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VRMMOモノらしきもの①

ある年の4月11日 (金) 自宅


 ボクは家に帰宅すると、食事や風呂などを素早く終わらせ学校の宿題もせずに作業部屋に入った。去年、高校に進学するときから1人暮らしをしているため、誰にも注意されることはない。作業部屋と言っても仕事をするわけでもなく、あるゲームをするためだ。


 Everlasting On-line 通称、EO


 このゲームは俗にVRMMOというものなのだが、本社が海外にあるという噂だけがあり、実態の解らないものだった。そんなものでもソフトとハードの限定無料販売の一文字に惹かれてか、日本でだけで1万5千人を超える人がプレイヤーとなり、見事に体験版を終えて正式サービスが始まった瞬間、デスゲームへと導かれていった。それが9ヶ月ぐらい前の話だ。



―――――――――――――――――――――


 ボクも広く浅くのゲーマーとして、このゲームを始めた。しかし、ボクはゲーム内に囚われることはなかった。限定販売は初めから定員漏れを諦めていたため、ソフトだけ買って自作のハードでプレイしていたからだ。両親が同じゲーム会社の人たちなので、材料とある程度の知識はあったのだ。


 正式サービス開始日、ボクはログインすると、周りの似たような服装の人たちが泣き、叫び、嘆き、悲しみ、怒りが満ちていた。比較的落ち着いている奴に事情を訊くと、どうやら体験版まではあったログアウトのアイコンがなくなったらしい。ボクも確認するためにメニューを開く。するとそこにはちゃんと、ログアウトの文字があった。


どういうことだ?


意味が分からなかった。しかしこの人が嘘をついているように見えない。嘘だというなら周囲の人々の状況に意味がつかない。とりあえず今は1人で考える時間が欲しかった。ボクは町の中にある宿屋を取り、ログアウトを選択してみた。


すると目の前の景色が見覚えのある天井に戻ってきていた。ちゃんとログアウト出来たのだ。すぐにネットを開き、情報を集める。確かな情報が手に入ったのは5時間後だった。本当にあそこはデスゲームになったらしい。その日はもう遅かったためボクは何もせずに寝ることにした。


 次の日から、ボクは学校から帰るとすぐにEOの世界に来ていた。自分もログアウト出来なる可能性はあったが、何もしないでいることは目覚めが悪すぎる。他のプレイヤーに自分がログアウト出来ることを覚られてはいけないため、“基本”ソロプレイをしていた。他の人より圧倒的にプレイ時間が少ない為、死ぬことを厭わない効率重視のプレイをしていき、“噂”となるほどのプレイヤーになった。


―――――――――――――――――――――



 19時、ボクはベットで目を覚ます。第1の町『冒険者の町』の近くにある教会にある自分の個室だ。身支度を済ませ、外に出る。すると今日も外で待っていたらしい子供たちが一斉にボクの所にきて喋り出す。彼らはこのゲーム内の雰囲気が落ち着いたころに、作られたルールで開始時に15歳以下の子供達はこの町で待機することとなったのだ。私はその4日前に16歳になったため、ルールに縛られることはなかった。


 ちなみに、なぜ年齢が判るかと言うと限定販売の応募に必要な写真やプロフィールが正式サービスからゲーム上に反映されている、つまり見れば判るのだ。また、こういうゲームは値段が高いので子供のほとんどが限定販売当選者だということからだ。…実際は、当選者も何も応募した人には全員が当選させていたらしいが。こうして分かった子供の数が3000人程度であった。


 ボクは現在、この町に引き返してこの子たちの面倒を見ている。最低限の武器とアイテム以外の全財産を払って町の隣の山を買い教会を建てた。初めは孤児院や学校っぽくしようと思ったが、前者は親がいなくなったわけはないので、後者は現実の生活を彷彿させられるかもしれないのでやめた。まぁ、教会と言っても部屋数が多いのでそう見えないかもしれない。


