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涙のハグ  作者: 櫟 千一
プロローグ
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プロローグ

お久しぶりです。

去年の夏に出版社に向けて投稿したこの小説ですが、一次審査も通りませんでした。他のサイトに投稿して、なろうに投稿していなかったので投稿していきます。


プロローグ


 高校生になると、もっと自分は大人になっていると思っていた。

 大人に交じって、一緒にアダルトな話をしているんだって思っていた。

 だけど、そんなことはなかった。

 相変わらず考えることは空想や妄想。周りからは良い年をして、いつまでも子供染みたことを考えるのはよせと言われる。

 夢を大きく持てと言っていた親にまで言われたときはさすがに参った。

 自分で夢や想像を持てと言っておいて、成長するにつれて、今まで考えてきたことを全て破棄し、現実の考えを受け止めろと言うのはどうしてもできなかった。

 いつまでも自分の考えを持ち続けるのは悪いことではないと思っている。どんなにヘンテコな考えで、誰からも共感を得られなくても、自分なりに考えついたものは、いつまでも持ち続けたい。

「準備できたか? そろそろ行くぞ」

 母親の声でハッと我に返る。

「じゃあ、なるべく早く戻ってくるから。しばらく家でのんびりしていてね」

「あいよ~」

 母親は自分の愛人にそう告げた後、キッと僕を睨んでくる。

「ほら、行くぞ」

 返事もせず、母親の背中を追いかける。

 これから先祖の墓参りのため、母親の車で田舎の親戚の家へと向かう。

 車内では特に話すこともなく、ラジオだけがひたすらに流れていた。

 海辺の自動車専用道路に入ったあたりで、母親が話しかけてくる。

「冷泉、進路はどうすんだ?」

「……分からない」

「分からないってお前、今何月だと思っている? 8月になっても分かっていないなんて。受験するならもう勉強していないと大学に入れないだろ。お前の思っている以上に大学受験は甘くないんだからな?」

「……分かっているよ」

 高校3年生になってから、進路のことばかりだ。

 母親の言う通り、この時期になっても進路が決まっていないのはクラスで1人だけだ。

 高校最後の夏休みになると、就職する者、大学へ行くために勉強する者がいる中、クラス内で、いや、学年で1人だけ進路が決まっていないので夏休みになっても、決められた日に高校へと足を運んでいる。

 このままなりたいものもなく、ただ適当に工場などに就職してしまうべきなのか、それとも専門学校や大学に進学して時間を延ばして新たな進路を見つけるべきなのか。周りから見れば、実にくだらない理由で悩んでいるのが僕こと逢瀬おうせ 冷泉れいぜいの状況である。

 担任は「今しか悩めないから、最善の選択をしなさい」と言う。

 大学へ行くにしても学費のことを考えると行く気がしない。

 車内で、母親は僕に話しかけてくる。

「そんなに迷うのならいっそのこと就職してしまった方が良いと思うぞ。お母さんを助けると思ってさ」

「……考えておく」

 そうは言ったが、本当は、就職はしたくないと思っている。

 自分で働いたお金はもちろん家にも入れるが、そのお金が母親の愛人に消えるのは、たまらなく嫌だ。

 穏やかな海の波を見ながら僕は考える。

 答えが出ないのは分かっていたが、フリだけでもしておかないといけないと思ったからである。

 無言が続くこと約1時間、周りは海と山だけになってきた。

 この辺りは働く場所も、学校も、コンビニすらなく、若者はみんな進学や就職のために都会へと出て行ってしまう。所謂、過疎地域と言う場所だ。

 しかし、僕はここが結構好きである。

 自分に対して文句を言う者もいなければ、静かで、人も少ないからだ。

 相変わらず集落しかないこの辺りの人々は、漁師や釣りで生活を営んでいる。野菜などは基本的に自給自足だが、どうしても必要な場合は、車で1時間ほどかけてスーパーマーケットまで買いに行っているそうだ。

