14話
その日も涼を求めて外へと出た。
もちろんレニーニャも着いてきたので、少しだけ話をすることにした。
昨日座っていたベンチに座り、暗闇に包まれている海を見る。身震いがするくらい恐ろしいが、宇宙はこの海の暗闇よりも暗いとレニーニャは言っていた。
「レニーニャ。君がお風呂にいる間、祖父母と話をしていたんだ。僕、今は夏休みだからこうして君と一緒にいられるけど、夏休みは、そんなに長くない。あと2週間もしないうちに終わってしまう。だから、君を必ずイニジードへ戻す」
「無理しなくても良いよ。私、地球で暮らす覚悟もしているし、エネルギーだってもう――」
「絶対にエネルギーも見つける。絶対に何かあるはずだから。たしかに地球はイニジードと環境が一緒なのかもしれない。だけど、レニーニャがいるべき場所は地球じゃない。イニジードなんだ。もちろん、僕もレニーニャとは、ずっと一緒にいたいよ。……天然自然のエネルギーを使えば、何とかなるはずだ。前にも言ったでしょ? 僕たち人類は、自然の力には勝てないって。その力を駆使すれば、エネルギーだって満タンになるよ」
僕は一切レニーニャと目も合わせず、暗闇に染まっている海を見ながら話をしていたが、やがてレニーニャも話を始める。
「レイゼイがそこまでしてくれるのは嬉しいけど、今は地球に残ることを最優先に考えるよ。何か大きなエネルギーが何か見つかりそうだったら、それを使わせてもらう。それで良い?」
彼女に目を向けると、ジッと海の方見ていた。
本当は、嫌だ。
一緒に地球で暮らしていきたい。
その本音を、どうしても僕は言えなかった。
「分かったよ。何か良いエネルギーが見つかるよ」
「候補はあるの?」
「台風くらいしか思いつかないかな……」
この時期になると、台風がやってきたと思うと過ぎ去っていき、さらにまた登場することが多々ある。
しかし、毎回のように県内には膨大な被害を与えることなく過ぎ去ってしまうので、台風も役には立たないだろう。
やはり、地球に残ってほしい。一番マトモな選択肢は、それしかない。
だが、彼女にイニジードへ戻れと言ってしまった以上、前言撤回するわけにもいかない。
「地球はすごく良い星だよ。この未知の惑星に、例え偶然でも不時着出来たのは、私は不幸だって思わない。正直言うとね。この星に不時着したときもう私、死ぬんだって思ったよ。こっそりとエネルギーを補給して、最悪の場合はこの海のエネルギーを全て使って、脱出しようって思っていた。でもレイゼイと会えたから、そんなことせずに済んだんだよ」
「君は僕と出会わなかったら、侵略者になっていたって言うこと?」
「侵略者、か。正確には破壊者と言うべきかもね。ここまでイニジードと酷似した星も珍しいよ。今までこんな星、見たことなかったんだもん。私がレイゼイと初めて会ったときヘルメットを脱いだのは、イニジードと環境がほぼ同じで、ヘルメット内のコンピュータにも脱衣可能と表記されていたんだ。だから、レイゼイに素顔を見せた。でも本当に驚いたよ。何もかもイニジードとほぼ同じなんだもん。ひょっとすると、この星はイニジードの過去の姿だったりしてね!」
「面白いこと言うね。つまりレニーニャは、未来の地球人って言うこと?」
僕は冗談交じりでレニーニャに質問すると、微笑みながら答える。
「否定はしないよ。私、イニジードの歴史には疎いから、詳しくは分からないけど、レイゼイはひょっとすると、私のご先祖の可能性だって否めないもんね」
あははと笑っている彼女が、とても愛おしい。
イニジードには戻ってほしくないと、今にも声に出して言ってしまいそうだ。
言ってしまえば、レニーニャは地球に残るだろう。
だけど、彼女の人生を、僕の身勝手な発言で決めてしまうのは、いかがなものだろうか。
残ってくれと言うと、返ってくる言葉は、必ずイエスだと分かる。宇宙船のエネルギーが足りていないのだから、地球に残るしか、選択肢はない。
雲に隠れていた月が顔を出し、月明かりで少しずつ明るくなっていく海を見ながら、僕は彼女に話す。