 とりあえず、みんなで食事の準備をして大食堂で食べる。食べ終えるとみんなで第1大ホールに向かい、ボクが教鞭を執る。ボクも学生ではあるが、周りは自分より年下または同学年しかいないので大丈夫だ。彼らがここから解放されたときにあまり周りと差をつけたくない。年齢ごとにどんどん勉強を終え、各々の自室に帰る。これが終わるころには23時になっている。その後、第1小ホールでボクがいない間に年下の面倒を見てくれている子たちにその日の出来事を聞いたり、その子たちの相談に乗ったりする。そうして、皆が寝たらボクは教会を出て資金や材料、食料集めに奔走する。


町のNPCやこの教会に来るプレイヤーから他の大人たちの力を借りないのかと訊かれることもあるが、“他のプレイヤーは信用できない”。もし、自分がいない間に何かあったときのことを考えるとゾッとする。


子供たちは基本みんないい子たちだ。だがしかし、やはり問題がでてくる。一番多いのは『自分たちもゲームクリアを手伝いたい』だ。『早く家に帰りたい』ではないかと思っていたが、それを言うと他の子たちも感化されると思ってか人前ではそのようなことを言う子は少ない。とりあえず、先に進みたいという子にはこの教会を守ることと他のプレイヤーの邪魔をしないことが一番の彼らに対する貢献なのだと言って宥めている。しかし、それも通じるのは時間の問題であろう。というより、今まで2896人も居て大きな問題が起きていない事自体が小さな奇跡である。


必要な物資を揃えた頃には既に朝の7時になっている。ボクは、教会の倉庫や食料庫に戦利品をいれて自室に戻りログアウトして、学校に向かう。これがボクの平日の動きだ。ちなみに睡眠時間は学校で確保する。



4月12日 (土)


今日は土曜日という訳で朝からEOの世界にいる。土日はボクがいるので、教会の門を開けて他プレイヤーも子供たちに会えるようにしてある。逆説的に解るだろうが平日は会えない仕組みになっている。一見、ボクが不遜なように見えるが、子供たちを守るためには徹底的にやらなければならないし、彼らもここに入る前に納得してもらってのことだ。


ボクも子供たちと過ごすのだが、他プレイヤーを入れて3000人強と一斉に何かをする訳にもいかないので、まず午前中は主に男子・男性たちと一緒にケイドロをする。これだけでも参加人数およそ1300人で、範囲が文字通り山一つ分の広さであるこの敷地なので、12時迄という時間制限をつけて1ゲームするのが限界である。昼食は他プレイヤーとお手伝いをしている子供たちの手で作られた料理を一口ずつ味見(という建前で毒見)してから感想を述べ、昼寝をすると言って自室に戻りログアウトする。


1時間程度経ってまたログインすると、次は主に女子・女性たちと一緒にお菓子作りをする。このEOの世界にはレシピというものが存在しないため、ボクが外で調べた情報を基に行っている。調味料もプレイヤーに作らせるシステムなので、思いの外、普通の人には難しい。他の人はボクがログインできることを知らないため、現実では料理研究家かなんかだと勘違いしているようだ。ちなみにこのゲームは食のバランスを気にする必要もないので極端な話、食材だけで食べても味以外に違いはない。出来上がったお菓子はみんなで食べるのだが、この時だけは特に他プレイヤーが多い。まぁ、彼らにはケーキ代を貰っているので、材料費の問題はない。というよりぶっちゃけ、黒字である。


その後は、本を一緒に読んだり、戦闘の訓練をしたり、おしゃべりをしたりして思い思いにやっているみんなの所を適当に回って過ごす。


18時50分。門が閉まり他プレイヤーの強制退却する10分前のメッセージを送る。19時までに外に出なかった人はシステムを使って強制的に第1の町まで転送できるのだ。それに頼って最後までいる人もいるので問題ない。


19時以降は平日と同じように進むが、22時には全員就寝に入る。



4月13日 (日)


