彼女とヤキモチ
「パーティー、ですか?」
「ええ〜。いかがですか? あなた方とパーティーを組みたいと言う要望が、ほら、こんなに〜」
ドサッと重そうな紙の束を出してくるラクーシャさんに感服しつつ、一通り目を通してみる。
……うん、これは僕らというより、彼女と組みたいって要望だ。
現にむっさい男どもばっかだし。
「いえ、結構です」
「そうですか〜。アリサさんも、興味無いですか〜?」
「え? 私ですか?」
と、彼女は困ったように僕に視線を向けてきた。
彼女が化物であるとばれてしまうのはマズイが……しかし、そうならない限り、ここで僕がとやかく言えることでは無い。
コクリと頷いた。
すると、何を勘違いしたのだろうか、彼女は頬を真っ赤にして、
「パーティーも楽しそうですけど……今は、二人の時間を大事にしたいなって」
なんて言う。
当人でなければ、新婚ホヤホヤか、それともバカップルかとからかいたくなるところだが、当人からすれば……。
ただもう、萌え死ぬ。
「そ、そうですか〜」
「ええ」
彼女の頬は赤いままだ。
ラクーシャさんの声が若干引きつっていたのは、気のせいだと信じよう。
「で、その本題なんですけど。今日は、これを受けたいんですが」
掲示板に貼られていた、依頼の紙を手渡す。
気を取り直し、どれどれと言わんばかりに見たラクーシャさんの顔が驚きに染まる。
「小鬼の角10個……あの、これはCランクの依頼ですよ?」
「あ、はい。分かってますけど」
動ぜず僕が返すものだから、焦ったのはラクーシャさんの方だ。
いつもののんびりとした口調すら忘れている。
「そ、それにCと言ってもピンキリですから、もちろん簡単めのものもありますが、これは難しい方の……」
「えっと、そういうのは別に大丈夫です」
「大丈夫なんですか!?」
「ただその、一つだけお願いがありまして」
何でしょうか、とラクーシャさんは戸惑いを残したまま聞いてくる。
「取ってくるのって、角だけでいいんですよね?」
「ええ」
「角以外はその、もらってもいいですか」
「え……? ギルドでは、角以外も買い取れますし、第一、小鬼の肉はとんでもなく不味く、使い道もないですよ?」
ああ、それも大丈夫です、と僕は笑った。
だって、彼女は質より量の人——いや、化物だから。
実際、何の問題もなかった。
骨だけ確保すると、彼女は小鬼の丸焼きにかじりついた。
前回の野兎以来、彼女は殺して焼いてから食べるようになったけど、
「これが女子力ってやつですね!」
と言ったのは全力で否定した。
女子とか以前の問題だ。
「どうだ、アリサ。美味いか?」
「ええ、美味しいですー!」
「え、そうなのか?」
ラクーシャさんは不味いと言っていたのに。
気になって、一口もらってみる。
が。
なんだこれ……。パサパサしてるって言うか、噛みきれないゴムみたいな肉で、その上クセが強い。
ラクーシャさんの言ったとおり、これは確かに、とんでもなく不味い。
やはり彼女は、味覚も人間とは違うらしかった。
「なぁ、アリサ」
「なんです、雪人様」
彼女が一通り食べ終えたところで、僕は彼女に声をかけた。
「良かったのか? パーティー」
「え、パーティーですか? だって雪人様はお嫌でしょう?」
あの頷きをそう解釈したのか。
「別に僕は……構わなかったよ」
いや、本当は構わなくはないんだけど。
強がってそう言うと、彼女はプクッと頬を膨らませた。
「ひどいです」
「ひ、ひどい?」
「ヤキモチ。焼いてくれないのですか」
何だろう、これは。
いや、分かる。
これはあれだ、ヤキモチ焼いてくれないことに拗ねちゃうみたいな、そういう……。
僕の中の萌えが急激に爆発した。
「い、いや、焼くけど!? すごく焼くけど! 」
「……本当ですか?」
「ああ! でも、アリサがやりたいならって、遠慮してるんじゃないかって」
そう思って……と僕が言えば、彼女はふふっと笑った。
「本当にやりたくなかったです。遠慮じゃないですよ。でも……」
「でも?」
「雪人様が嫉妬してくれるって聞いたら、ちょっとやりたくなっちゃいました」
えへ、と言って見せる彼女に、僕が内心悶えたのは言うまでもない。
彼女はやはり可愛すぎる!
ちなみに、今の彼女は化物姿の方だったりするんだけどね。
ぜひ、化物姿の方で最後の方の文章を想像し直してみてください。
ちなみに余談。
ギルドであのラブラブ姿を見せて以来、パーティーの申し込みはなくなりました。
リア充はお断りなのです。