第54話-1人の語り草-5
そう私の突きはクラウの脇腹に刺さるはずだった……
しかし、クラウはそのナイフを握る
握った左手からは血が流れているが、私の目の前のクラウは
痛そうな顔をせず、右手のロングソードを構えるのを見た
私は攻撃を警戒し、ナイフから手を離し後ろにバックステップする
『あーあ、これでバグナグ1個とナイフ1本無くなった』
私が後ろに下がった直後、クラウはそのナイフを投げず
血だけを払うと自分の懐に仕舞う
『チッ……それが正解』
私は心の中でクラウを褒めてしまった
それはなぜか……もしも、クラウがそのナイフをどかに投げてくれれば
私がそれを拾い、もう一度そのナイフで攻撃する事ができたから
しかし、クラウは私のナイフを懐に仕舞い、私には返さない態度を示している
「次は俺の番かな……リーナ、吃驚してこけるなよ?」
クラウの自身満々の声が私に聴こえる
私は残った左手のバグナグと隠してあるナイフに右手を置き、臨戦態勢に入る
その直後、クラウのロングソードに炎が宿る
『inflammation enchant』
クラウの言葉と共にロングソードに宿った炎はクラウ本人が近寄ろうとも
触ろうとも、クラウを焼く事はない……まるで意志があるかのように見えた
「なるほど……それが金紅の正体か……」
「……ああ、女性相手に使うのはちょっと抵抗あったんだが
まぁ、あんた相手なら問題ないだろ」
「……そう? でもね」
私は再度魔法を使い姿を消す、一度使えばばれる危険性がある魔法を
なぜもう一度を使うか? それは簡単な理由
私が姿を消したのをエイナスは見ていた
それに合わせ、リノエから大剣を取るように力を込めると
リノエは簡単に手を離す、それに合わせクラウの視線外から距離を詰め
エイナスは大剣を横に払う
しかし、その一撃は両腕をクロス状に自分の前に構えたリノエに防がれる
「……腕を俺の剣を?!」
エイナスはリノエが腕で攻撃を止めたように見えたけど
私からは『それ』がはっきりと見えていた
そう、それは……私がクラウに取られたナイフ
あの一瞬でクラウは懐に仕舞ったナイフをリノエに投げ
それを受け取ったナイフを使い、エイナスの攻撃を受け止めた
まるでどこかの芸を見ているような精練された動きだった
『すごい……完全にクラウの視覚外だったのに』
「まったく……少しは頑張ってください、私の負担のほうが多いです」
「悪い、今から俺が頑張る番だ」
エイナスの攻撃を受け止めた状態のリノエは笑いながらクラウに微笑み答える
エイナスが攻撃してる最中に私が攻撃できればよかったのだが
1歩ミスれば私とエイナス同時に倒されてしまう
だけど……私はこの一撃に全てを賭ける
2人の一瞬の隙を付き、私はリノエの背中に周り込み、2人の隙間に入る
もちろん……魔法は効いており、見えていないのだろうけど……
もう、魔法は時間が切れる……だからこそ……この一撃を!
私は左手のバグナグを右手に付け直し……思いっきりのクラウの腹めがけ
拳を伸ばし、右手から左手に持ち替えたナイフを後ろのリノエに突き刺す
「っ……!」
リノエの痛そうな顔とクラウは腰をくの字に曲げる
その直後、私のその場に姿を現す
「よくやった……リノエ、これで終わりだぁぁ!」
エイナスは攻撃を受け止めたリノエが抑える手が緩んだ隙を付き
大剣を思いっきり上に構える、その場に叩き下ろす
その衝撃を間一髪、横に避けたがその反動でリノエは吹き飛ばされる
「へっ……こんな奴、助けなければ勝てただろうに」
だが……その直後
エイナスの左腕のガントレットと剣を持っている右腕の鎧が溶けていく
「なっ?!」
エイナスはそれに気づき、慌てて右腕の溶けてないほうを取り
どこかに投げ飛ばした直後、エイナスの目の前にクラウがいる
私がエイナスの攻撃に巻き込まれないように距離を取った隙に
エイナスの前に動いたのはわかった……
しかし、私の攻撃を受けた直後に既に動いている事になる
「……」
クラウは無言で剣を振るう……その炎はエイナスの胴体の鎧を溶かす
すると、エイナスの上半身は裸になり
背中を覆っていた鎧は無残な状態でその場に落ち音を立てる
さらにクラウは唖然としてるエイナスを余所に剣を振り
今度は下半身の鎧を斬ると、先程と同じように鎧は溶けてなくなり
残ったのはエイナスのはいているパンツと持っている大剣になる
「どうする? まだやるか?」
「あ、当たり前だ!」
エイナスはそんな状態でも大剣を構え、クラウに臨戦態勢を取るが
クラウは後ろを向き、私に向かって歩いてくる
それにイラついたエイナスはクラウの後ろから斬りかかろうとする
しかし……エイナスはその場に倒れる
「……火炙りより……ましですよ」
吹き飛ばされいたリノエがクラウの魔法に気を取られたエイナスの
胸元にもぐり込み、素手で腹を思いっきり殴る
その一撃でエイナスは気絶し、その場に倒れるが……それを支える事無く
リノエは体を横に避け、エイナスは何もない場所に倒れ込む
「……どうする? まだやるかい?」
「……ええ、と言いたいのだけど、このままやったら私の恥ずかしい恰好と
そこのリノエさんに殴られるいやーな想像しかできないからやめとく」
「了解だ」
そうクラウは言うと魔法を解き、ただのロングソードを鞘に仕舞うと
審判のフードの男性が大声で叫ぶ
「試合終了、勝者……クラウ&リノエ」
その言葉と共に観客席からの声が広場に届くが
その言葉に笑顔を浮かべる事なく、クラウは広場を後にする
それに若干の疑問を感じた私だが
先に倒れているエイナスを医務室に運ぶ事を優先した
その後……エイナスがベットで目を覚まし
私に試合の結果を聴いてきたので答えるとエイナスは何を言わずに私を睨み
医務室の人から受け取った黒いフードを羽織ると……ベットから起き上がり
医務室の外に出る直後、私の方を向き、言う
「てめぇとは2度とくまねぇ……根性がないやつなんざお断りだ」
そう言い残し……医務室を出ていく
しかし、私はその言葉に何も感じず、私は医務室を後にする
それから宿屋で一泊した後に、エイナスが私とのパートナー契約を破棄し
どこかへ行ってしまった、多分だがあの後、別のパートナーを見つけ
ランキングを上げ、次の街に行ってしまったのだろう
私は残ったお金を使い、建物を借り……服屋を始めるが
中々売れず、情報屋も始めた
そして……思いもよらない事に情報屋の方が評判がでていき
そっちでお金が稼げるようになったせいか、私は闘技場に行かなくなった
それからしばらくして……暇を持てやますように自分の店でぼーとしていると
2人のお客が店の中に入ってくる
それはメイド服の着た『彼奴』ともう1人、見たことのない服を着た女の子だった
『……リノエ、リノエ・バークライト』
しかし、当のリノエは私を覚えておらず、後にあったクラウも私を覚えてはいない
と思ったのだが、クラウの方は私を覚えており……今にいたる
これが私とリノエ、クラウとの出会い
誰にこんな話をしているかって? 私の心の中の話を聴いたあなたじゃない?




