第11話-安らぎの部屋-
そして雅達が宿屋の部屋に戻る最中……特に何もなかった
雅はリノエに『ファン』だとか『惚れられた』とか言われたので
もしかしたら闘技場を出ると、出待ちがあるのかと思ったのだろう
それはまったくなく途中で話かけられる事もなく、普通に部屋に戻った
雅をクラウはわかっていたのか、笑顔で雅に話かける
「もしかして、出待ちとか合ったと思った?」
「ちょっとだけ……思ったかも……」
「ないよ、俺も最初はあるかと思ったけどファンとかは『あの場』だけ
また戦う時に覚えてて、応援はしてくれるよ」
「それぐらいなんですね……」
「そんなもんだよ、『ここ』はね」
「さて……私のご主人様、さっさとこの部屋を出て行ってください」
今まで黙って部屋のベットの上で腕を組みながら自分の足元に剣と盾を置き
座っていたリノエは腕を組みながら、雅に笑顔で話しかけているクラウは
首を横に振りながらリノエを半目で見ると言う
「どうして俺がここに居ちゃいけないんだ?」
「……この部屋を見てわかりませんか?」
リノエがそうクラウにそういうと、クラウは真面目な顔で言う
「2人部屋、それもすごく狭い、3人で寝るなら2人と1人だな
雅ちゃんは疲れてるだろうし、俺はリノエと……ぐはっ」
クラウが次の言葉を言おうとした時、その場で少しジャンプすると
体を回転させ回し蹴りをクラウの顔めがけ当てると
リノエはゆっくりと地面に着地し、驚いている雅に服の裾を両手で掴み一礼する
「お見苦しい光景を失礼いたしました」
しかし、その回し蹴りを浴びたクラウは顔を右手で押さえただけで
吹き飛びもしなく体を揺らす事はなかった
「……リノエ、お前……何をするんだ……?」
「あなたは女性に対する扱いを少しは考えなさい
雅が驚いています」
クラウは雅を見ると、両手で口を押え、持っていた弓を地面に落としながら
ベットの上に座っている
その雅をクラウは右手で頭を書きながら苦笑を浮かべると言う
「ごめんね……俺はそういうのが疎いようで……」
「い、いえ……って言うかクラウさん、大丈夫ですか?!」
「問題ないよ」
「当たり前ですよ、その人『私の蹴り当たってないですから』」
「え?」
「おっと、バレてたか……」
「先程の蹴りの直後に右手で受け止めてました
その手の痛みの変わりに頭に手を当て、当たった振りをしていたんです」
「さすが、俺のメイド、よく見ていらっしゃる」
「このぐらいの攻撃を受け止められなかったら、ここで死んでおくべきです」
その会話を聴きながら雅は寂しそうな顔をしたのをクラウとリノエは横目で
見ている、だからこそ2人はほぼ同時に雅に話かける
「雅」
「雅ちゃん」
「え? なんですか?」
「クラウ、先に良いですよ」
「いやいや、レディファーストさ、リノエ、いいなよ」
「では……雅、明日パートナ解除に行こうかと思ったのですが
理由は『私の力不足で』いいですか?」
「え?! リノエさんがじゃなくて私のほうが役にたてなくて」
「……違います、私の方が不足なんです、だから私の腕が上達したら
また雅にパートナー契約を申し込みます」
「ほぅ……って事は俺がパートナーだったら奪い取るってことか?」
「そうなりますね、ご主人からパートナーを奪うと言うのは
実にテンションが上がるお話じゃありませんか?」
「逆だったら実に燃える……うらやましいかぎりだ」
「……それまでは雅をお願いしますよ、ご主人様」
「おまかせあれ」
「そんなわけで雅、しばらくこの男で我慢してくださいね」
「我慢なんて……私のほうこそ、お願いします」
雅はその場から立ち上がり、クラウに頭を下げると
クラウは『こちらこそ』と笑顔で言う
「そんなわけで、今日は外に食事にいきましょう
クラウの奢りで」
「ははは……まじかよ、まぁ……初勝利祝いだ
奢ろうじゃじゃないかっ」
「では、いきましょうか」
リノエは立っている雅に左を伸ばす
それに合わせ、クラウは雅に右手を伸ばす
その手、どちらを取るか雅は迷っているか……
雅の手、左手をクラウ、右手をリノエが取り
2人は笑顔で雅に言う
「行こう、これからが楽しくなるんだ」
「行きましょう、雅」
その2人に引っ張られる形で雅は部屋を後にする
リノエと雅の武器をその場に置いて……




