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始まりの異世界  作者: てぃあべる
28/70

第28話-誰がために-

「それだけ……ですか?」


「ああ、それだけだ、それ以外に何がある?

 初対面に近いお嬢ちゃんに」


「たしかに……そうですね」


雅がそう男性の言葉に頷いた時、店の男性は本当に小さな声で

独り言のはずなのだが……雅に聴こえてしまう


『生きてれば……娘と同じぐらいか……』


雅はその言葉に反応し、つい男性に聴いてしまう


「娘さんが居たんですか?」


その言葉に男性は口をあんぐりと開けた後……悲しそうに答える


「そうだ、居たんだ……娘と妻がな……だが、戦争で死んだ」


「それは……」


雅は下を向き、悲しそうな表情をすると、男性は慌てる事なく天井見上げ言う


「嬢ちゃんが悲しむ事じゃない……もうかなり前の話だからな」


「でも……」


「いいんだ、それとこんな事話しちまったついでにその短剣は

 娘にあげるはずの短剣なんだ、誕生日に護身用としてな」


「え……それなら、お返しします! そんな大切な物を!」


「いいんだよ、嬢ちゃんに使ってもらったほうがそれも喜ぶさ」


「でもっ……!」


雅は叫ぶように言おうとした時、クラウが雅の右肩に手を置き、首を横に振る

その行動に雅は疑問を感じ、クラウの顔を見ながら言う


「クラウ……さん?」


「いいんだよ、それは雅ちゃんのだ……そうあの人は言ってるんだ」


「でも……これは」


「だからこそだよ、あの人は君に娘と被ったんだろうね

 それで、それを渡したかったんだよ……」


クラウは笑顔でそういうが、その笑顔にはどこか悲しみが入っていたように

雅は見え、その言葉をクラウから聴いた時、店の男性は両目を閉じ頷く

それ以上……雅が言える言葉はここにない。


「……わかりました、その変わりに……おせっかいですがお礼をさせてください」


「お礼? そんなもんは……」


男性は雅の言葉に反応し、顔を雅の方へ向いた時

クラウと男性は同時に驚いた


満面の笑顔で両手に短剣を持ち、男性に雅は笑顔で言う


「ありがとう、『お父さん』、これ大切に使わせてもらうね

 その変わり、これをお父さんにあげる」


驚いたままの男性は雅から渡されたハンカチを空いている左手で

力なく受け取る……と、男性は涙を零す……

雅のその行動は娘と被ったのだろう……


「……娘でもないのにお父さんなんて……呼ぶな」


「ごめんなさい、でも……娘さん、きっとこうするはず……だと

 勝手に思っちゃいまして……ごめんなさい」


「……ったく……嬢ちゃん、名前はなんて言うんだ?」


「え? あ、えっと……九重雅って言います」


「雅か……しっかり頑張ってこい、これは雅がランキング1位になったら

 返しに行ってやる、だから……頑張れよ」


その時の男性は体を反対方向へ向け、涙を2人に見えないようにし

まるで恥ずかしそうにそういう……雅は男性に一礼すると店を後にする

しかし、クラウは男性の背中に声をかける


「……よかったな」


「うるさい、金髪、お前は『家の娘』を守れよ、必ずだ

 さもないと……お前さんをブッ飛ばす」


「わかってるよ、あれだけの事を雅ちゃんはしてくれたんだ

 それに答えてみせる……またそのうち来る」


「2度とくんな、だが、もしも……次来るときはせめて

 ここから次の街に行く時にでもきな、雅には内緒にな」


「了解」


クラウは右手をあげ、男性の背中に挨拶すると店を後にする

その後……男性は煙草を一つ口にくわえ、マッチで火を付けると

天井を見上げながら独り言を言う


「……ったく、この年でまた娘ができちまったよ

 そのうち、見に行ってやるか」


その時の男性は泣きながら笑顔を浮かべていた……



その頃……リノエとリーナは……


「これでいいかな」


リーナはできた服を広げ、リノエに見えるとリノエは微妙な顔をし

口に出さず、心の中で思う


『……赤い、たしかに薄い色で見た目は良いけど……絶対、悪目立ちする』


「どうしたの?」


リーナはリノエの表情に気づき、声をかけると、リノエは『なんでもない』と

答える、しかし……その後のリーナの行動にリノエは驚く


「はい、これ、メイドさんのね」


「は?」


「だから、この赤服、メイドさん用……サイズもたぶんあってる」


「……は?」


「だーかーら、雅の分は別に私が作ったの、白と赤で」


リノエは3度驚く……『じゃあ、あの時のジャンケンはなんだったの』と

それに今……リノエは、はっとし、リーナに聴く


「じゃあ、どうしてあの時、ジャンケンをしたんですか?!」


「ああ、あれ? あれは単にしたかっただけ、どちらにしろ

 雅は白で裾が赤で決まってたし」


「決まってた?」


「だって、そうでしょ? あの子に赤い服なんて似合うはずないでしょ」


リーナは左手で口を押えながら、笑う

その動作にリノエは呆れ顔を浮かべ……リーナに詰め寄り言う


「でも、私はこの服いりませんよ? ちゃんとこの服があるので」


「ああ、お金は取らないわよ、あげるあげる」


「……後で高額な利子でもつけるんですか?」


「つけないわよ、余った素材と材料で作っただけ

 使ったというなら『生地』ぐらいだし」


「……」


リノエは呆れ、言葉が出ないで言るとリーナは赤い服をテーブルに置き

もう1つの服を置くから持ってくる


「はい、これがあの子の分、それはあんたと作りたかっただけ

 作りたかったというより……メイドさんの『時間潰し』にはなったでしょ」


「あなた……まさか」


「え? もしかして気づかないとでも? 

 それに……あんなのでいちいち警戒される筋合いないから……」


リーナは右手で首の後ろの辺りを触ると微妙な顔でリノエに言う

リノエの最初の行動から全てが後手に回っていたのだ


「はぁ……」


「何溜息ついてんのよ……あんたが勝手に警戒しただけでしょ」


「それもそうなんですが……はぁ」


リノエはその場に座り込み、足を横に崩す

それにリーナは合わせるように、その場に体育座りすると何も言わずに座っている

それは……雅とクラウがこの店まで戻ってくるまで続いたと言う

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