第62話-入ったお店で-
「……ナイフが嫌なら、その手を離してくれないか?」
男性はクラウを睨みながらそう言うが、クラウはその手を離さない
脇腹にナイフを当てられてもなお……その手を離さないのは理由があった
『この手を離せばリノエが危ない
もちろん……リノエがこんな雑魚に負けるとは思えないが』
そうクラウは思いながらリノエを方を見ると女性がリノエめがけ殴ろうとしている
「首元を掴んだだけで満足したみたいですね?」
しかし、その拳はリノエに届かない
まるで読んでいたかのように女性の拳はリノエの空いている手によって防がれる
「……御託はいいのでさっさと理由を説明しなさい」
「さっきも言ったじゃないですか、クラウのファンだって」
「ファンなのにナイフ……を突き立てるのですね」
「あの人はファンじゃないからね」
そこまで女性が話をした直後……女性の眼つきが変わった
先程までの緩い感じではなく……まるで『暗殺者』のようなそんな眼つき
「……それでは」
リノエの掴んでた手を何もせず、抜け出し後ろにバックステップすると
男性はそれに合わせるように先程よりもさらに強い力でクラウの手を振りほどき
2人はどこかへ走り去ってしまう
「チッ……逃がしたか」
「……あの2人、嫌な感じが」
「嫌な感じ?」
「ええ、最後……逃げる時の感じ……気のせいだといいんですが」
「……まぁ、大丈夫だろう……次会った時は襲われそうだけどな」
「そうですね」
クラウとリノエはそう言いながら自分の服を叩くと元来た道を歩きながら話す
「で……あの2人の目的はなんだったんでしょうね」
「多分雅ちゃんだろ……人気もない弓であそこまで快進撃をしたんだ
気になってくる輩もでてくる頃だな」
「……なるほど、まぁ……明日からペアを組めるので
そこから一気に駆け上がるのが理想ですね」
「ああ……ここよりも上にいけば多少は治安がいいはず……」
「そうなんですか?」
「きっと、な」
「はぁ」
リノエはクラウの発言に首を横に振るい、溜息を付きながら歩いて行く
その頃……雅とリーナは先程の位置から近い場所のお店に入っていた
そこはバーカウンターみたいな席が5つほどの狭い店
店の主人は女性で空いている席は5つ
そんな状況にリーナは店の女性に話しかける
「今って……営業中?」
その言葉に睨む事なく、女性は笑顔で洗い物をしながら答える
「ええ、やってるわよ」
「それじゃ、雅……座ろ」
「はい」
リーナと雅は一番奥の席に座り
リーナはメニューらしき物が書いてある紙を見る
「……えっと」
「どうしました?」
雅はリーナの困った顔が気になり、リーナの見ているメニューを覗き込む
するとそこには……
「えっと……『アジ』『サバ』『サラダ』ですね」
雅はメニューに書いてある紙の一番上から3つほど読むが
特に可笑しな事はなく、リーナの顔を見るとリーナは雅の顔を見ながら言う
「ジアとかバサなら知ってるけど……雅はこの食べ物知ってるの?」
「え、ええ……」
リーナの質問に雅はやや困ったように頷くと雅はある事に気づく
それはメニューの名前だけで、リーナは困った顔をしているのだ
もちろん、名前を逆読みから元に戻しただけなので雅からしたら
こっちが正常なのだが……リーナ達からしたらこっちが可笑しい事になる
「……ふふ、ごめんなさいね」
店の主人の女性は微笑みながら言うが、洗っている物の手を止めない
まるでリーナと雅がまだ注文をしない事がわかっているように
「リーナさん、たぶん……大丈夫だと思うので
ここは私にまかせてください」
「そ、そう? じゃあ雅にまかせる」
そうリーナは言いながら雅にメニューを渡し、雅はメニューを見ると
そこには慣れ親しんだメニューばかりが並んでいた
『ヤサイイタメ』『タマゴヤキ』『ヤキソバ』『ギョウニュウ』
その他にもいろんな種類のメニューがある
その中から雅が店の女性に頼んだのは……
「すみません、『ヤキソバ』を2つ、お願いします」
「はーい」
店の女性は笑顔で雅の言葉に返事すると、洗っている物を置き料理を始める
雅はその様子を見ていると隣に座っているリーナは小さい声で心配そうに雅に聴く
「ね、ねぇ……大丈夫よね?」
「何がですか?」
「さっき頼んだ食べ物……私食べた事ないんだけど」
「大丈夫ですよ、きっと美味しいです」
「雅って……この食べ物食べた事あるの?」
「あっ、はい……ありますよ」
「そうなんだ」
リーナはそう言いながら雅の顔を見ると雅はどこか遠くを見るような
そんな目をしている事に気づいた、しかし……リーナは雅にそれについて
聴く事無く、出された水に口を付けると黙って料理を待つことにした