 今日も昨日と同じような時間割で動く。午前中は寄付された中にあった、ボールを使いドッチボール大会を開いた。流石にこれはステータスの影響をもろに受けるので子供たちとプレイヤーは別々ですることにした。ちなみにボクは審判をしていた。


 午後、回っていると1人の私服の青年が目に留まった。大学生くらいだろうか。話をしたことはないが、彼はいつも土日にボクの作ったレシピ本を一生懸命読んで書き写しているので記憶にある。そうでなくても覚えているのだが。


 「こんにちは。今日も料理の勉強ですか?」

 「ああ、君は。ええ。今日も勉強することが多くて困っているよ」

 「ははは、それはなによりです」

 「よくこれだけのレシピを覚えていられるね。今書き写しているのが634品目だよ」

 「っ。そうですね、ボクは記憶力の比較的いい方ですから」

 「君は料理人になるつもりかい?それにしては料理の幅が広すぎるのだが…」

 「…ボクのモットーは広く浅くなんですよ。それより、レシピが欲しければメールで送ってあげますよ?」

 「いいや、遠慮しておくよ。こうして書いていった方が覚えるし、それに…それにまたここで新しいレシピを勉強するために帰ってくるぞ!って思えるからね」

 「そうですか。まぁ、あなたなら大丈夫でしょう。『大賢者』様?」


 そう、彼はこのEOで魔法系最強と謳われるギルド『天地雷鳴』のギルマスをしており、そのギルドメンバーは1500人を超えている。二つ名が『大賢者』である。…いや、もっと他にも良いのがあっただろうとボクも思う。まぁ、ボクの“表向きの”二つ名も個人的には違和感があるんだが。


 「私のことを知っていたんだね、『神父』様」

 「ええ、それは有名ですから。しかも魔法特化ギルドなのにそのギルマスは剣も巧みだと聞いておりますよ。」

 「ははは、ギルドだけで狩りに行くときの前衛役ですよ。本職の人たちには敵いません」

 「それでも十分すごいですよ。ええと…『大賢者』さん」

 「シフォンでいいよ。…そういえば自己紹介がまだだったね。まぁ、お互い知っているみたいだけど。初めまして、ギルド『天地雷鳴』のギルマスをしているシフォンだ。」

 「こちらこそ初めまして、この教会を管理させて頂いているカノです。」

 「「「カノせんせーい!」」」

 「ああ、わかったー!…すみません。ボクはこれで」

 「ええ、頑張ってください」


 ボクは子供たちの声に呼ばれてその場を後にした。



4月14日 (月)


 今日もいつも通り学校から帰って19時にログイン。勉強会や報告会が終わり、そろそろ狩りに行こうかと思ったとき、第1小ホールのドアがノックされた。入るように促すと14~16歳の男子6人が入ってきた。今は16歳でもゲーム開始時に15歳だったものも残ることとなっているのだ。


 「ジンたちか。どうした?」

 「カノ先生。俺たち、やっぱり外に出てプレイヤーとして手伝いたいです!」

 「大丈夫、いつも言っているしここに来てくれている人たちも言っているだろう?」

 「『君たちが他の子供たちの面倒を見てくれているおかげで、彼らは安心して攻略できる』ですか?」

 「あぁ、そうだよ。それに自分たちと彼らをそういう風にわけるのは良くない。君たちも立派なプレイヤーだ。」

 「でも、俺たちがいなくたってここは大丈夫です!それより、外が心配です!もう9か月経つんですよ!このままじゃ、いつ終わるか分からないじゃないですか!」

 「彼らは順調に攻略しているよ。何の心配もいらない。それより君たちがいなくなったらボクを初めみんな心配で仕方ないよ」

 「先生だって俺らと1、2年しか変わりません!どうして先生は良くて、俺らがダメなんですか!」

 「…それがみんなで作ったルールなんだよ。」

 「それは貴方たちが勝手に決めたんじゃないか!俺たちは一体いつまでここにいればいいんだよ!!」


 やはり、こういう子供が出てきたか。理屈を言ってもそう簡単に割り切れるものじゃない。別に彼らが悪いわけでもない。気持ちは分かるし、ボクも子供たちをプレイヤーも思っていない節がある。しかし、ここで特例を作るわけにもいかない。少しこの子達には悪いが強めに言うことにしよう。


