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プロローグ

僕の性癖このみは変わっている、とよく言われる。


人外萌え。そう、人外萌えだ。

猫耳少女でもエルフでも、或いは死体でも蘇体ゾンビでも構わない。

ようは、人間でなければいいのである。

おっと、見境ないなど言ってくれるな。言っておくが、人間の、それも生きている女はまるで対象外なのだ。

そう言う意味では見境がありすぎると言ってもいいだろう。……いいだろう?


しかし残念なことに、この現代社会、人外と言うのはそういない。

もうひとつ残念なことを言うならば、人外と言っても僕は、“人の形である、もしくは人の形を取れる”、そして“言葉が喋れる”ものにしか萌えないので、動物などは人外と言えど、これも対象外なのである。

まぁ動物に変身する女の子はアリだが。狼女とかね。


ここまで読んだところで、僕のことを気持ち悪い、もしくはイカれてる、ハードなことを言えば早く死ね、と思った人はどれだけいるだろうか。


だが弁解させて欲しい。

僕の友人にはヤンデレ萌えと殺人鬼萌えという、これまた奇特な性癖を持つ奴がいるが、こいつらなんか、思うだけに飽き足らず、ヤンデレを探し当てて会いに行ったり(こうして見るとどちらが病んでるのか分からんが)、殺人を犯したという少女に面会しに行ったりしているらしいから、僕はまだマシな方だと思う。

もちろん僕だってそのヤンデレちゃん、あるいは殺人鬼ちゃんが人外であれば、迷わず会いに行ったのだが。

あれ、弁解になってない? あれ?


まぁまぁとりあえず、そんなことは置いておくにしよう。

これから始まる物語に、その友人ら、高田と橋下はそんなに関わってこないし、関わりようもなかったのだから。


そう、まずは彼女の話をしなければならない。

彼女は僕の妄想で、空想で、理想だった。

存在しないのなら作ればいい、の理論である。

僕は小説家を目指しているその想像力と、漫画家を目指していた画力をもって、彼女を作り上げた(そうぞうした)。想像し、創造した、のだ。

ノート一冊を丸々黒くするほどに、彼女の設定を書き連ねた。


例えば、冒頭だけ書くなら、


名前はアリサ。年は不明、性別は女。

普段は人に紛れるために、十六、七の少女の姿をしている。(ここに追加書きで、そうでないと現代社会には存在できないから、と雑な字で書いてあった)

顔はアイドルの○○に似ている。可愛い。とても可愛い。

僕が「可愛いね」と言うと、「嬉しいです」とはにかんで笑う。可愛い。

僕のことを、下の名前に“様”を付けて雪人様、と呼ぶ。

本当の姿は、大きな化物。

鴉の濡れ羽のような真っ黒な毛をして、血のような真っ赤な目をして、人の二倍ほどあり、鋭い鉤爪と牙をもっている。豹と狼が混じったような姿。

毛は彼女の気によって針のごとく硬くも、羽毛のごとく柔らかくもなる。


といった感じ。このページの右側には、彼女に似ているというアイドルの画像をプリントアウトしたものと、化物姿を僕が想像して描いた絵が貼ってある。

これは後から分かることだが、そのノートを見た高田と橋下がこっそり、ヤンデレと殺人鬼……というか、人喰い? の設定を足していたらしい。


さて、説明という名の余談はここまでだ。

ここからが本題である。

随分と突飛な話をする自覚はあるので、心して聞いて欲しい。


僕は異世界にトリップした、らしいのだ。


らしい、というのは僕がまだ目を覚ましたばかりで、小屋らしき場所から一歩も外に出ていないからだ。


それでも、異世界だと分かるのは、そう——


「雪人様? いかがされました?」


——彼女が、いるからだ。

彼女は僕の顔を覗き込んでいた。

想像した全てが、いや、全て以上(質感までも)が、本物だった。


彼女が本物ならば、僕の前のこの少女が本当に彼女ならば、僕のこの言葉への回答は決まっているはずだ。


「アリサ。か、可愛い、ね」


彼女は、その真っ赤な唇をはにかませて、ほんのり口の端から尖った牙を覗かせて、


「……嬉しいです」


それはもう可愛らしく、笑った。


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