「本当にエネルギーが見つからなかったら、地球にいるんだよね? そのときは、僕と2人で暮らさないか? 宇宙船をどうするかは君に任せる。あれはレニーニャのものだから、僕がどうこう言えるものじゃない」
「どうしたの、急に」
「何度か言っているでしょ。僕の家には、もう既に他人が転がり込んでいる。祖父母の家にもいつまでもいるわけにはいかない。ここじゃないどこかへ一緒に引っ越そう。高校を卒業したら、ここじゃないどこか遠くで、一緒に暮らそう」
話している途中で、自分の話す言葉にゾッとする。
僕は、遠回しに彼女に告白しているようなものだ。
「だけど、エネルギーの候補も見つからないんでしょ? そのときは、レイゼイと一緒に暮らすよ」
僕の方を見て微笑んでいる彼女を見て、僕は口内が乾ききっていることに気付く。
向こう側には、旧灯台がライトアップされているのが見えていた。
「そろそろ戻ろうよ。レイゼイも疲れたでしょ?」
話し終えると、彼女は大きな欠伸をしていた。
生返事をして、僕たちは祖父母の家へと戻る。
既に布団は敷かれていたものの、僕たちは布団には入らず、居間で五分程の短いニュースを見ていた。
「市内で集中豪雨があり、川は氾濫し……」
「この雨って、私たちを濡らした雨?」
「多分ね。集中豪雨って言っているけど、夕立のことだろうね」
テレビには見覚えのある市内の映像が映る。
突然の豪雨に困り果てて走っている人や、川の水が氾濫し、道路に浸水している映像が流れている。
このような光景は特に珍しいわけでもない。
毎年夏になると、このような映像が流れるのは、もはや恒例である。
「時折大きな雷も鳴り、市内では小規模ながらも停電が発生いたしておりました」
「雷って?」
「詳しくは知らないけど、雲の中に溜まった電気が放出される現象だよ。このあたりは日本一雷が鳴る地域だし、別にすごいことでもないよ」
「結構すごいことだよ……」
ボソっと彼女は呟いていたが、僕は聞こえないふりをする。
しかし、雷の力は確かにすごい。
毎年、冬が近づくと、夜中に鳴り響く雷鳴で悩まされるくらいだ。
もちろん、電化製品への影響も少なからずある。
電子レンジが突然ショートしたり、テレビの基盤が焼けてしまったりしたことがある。
そして、意外なことにも停電はあまり起きていない。
冬の雷のすごいところは、轟音も聞こえてくると言うのもあるが、地響きがするほど大きな音なのだ。このおかげで何度寝不足に陥ったかは覚えていない。
「ねえ。雷の力って相当すごいものなんでしょ? エネルギーに使えないかな?」
「エネルギーに変換すれば、一気に力が蓄えられると思うよ。だけど、本当に危ないんだ。雷に当たれば死ぬからね。僕は当たったことはないけど、毎年ゴロゴロ鳴っている雷の恐ろしさは知っている。だからそんな危険なことはやめてよ」
「そ、そっか。じゃ、やめておくよ」
僕の声音を聞いて、非常に危険だと察してくれたのか、レニーニャはそれ以降、雷について触れてこなかった。
僕も雷のエネルギーは莫大だと言うことは分かっている。
その分、死の可能性だって大きくなるのだ。危険を冒してまで、彼女にイニジードへ戻ってほしくはない。それなら、別のエネルギーを見つけたい。
「ふああ、そろそろ寝ようよ。眠くなってきちゃった」
大きな欠伸をしているレニーニャを見て、僕も釣られて大きな欠伸をする。
僕とレニーニャは洗面所で歯を磨き、布団の中へと入った。
「レイゼイ、明日はどうするの?」
「何も決めてないなあ。これ以上行く場所もないし、エネルギー探しでもする?」
「……うん」
どこか気力のない返事をした後、おやすみと言って、彼女は僕に背中を向けて寝息を立てていた。
僕もレニーニャに背を向けて、眠りに就いた。
明るい満月と星明かりが、僕のことを照らしていた。
つづく
これで自然の力で出来たエネルギー編は終わりです。どちらかと言うとお風呂がメインになった気がします。