「ほら、着いたぞ。線香持て」

 祖父母の家の前に車を止める。今は中に入らず、先に墓参りをしてくることになる。

 左手にある線香のセットを持って、僕と母親は車から降りて、先祖が眠る墓へと歩く。

 横には並びたくないので、彼女の背中を追いかける形になる。

 日本海の潮風がとても心地良い。夏だからこそ、そう感じるのかもしれない。

「冷泉、線香」

 母親の声を聞いて、右手に持っていた線香を渡すと、慣れた手つきでライターに火を点ける。風が強いので中々火が立たず、少しイライラしている。

 前でカチカチと聞こえる中、海の方に目を向けると、キラキラと光るものが見えた。

 漁船だろうと思ったが、漁船にしては小さすぎる気もする。太陽が海に反射しているだけなのだろうと勝手に解釈し、線香に火を点け終わった母親と共に墓前で手を合わす。

 ある程度手を合わせた後、母親は立ち上がり、車のある場所へと戻って行くので、僕もカルガモの親子のように着いていく。

 もう一度、海に目を向ける。

 やはり、漁船にしては小さい何かが、こちらに向かって動いていた。

「冷泉。何してんだ。行くぞ」

「うん」

 潮風が強く吹いた。僕は海に背を向けて、再び歩き出した。



 この後は祖父母の家に行って昼ご飯を食べるのが恒例である。

 しかし、今はあまり行きたくない。

 歩いて1分もかからずに親戚の家に着く。すぐに祖母が迎えてくれる。

「冷泉、よく来たね。じいちゃんも会いたがっていたから、顔を見せてあげな」

 生返事をしつつ、僕は靴を脱ぐ。

「夜冬、あんたもよく来たね。あがっていきな」

「ああ、言われなくても入るよ」

 母親より一足先に、古風な家の中へと入る。

「……おお、冷泉、しばらく見ないうちに大きくなったな。今いくつだ?」

 祖父が僕の顔を見て毎年同じことを言ってくることも恒例になりつつある。

「今、高校3年生だよ。今年で18歳になる」

「もうそんな年か。それで、冷泉は大学へ行くのか?」

 最もされてほしくない質問をされる。僕が行きたくなかった理由はこれだ。

「まだ、決めてない」

「……そうか。まあ、焦らなくても良い。ゆっくりと決めろ」

 祖父もそう言うが、現実は厳しい。

「冷泉も夜冬もよく来たね。疲れただろう? ご飯作っておいたよ」

 そう言って祖母は手作りの海鮮丼や刺身を持ってくる。

 食べている間も、ずっとあのキラキラと光るものが気になっていた。

「これ食べて少し休んだら、すぐ帰るよ。明日も仕事があるから」

「あら、そう? もっとゆっくりして行けば良いのにね」

 母親の言葉を聞き、僕は焦燥感に駆られる。

 あの光るものの正体がどうしても気になったからだ。

 急いで赤身や光物で装飾されて芸術のように盛られている丼を口の中へとかけこみ、すぐに立ち上がる。

「ちょっと、散歩行ってくる」

 立ち上がると、母親は僕を睨みながら言った。

「冷泉、早めに戻ってこいよ。お母さん、早く帰らないといけないんだから」

「……分かってるよ」

 返事をして、玄関で靴を履き、外へと出た。

 夏の日差しが僕に容赦なく照りつける。

 母親の先ほどの明日は仕事と言う言葉、僕は知っている。


 あれは嘘だ。


 早く愛人と会いたいからあのようなことを言っているのだ。

 僕の家庭は、僕が小学校にあがる直前に離婚している。つまり母親と僕の二人暮らしなのである。

 しかし、高校2年生の2月頃、母親はいきなり見知らぬ男を家に連れて来た。

 そして、今日に至るまでずっと居候させているのだ。

 10年近く2人で暮らしてきたので、いきなり知らない人間が家に転がり込まれると、僕は居場所がむしばまれていくような気がして、たまらなく嫌だった。

 しかし、僕は何の力も持たない、ただの高校生。男に向かって出て行けなど言える勇気もなく、ただひたすらにヘコヘコと媚び諂うだけ。

 情けないとは思っている。

 でも、腕力も学力も何もない、ただの無力な大人でもない、子供でもない、高校生と言うことは自覚している。