 「…大体。君らが外に出て、どうするんだ?」

 「それはゲーム攻略に…」

 「君たちのレベルじゃ足手まといになるだけだ。」

 「レベルなんて上げれば…」

 「彼らに追いつける訳ないだろう?それとも彼らは君たちに追いつかれるようなレベル上げしかしてないと思っているのか?」

 「そんなことは…」

 「この話はこれで終わりだ。…ごめんな。だけど今はこれが最善なんだ」



4月19日 (土)


 土曜日というわけで、シフォンさんが来ていた。世間話をしていると子供たちの様子を訊かれたので先の出来事を話した。少し、空気が重くなったしまった。


 「そういうことがあったのか」

 「ええ。これまでにも何回かありましたが、これまでと違って最初のころみたいに罪悪感より焦燥感が強くなってきているみたいです。彼らはあれから3回は来ましたよ」

 「そうか。子供達も限界も遠くないな。これは私達も休んでいる暇はなさそうだ」


 シフォンさんは少し強めに立ち上がる


 「あっ、いえ。そういうつもりで言ったのではありません。それに休暇を取らずにやっていたらどこかで必ず失敗します」

 「あ、あぁ…そうだな。私たちまで焦ってしまったら仕方ない」

 「すみません」

 「いや、いいんだ。……ほんと、君は強いな」

 「え?」

 「君はいつでも冷静でいて、これだけ多くの子供たちを支えている。最近では、狂って愉しむ為だけにPKに走るような奴らも出てきているっていうのに」


 PK、プレイヤーキラー。文字通りプレイヤーを殺すものの事だ。“主に”殺したプレイヤーから強奪することが目的だが、最近は愉しむ為だけに殺す奴もいるらしい。その筆頭が『マリオネット』というギルドらしく、ほとんどがそれまで最前線で戦っていた者たちで手が付けられないらしい。


 「…そんなことはありません。子供たちにも手伝って貰ってますし、こうやって土日には攻略組の人たちが代わる代わるきて、子供たちの遊び相手をしてもらっています。ボクなんかよりシフォンさんの方がすごいですよ。激しく動く状況のなか攻略組を1500人も指揮しているんですから」

 「いいや。私は彼らの長として冷静でいるように心掛けているだけだ。他の者もそうさ。でも君の冷静さは自然な感じがするんだよ」

 「…そんなこと、ありませんよ。」


 そうだ。ボクが冷静でいられるのはボクにとって“ここはゲームの世界”という気持ちがどうしても抜けないからだ。もしボクも巻き込まれていたら、今と同じように動くことは出来なかっただろう。


 シフォンさんは顔を下げてしまったボクをみて、溜息をついた後、また笑顔をみせた。


 「あぁ、悪いね。年下に愚痴るなんて今日のボクはどうかしているようだ」

 「…いいえ、ボクでよければいくらでも聞きますよ?」

 「ははは、その時は遠慮なく愚痴らせてもらうよ」

 「ええ。」

 「そうだ、私とフレンド登録してくれない?」

 「はい、ボクで良ければ」


 そうして彼はフレンド登録が終わるといつもより早く帰ってしまった。ボクには彼がフレンド第1号になった。子供たちとする必要はないし、基本“ソロ”で他のプレイヤーとこれまで深く関わって来なかったからだ。



4月26日 (土)


 今週は先週のようにジン達が来ることはなかった。彼らも納得してくれたのだろう。もしかしたら諦めたのかもしれない。ボクは今日もシフォンさんと話をしていた。現実でも年上の友人は少ないため、新鮮な感じがする。


