第10話-正しい姿勢-
審判らしきフードの男性の声と共に観客席から喝采が起きる
それは人々による驚きと称賛の声
「雅……よく頑張りました、凄かったですよ」
「え?」
リノエが雅に話かけた時、雅はキョトンとした表情でリノエを見る
その顔を見たリノエは驚きながら雅に言う
「……えって雅の矢のお蔭で勝つことができたんですよ?」
「私はただ……敵さんを的だと思って打つことしただけで……」
雅は少しぼーとした表情をしながらリノエにそう言う
リノエは『この子、熱でもあるんじゃないの』と一瞬思ったが
実際の所、雅自身の集中力が並外れており、その集中力の反動にする物だと
リノエは気づく事ができた
「ところで……どうしてあそこまでの命中率を?」
「え……えっと、私の先生が言った言葉で『正射正中』と言う言葉があって
それを思いだしてやってみただけなんです」
雅は少し恥ずかしそうに両手で弓を持ちながらリノエに言う
そんな雅を見ながらリノエは首を横に捻りながら質問する
「正射……必中?」
「正しい姿勢で教え通りに打てばその矢は必ず命中するって意味です」
「なるほど……」
雅の言葉にそう答えるリノエだが、内心はものすごく驚いていた
『……それだけで慣れてもいない矢をあそこまで扱って使い
それができる事がどれだけ凄いか、この子はわかってないわね』
「それと雅、周りを皆さん、弓と言う不遇の遠距離武器が活躍し
それもあんな試合をしてくれたんです、皆あなたのファンになったかもですね」
「え?!」
「何を驚いているですか、勝つこと事態がすごいんじゃなくて
弓であそこまで凄い事をした雅に皆、惚れたのですよ」
「えっと……私はどうしたら?」
「とりあえず……手を振っておきなさい、それと……」
リノエは横目でやや呆れ顔で言いながら広場の出口へと歩く
「あそこで笑顔で両手を振っている、クラウにもね」
雅はその言葉を聴き、先程座っていた場所を見ると立ち上がり
こちらに両手を振ってくれているクラウさんらしき金髪の男性がいる
雅は弓を右手で持つと、左手でクラウの方向へ手を恥ずかしそうに振る
その光景を見た観客はさらなる喝采を雅に送る
その喝采を浴びながら雅は恥ずかしそうに弓を両手で持ち直すと出口へ向かう
それを確認したクラウはその場から歩き出し、広場入口へと向かう
雅が出口から出ると、先程の入口にリノエが立っており
微笑みながら雅に話かける
「雅、あなたは今日の一番人気ですね」
「それはもういいですよ……私目立つの苦手ですし……」
「いいえ、普通のポイントより、目立って観客を喜ばすと
稀にボーナスポイントが貰える事があるんですよ」
「ボーナスポイント?」
「ええ、どれくらいかは運営側が決めるのですが、存在してるのはたしかです」
「なるほど……」
「でも、よく頑張りましたね、雅」
リノエは笑顔で剣と盾を右手に持ち、左手で雅の頭を撫でる
それはまるで母親が子供を優しく撫でるように……
「まるで雅ちゃんのお母さんだな」
「……私は雅と年齢あんまり変わりませんよ」
「そうだったか?」
雅の後ろからクラウが来ると、リノエに話かけ
リノエはクラウを睨むように見ながら雅に質問する
「……雅は何歳ですか?」
「えっと……私は遅生まれで今16歳です」
「16……私は18なので私のほうが年上ですね」
「ほら、やっぱり年上じゃないか」
「たかが2歳じゃないですか……お母さんと言われる年齢じゃありません」
「じゃあ、お姉ちゃんか?」
「……普通でいいです、クラウ……次言ったら蹴り飛ばしますよ」
「はいはい、悪かったよ」
リノエがクラウを睨むとクラウは笑顔でそう返事をする
リノエはその返事に呆れ顔をすると、雅に言う
「さて、一度……宿屋に戻りましょうか」
「あっ……はい」
雅はリノエの言葉に返事をリノエとクラウが歩いていく方向へついていく
しかし……雅は2人の背中を見ながらある事を思う
『2人は仲良しなんだ……私もあの輪に入れればいいな……』




