ランダムお題「燃え上がる汁」
制限時間30分(29分55秒使用) お題「燃え上がる汁」
燃えるような聖夜
「第一回闇鍋王選手権」
真っ暗な部屋の中で、先輩が声を発する。
「今回の無謀な参加者は私を含めて四名。この世の混沌を凝縮し闇へと通ずる門と化した鍋の中から怖気づくこともなく掬い上げたダークマターを食す、この戦い。さあ、勝つのは誰だ!?」
微妙に盛り上がらないテンションでそう言い放つと、ガスコンロに火をつけ青白い炎が俺たちを照らした。
「……はい、質問いいですか」
手を上げて尋ねる。
「許可します」
「なんで先輩そんな格好してんの?」
俺が尋ねると、先輩はふふふと笑った。真っ黒な布で全身を覆うように包まり、口元だけが露出している。
「決まっているではないか」先輩は得意げに言い放つ。「雰囲気作りだ!」
「あっそ…」
心底どうでもいいこと聞いてしまった。そもそもこの集まりがよくわからないんだが。
「……俺今日クリスマスをぼっちで過ごす残念な野郎共が集まって楽しむ会って聞いたんだけど」
左隣にいた友人が呟く。俺もそう聞いてたんだけど、なんでこんな準備がされてんだか。
そう、今日はクリスマス。聖夜だか星矢だか性夜だか知らんが、世界中(日本だけ?)のカップルがイチャついて、彼女の居ない俺達みたいな残念大学生には地球最後の日と言われるくらい恐れられている日。こんな終末の日をやり過ごすにあたってみんな(男子だけ)で集まればなんとかなるんじゃないか、と思って来てみたものの、考えても見れば野郎だけで集まっても虚しさが増すだけなような気がしてしまう。
「野郎がこんな日に集まって鍋を囲むと言ったら闇鍋に決まってるだろ」
先輩の思考が二段階くらいジャンプして色々すっ飛ばしている気がする。
「まあ準備してもらってるんだしこれも経験でしょ」と右隣の先輩。楽観的すぎやしませんか。「いやあ、僕もちょっとやってみたかったんだよね闇鍋って」
あはは、と笑う先輩は放っておいて、もうこの際だからやってみよう。覚悟を決める。
「……で、何入れたんです?」
友人が訪ねるも、先輩は「言ったら面白くないだろう」と答えない。一応食べれるものではあるらしいが、不安である。
「そろそろいい感じに煮えてきたな」
ぐつぐつといい音を立てて煮える鍋の蓋を取ると、先輩は笑う。
「さて、全員で一斉に鍋のものを取るぞ」
四人それぞれ箸を構え、先輩がガスコンロの火を止める。再び真っ暗になった部屋で、せーのに合わせて鍋の中を探る。安全そうなものを願って掴んだものを取り皿に乗せる。
「さて、では――――いただきます」
思い切って、食べてみる。……ん、これ…ネギだ。案外普通―――
「ブッ」と思った瞬間友人が噴出した。「―――っ何入れてんスか!」
「おや、割と普通の食材を多めにしたんだがな。何があたったのだね?」
「馬鹿じゃないんスかこんなもん……なんで鍋に板ガム入れてんスか…」
しかもブルーベリー…と呟く友人はきっとダメージの少なそうな小さいものを取ったのだろう。ドンマイ…。
「先輩方はなんだったんです? 俺ネギでしたけど」
「おぉ、当たりだな。私はおにぎりだ」よく崩れずに残ってましたねそれ。
「……あれ? どうしたんです?」
右隣の先輩がさっきからずっと黙っている。どうしたんだろう。
「いやなに、おいしいね。うん。おいしい。次食べようか」
ちょっと様子がおかしい…? 疑問に思いながらも再び全員で鍋に箸をつっこみ具材を探る。
先程と同じようにせーので口まで運んだ瞬間、今度は三人が同時に悲鳴を上げた。なにこれさっきと全然違う、クッソ辛え!
「お、おま…何をした!」
企画者の先輩が辛そうに叫ぶ。
「辛くしちゃえばまずくてもわからないかなぁって思って」
先輩…さっき何あたったんですか…。
聖夜の晩餐は燃え上がるほど辛い闇鍋だった。男四人でつついてる現実と辛みで涙が止まらなかった。
…汁が燃え上がってないって? 小火オチまで書く時間が無かったんだよ…orz