……液体の気体なんて、たかが知れているよ」

 目をそむけながら僕の意見を否定する。

「そうは言ってもなあ。1000年前に建てられた建物はあると言えばあるけど、この周辺にはないんだよ。あったとしても、遠すぎるんだ」

「そんな。それじゃあ、私は完全にお手上げってことなの?」

「まだ希望はきっとあるよ。明日、手がかりを探してみよう。きっと、必ず方法はある。こんなところで諦めちゃダメだよ」

 僕はレニーニャに言っているが、自分にも言い聞かせているように感じた。

「……そうだよね。希望は、まだきっとあるよね」

 少し顔を下に向けながらレニーニャはそう言った。

「そんな落ち込まなくても大丈夫だよ。きっと、きっと何か良い方法が見つかるよ」

「そうだよね」

 さっきから肯定はしているが、声色が否定的だった。

「ごめん。もう、寝るね」

 レニーニャはそう言って布団に入り、寝息を立てはじめた。

 僕も、明日に備えて眠ることにした。


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