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彼女と依頼

「お腹、空いてたんですよ」

「……それで食べちゃったんだ?」

「食べちゃいましたねぇ」


そう言ってエヘヘ、と困ったように笑う彼女はそれはもう可愛いし、その口の端から垂れている血も、まぁ見ようによっては色っぽく見えなくもない。


こうして実際に彼女と過ごすようになって十日ほどだが、彼女の中には、僕の設定に矛盾しない範囲で予想外なところが多くあることが分かった。

その一つがこの、彼女の食欲である。


許してしまいたくもなるが、生活に関わることである以上、どうしようもない。


「どうすんだよ、依頼……」


そう、僕たちは今、野兎ノラビットというモンスターを十体ほど捕まえてくる依頼を受けていた。

幸運にも見つけた野兎ノラビットの群れに、覚えたばかりの初級魔法をくらわせてやろうとした時、彼女が獣の姿に変わって——


そのまま、野兎ノラビットの群れを食べてしまったのだ。


それはまぁグロが平気な僕でも固まってしまうようなグロ映像だった。

だが、すぐに人間の姿に戻った彼女が、恥ずかしそうにしていたのを見てときめいてしまったので、とりあえずプラマイゼロである。

なので当面の問題は、収入源が彼女の腹の中に収まってしまったことだった。


「アリサ、流石に、お腹すいたからって生きてるモンスター食べるのはどうかと思うんだが」

「そうですね、今度は殺して焼いてから食べます」


……駄目だ、微妙どころでなくお互いの常識にはズレがありそうだ。


「じゃなくて。普通に料理とか食べればいいだろ、ほら、今朝宿で出してもらった玉子のとか」

「……?」

「それに、食べると本来の目的の毛皮が取れないし」


彼女にはどうやら、後半の説明の方が納得に足るものだったらしい。


「なるほど、確かにそれでは食べてはいけませんでした」

「……だろ?」


やはり何かズレているような気がしないでもないが、ここら辺は化物である以上、人間とは違うということなのだろうと思った。

そう思うと、むしろ愛しく感じるから不思議だ。末期かなぁ。


「で、とりあえずもう一回野兎(ノラビット)見つけて捕まえなきゃいけないんだけど……」

「雪人様、何匹でしたっけ」

「十だけど、兎は匹じゃなくて羽って数え……」


と僕が言い終わるより先に、彼女はまた獣の姿になって走って行ってしまった。

どこに行ったのか、と待っていれば、


「……アリサ?」

『見てください雪人様! 捕ってきましたよ!』


そう言って——と言っても、喉から声が出ているわげではないようなのだが——彼女は獣の姿のまま、両の前足に握り込んでいた野兎ノラビットをパラパラと置いた。


『私、やりましたでしょう!?』


そう言って、尻尾をブンブンと振る彼女は……何と言うか、化物どころか忠犬のようだ。

忠犬と言うには、その爪も牙も真っ赤すぎたが。


けれど、そんな彼女を可愛いと思ってしまうあたり、うん、僕はかなり末期らしい。


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