 何も出来ないのは重々承知。自分の人生なんて、こんなものなのだろう。

 今は使われていない木造灯台の側で、寄せては返す波を見ながら、頭の隅で考え、キラキラ光っていたものを探す。

「……やっぱり、ただの反射だったのかな」

 そう呟いて、灯台を見る。

 この小さな木造灯台は、日本最古のものだそうだ。400年前からあり、ずっとこの荒くれる日本海を見守ってきた。

 木造灯台を見終わった後、祖父母の家へ戻ろうかと思ったが、もう少し散歩をすることにした。やはり、もう少しここの静かな雰囲気を味わいたかったからだ。

 祖父母の家へと続く坂道を横切り、少し進んだところには海へと降りる道がある。

 手すりがあり、コンクリートで補強されているが、決して安全な道ではない。

 しかし、海水にも触れておきたかったので、僕は階段を降りていく。

 もちろん、砂浜があるわけではない。

 岩石しかないので非常に危険だが、海に入りたいと言う気持ちには敵わなかった。

 水は透き通っていて綺麗だが、周りはお世辞にも綺麗とは言えない。

 ゴミが散乱し、酷いときは注射器なども浮いている。

「相変わらず、だな」

 綺麗な岩場にしゃがみ、優しく押し寄せる波を感じていると、自然に出来た岩穴から何かが落ちる音がした。風で何か落ちたのだろうと思いつつ、海を眺める。

 とても綺麗だった。悩みを今の間だけ、忘れさせてくれる気がする。

 直後、穴の中から轟音が聞こえる。金属の音も聞こえたので、そっと僕は立ち上がり、岩場から岩場へ移動し、物陰になっている空洞の場所へ、何があったのか見てみる。

「えっ……」

 僕の目に入ってきたものは、にわかに信じがたいものだった。現実で見てきた機械系の乗り物全てと合致しない。そこにあったのは、映画やマンガでよく見るUFOだった。

「う、嘘……だろ、これ、UFO……?」

 信じられないが、間違いなく、地球にある機械ではない。

 安い映画だと、こう言う場合、発見した人間が真っ先に殺されるのが定番だ。

 だが、今はそんなこと考えている暇などない。

 すぐに岩から岩へと飛び移り、謎の機械に近付く。

 いきなり触れるのはまずいと思ったので、少し離れて近くにあった石を投げて、さっと岩陰に隠れる。恐る恐る機械に目をやる。

 無反応。

「もしかして、壊れているのか?」

 すぐに僕はあることに気付く。

 まさか、先ほど見えていたキラキラ光るものの正体は、これだったのではないかと。

 近付いても攻撃性はなさそうなので、近くでじっくり見てみる。

 先ほど石を当てたのに、傷一つついていない。すぐ近くに転がっていた石で強く叩いてみるが、傷がつくどころか、石が真っ二つに割れた。

 少し大きめの岩を持ち上げて、マシンにぶつけようとしたとき、僕の横から誰かが飛び出してくる。

「う、わっ!」

 海水で出来た水たまりにドボンと鈍い音を立てて岩が落ちる。

 全身がアーマースーツのようなものに包まれていて、頭にはヘルメットのようなマスクを被っているので顔が見えていない。

 見た目は同じ人間だが、持っているものは随分と物騒な銃のようなものだった。反射的に両手を上にあげる。

「あ、あの、僕、えっと、そんな、つもりじゃ……」

「……! っ! …っ! ……!」

 宇宙人は僕に向かって何か話しているが何を言っているのか聞こえない。

「と、とにかくその物騒なものを下ろそう? ね? 僕は何もしないからさ……」

 言語は通じないと分かっていても自分の命が惜しいので必死に日本語で抵抗する。

 しかし、宇宙人はどう言うわけか、本当に銃のようなものを下ろす。何でも言ってみるものだと安堵する。銃をしまった宇宙人はヘルメットを外し、長い髪が露わになる。

 そして僕の方を見て、話し始める。


「あなたは、この星の生き物なの?」


 いろいろと聞きたいことはあったが、最初に出た言葉は


「き、君、日本語、話せるの?」


 だった。


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