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彼女とフラグ立て

その日、僕たちは一つの決意をした。

それは……


「えっ、この街を出ちゃうんですか〜?」

「はい」


他の街に行くということだ。

正直、この世界での初めの街であるここは、僕にとっても彼女にとっても故郷みたいなものになりつつあったけれど、ちょっとした問題が発生した。


大食いチャレンジをやってた店が極端に減り、そして数少ない残った店にも、彼女が出禁になってしまったのだ。


「それは、もう決定されたことなのですか〜?」

「ええ」

「そうですか〜、残念です」


彼女の間延びした口調では残念がっているのか怪しく聞こえるが、長いエルフ耳がぺたんと垂れてしまっているあたり、本当に惜しんでくれているのだと分かる。


「えっと……ラクーシャさん、それで、オススメの街とかありますか」

「おすすめ、ですか」

「出来れば大きい街が良いんですけど」


僕の言葉はラクーシャさんの何かに火をつけたらしい。

ピンとその耳が上がる。


「それなら、ルシェーニュの街はどうでしょう?」

「ルシェ?」


彼女が首を傾げるのは、それはもう可愛くて場所も選ばず抱きしめたくなる。自重自重。


「ルシェーニュ、です〜。ルシェーニュの街ならここからさほど遠くないですし、そこのギルドでは姉が働いているので、連絡しときますよ〜」

「お姉さんですか?」

「ええ、私の家族はあちこちのギルドで働いてるんです〜」


ちらり、と脳裏に某ポケットのモンスターに出てくるどこ行っても同じ顔したセンターの方が浮かんだ。

いや、まさかな。あれはゲームとかアニメの話だ。現実にそうそう同じ顔の人間なんていないだろう。



そう思ってた時期が僕にもありました。



「どうも、ルクーシャと言います」

「……はぁ……」


彼女の背に乗ったり、彼女の毛皮に包まれたりして寝たりしながら、辿り着いたルシェーニュの街のギルドには、ラクーシャさんと全く同じ顔をした人がいた。

うん、そもそもさっきのやつはもろフラグだったよね。


「いきなりなんですか! 人の顔を見てため息をつくなんて!」

「いや、その……ラクーシャさんって、あなたの妹さんですよね?」

「え? そうですが」

「似てるってよく言われません?」

「言われますが、正直心外です。ラクーシャと似てるのは一番上の姉ですから」


どうやら、そっくりなのは見た目だけで、中身は結構違うらしい。

というか、と僕が聞きかけるより早く、アリサが口を開いた。


「一番上の、ということは、他にもご兄弟がいるのですか?」

「ええ」

「ちなみに、何人ほど?」

「五つ子なんです、私たち」

「……」


そうか……じゃあ僕たちはあと三回、ラクーシャさん似の人間に会いかねないということか。


よし、心の準備しておこう。


「それにしても、妹のお知り合いですか」

「お知り合いというか……連絡、届いてないです?」

「妹からの? 来てませんが」


あれ?

ラクーシャさんは確かに連絡をしてくれるって言ってたんだが。

僕が怪訝そうな顔をすると、ルクーシャさんはキュと眉を寄せた。


「あちらの街を出られたのはいつ頃で?」

「えっと、確か二日前です」

「……よくこんなに早く着きましたね」

「あは、はは……」


それは、ひとえに彼女の頑張りよるものだ。

目立たないよう夜中に、彼女が僕を乗せて走ってくれたのだ。

……乗馬の次の日のように内腿が痛いのは恥ずかしいから隠しておくけども。


「ともかく、そんなにすぐでは手紙も届きませんから。連絡はまだです」

「あ……いや、そうですか」


そうか。この世界で連絡といえば手紙なのか。ついつい、携帯のメールか何かを想像してしまっていた。


そういえば、とルクーシャさんがふと顔を少しだけ和ませた。


「そういえば、道中は大丈夫でしたか?」

「道ですか」

「ええ。最近、魔物が出るそうですので」

「魔物……?」


ええ、ルクーシャさんが頷く。

なんかちょっと嫌な予感がする。


「どんな、魔物ですか?」

「夜中に凄く早く走っていくものだとか……」

「あー」


多分それ、僕を乗せた彼女だ。


「人間をぐるっと巻いて捻り潰しているというものも……」

「んー」


それも恐らく僕と彼女である。

というか、捻り潰すってなんだ。こちらは二人でイチャイチャしながら、その毛皮にくるまっていたというのに。


僕がなんだか一言物申したくなったところで、彼女が割りこんできた。


「あの、早速依頼を受けることってできますか?」

「紹介状が届き次第ですので、今は無理です。が、もし何かを持って来られましたら買取は致しますよ」

「そうですか、ありがとうございます」


彼女はそのまま僕の腕を引いて、ギルドの扉を出た。


「アリサ、どこ行くんだよ?」

「人目のないところです」

「えっ!?」


それは、つまり……そういうことか?

いやいや、まさか。まさかな。


着いたのは森の中だった。


「雪人様」

「は、はいっ!」

「駄目ですよ」

「は、は……?」


彼女はちょっと叱るように眉を寄せて、指を立てた。


「雪人様、うっかり魔物を擁護するようなこと、言いそうになっていたでしょう」

「擁護するってただ、僕は……誤解を軽く解くくらいはいいかな、って」

「駄目です。来たばかりの街でそんな発言をしては、これからが大変になるじゃないですか」


なるほど、それで彼女は僕を連れ出したわけか。

……ちっ、残念ながらあっちのフラグは立たなかったようだ。


「私は別に、構いませんよ」

「何が?」

「この姿の私が——」


と、彼女はあちらの姿へと変わった。


「魔物と言われても。実際、そのようなものですしね」

「だけどさ」

「雪人様に与えられたこの姿、私は好きなんです。それでいいじゃないですか」

「だけど、さ!」


彼女はクスリと笑った。


「そのお気持ちだけで、私には十分すぎるほどですよ」


彼女の尻尾が手招きするように動いて、思わず僕はその毛皮に飛び込んだ。


どうしよう、彼女の包容力(物理)に全僕が泣きそうだ。


「それと、人外萌えでエルフのことちょっと気になってるの、知ってるんですからね」


ギクリ。

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