第26話-対等な立場-
「ちょっといいか?」
クラウは椅子に座っている60代ぐらいの男性に話かける
すると、男性はクラウの方へ向き、口にくわえている煙草を手に持つと
嫌そうな顔でクラウに言う
「あん? ソードブレイカーならあの値段だ
彼女だかなんだか知らんが……女に持たせるにはもったいない」
「いやいや、ソードブレイカーは護身用には最適だろ?
女性に持たせても問題ないじゃないか」
「俺が嫌だ、ソードブレイカーは前線で戦ってこその武器だ
護身用なんて甘ちょろい考えで使われたら武器が泣くね」
「……こっちは客だぞ? 欲しいって言ってるんだから
多少値下げしてくれてもいいんじゃないか?」
「何が客だ、俺が提示してる額はあの1,000ベルだ
お前の眼は節穴か? ちゃんと見てこいよ」
「……」
雅がクラウの顔を見た時には、明らかに殺意をかみ殺したような顔で
店員の男性を威圧をしているが、男性はまた煙草を銜え
右肩膝を付くと、クラウを睨み返し……威圧的に言う
「で、お前の言い分はもう終わりか?
終わりならとっとと……どいてくれ、商売の邪魔だ」
「まだ話は!」
クラウがそう店員の男に言い寄ろうとした時、それを止めたのは雅
それを不思議に思い、クラウは自分の前に立った雅に言う
「どうして止める? まだ俺が負けたわけじゃないよ」
「いいえ、クラウさんは『始め』から負けてましたよ」
雅は横に首を振りながら言うと、クラウは納得できなそうな顔で雅に言う
そんな雅の後ろでややニヤケ顔だった男性が真面目な顔で雅のほうを見る
「どうしてだい?」
「だってクラウさんは交渉ではなく、始めからお店の人が値下げをしてくれる
そう思ってたからですよ……それに、いくらお客さんといえども
お互い『対等』な立場なんです、それを弁えなかった時点で
クラウさんの負けです」
雅は知っていた、自分の世界で多少、物を安くしてくれるのは
子供のお使い、または可愛いから……それ以外にも常連さんだったりと
いろいろな方法はあるが、こっちの世界に来ても、人と人の対話は変わらない
お互いが気持ちよく商売ができてこそ、それが一番気持ちいい物だと……
「ふん、女に言われるとは兄ちゃんもたいした事ねぇな」
煙草を口にくわえたまま、煙草を上下に揺らしクラウを煽る店員
クラウは無言でその男性に近寄ろうとした時、雅がクラウを止め
店員の前にでると……店員の男性に頭を下げる
「すみません、私のお友達がご迷惑をかけたようで」
その行動は謝られている男性もクラウも、クラウと男性のやり取りを面白そうに
見ていた取り巻きも、唖然した顔で雅を見、店員の男性は驚いた表情で言う
「な、なんで……お嬢ちゃんが謝るんだ? 悪いのはあの金髪だろ?」
「でも、あの……金髪さんは私のお友達で、私のためにやってくれた事です
だから、私にも非はあるんです、ごめんなさい」
雅は再度、その男性に頭を下げ、頭を上げるとクラウに声をかける
「いきましょうか、クラウさん……これ以上、ここにいると
お店の売り上げを落としちゃいますから……」
雅は納得のいかない顔のクラウの右手を握り、引っ張ろうとしたその時
店の男性は『何か』を雅に向かって投げようとする
それに気づいたクラウは雅の手を振りほどき
剣を構えると雅の壁になるように立つ……しかし、店の男性は投げずに雅に話す
「そこの弓を持った嬢ちゃん」
「え?」
雅がその男性に呼ばれ、後ろを振り向いた時、何かが雅の方へ放り投げられる
雅はそれを慌てて、両手で受け止め、それを確認する
「……これ、短剣入れ……中身もある」
「それは売り物にならない物だが、まぁ……使ってやってくれ」
「いいんですか?」
「あんたみたいな若い嬢ちゃんからあんな演説を聴けたんだ
あれはあげられねぇけど……それぐらいなら『タダ』でやるよ」
「ありがとうございますっ」
雅は両手で花をかかえるように短剣を持つと店の男性に頭を下げた後
店の外にでる……クラウもそれに続き、外に出ようとした時
買い物に来たであろう男性に店の男性に焦るように言う
「お、おい旦那、あれをあんな子にあげるなんて!
あれこそ『ソードブレイカー』なんかより値打ちもんだろ?!」
「そうかい? あれは俺が昔使ってた武器だ、そんなに良い物じゃない」
「そんなわけない! あれは……『スペル・エッジ』だろ
あんたが持ってた最も高い武器のはずだ!」
スペル・エッジ
エッジナイフと同じ形状、ただ違うのは武器の表面に異様なまでに
文字が彫られている、それを完全に解読できた物はいず
解読を試した者曰く、『魔法を砕く』彫られていたが、それを試した者はいなく
時間だけが過ぎ……今、スペル・エッジを求める者が急増している
しかし、元々遺跡から見つかった武器のため、個数は限られいるため
値段は破格とまでされた
「仮にあれがその、スペルエッジだったとしてもだ
お前さんにどうこう言われる筋合いはない、俺があの子を気に入ったから
あげただけだ、それにお前さんが買うと言っても、『あれは売り物じゃない』」
「……たがだが餓鬼の言い分に何、心を揺さぶられてんだよ、クソ爺」
そう男性が文句を言い、店を後にしようとした時
その男性の服がすべて、切りきざまれ……真っ裸になる
「なっ?!」
「おいおい、ここはストリップ場所じゃないぞ、外でやんな」
店の男性は何の動揺もなく、椅子の上で腰を動かし、片膝を付くと煙草を咥える
それは誰からみても、男性の服が勝手にやぶれたように見えたのだが
クラウだけは『見ていた』
『あの一瞬で……あの男の服だけを破いただと?!
あの爺……何者なんだ?』
その行動はクラウが店の男性に興味を湧く対象になったのは間違いない