 「シフォンさんはいつもレシピ本を書き写していますけど、ウチのお菓子作りには参加しませんよね」

 「前衛と後衛の両方のスキルを取っているから、戦闘に必要なスキル以外を取る余裕がないんだ」

 「あぁ、なるほど。じゃあ、今書いているのは現実に帰ったときのためですか?」

 「そうだね。私は帰ったら料理を提供する仕事に就こうと思っているんだ」

 「なんか、曖昧ですね」

 「仕方ないだろ、EO(こっち)に来てから思い初めたんだから」

 「そうなんですか?」

 「そうさ、現実(むこう)で料理がおいしいって思ったことが無かったんだから」

 「いったいそれまで、どんな食事をしてたんですか…」

 「ははは」

 彼は本当に大学生らしいが、自宅通いをしていたため料理はしたことが無いらしい。大学に行っていて、さりげなくイケメンな彼が料理上手になるのはすこし嫌だと思ってしまった。



―――――――――――――――――――――


 私は…いや、初めのころはみんなが必死になって攻略していた。すべてをゲームクリアの為に捧げて宿屋や食事なんて最低限。体験版の時に立ち上げた『天地雷鳴』は小さなギルドだったはずが、ここ2週間で急速に大きくなってしまった。私は皆を導かなければいけなく、常に冷静でいようと心掛けていた。


 問題が起きてしまったのは7番目のボス攻略のときだ。その当時有名だったPKギルド『蒼色の夕陽』の策に嵌ってしまい、全体で534人、私のギルドからも10人のプレイヤーが亡くなった。偽のボス情報を流し、それでもなんとか攻略して疲弊しながら帰るところを襲われたのだ。安全フィールドである町まで帰還したとき、ボス攻略を喜ぶ者などなく皆、無言でそれぞれの宿に入って眠りについた。


 今、考えてみると、私たちはすでにその時に精神的余裕がなくなっていたのだろう。いくらボスについての情報が間違っていたとしても、こっちは圧倒的な数で上回っているのだし、念には念を入れてレベル上げもしていた。冷静だったら、そこまで苦戦することもなかったはずだ。それどころか撤退してもよかったのだ。


 次の日、『天地雷鳴』とEO内で3番目の大型ギルド『Eternal Sword』の合同で『蒼色の夕陽』を潰す計画を立てることにした。相手の拠点は元から分かっていた。ただ監禁が出来ないようにであろう、個人の所有する領域は、中から外に出る人の制限が出来ないようになっているのだ。つまり、逮捕することが出来ない。だから私たちはこれまで警告する以外のことが出来ず、今回の事件を起こさせてしまった。よって彼らを殺すことを私たちは決めた。彼らを残しておいては更に多くの者が死んでしまう。だが、私たちの計画が上手く良くことはなかった。

 

 帰ってきた偵察隊言うにはそこは、もぬけの殻だったらしい。逃げられたのだと思い、すぐに情報収集に走ったが、あれだけ大きく有名ギルドの移動と言うのに、全く手に入らなかった。代わりに、第4の町の墓地にある死んだプレイヤーの名前が書き綴られた墓石の数が急激に増えて、その中に『蒼色の夕陽』のギルマスや幹部の名前があったという情報が手に入った。彼らは一夜のうちに壊滅したのだ。

 

 すぐに大手のギルマスたちが集まり、話し合った。話し合った結果、奴らの拠点の近くに強力なモンスターがいたのだろうということになり、その周辺への立ち入りを禁ずることを皆にいった。このようにプレイヤーが定めたルールに強制力がある訳ではない。しかし守らなければ周りの態度も変わってくるので、ほとんどの人が守ってくれた。


 これでこの事件は終わりだろうと思っていたが次の日、また別のPKギルドが壊滅したという知らせが入った。それから毎夜、PKギルドが消されていった。私たちは安心する反面、不安を感じていた。ギルドを丸々1つ、しかも一夜で潰すほどの戦力を持った者たちが存在し、その正体は不明。ある1つのギルドを監視させたこともあったが、そのギルドが狙われることはなく、監視を外した直後に彼らは殺された。私は怖かった。あまりに都合がよすぎる。つまり私達の中に奴らは存在しているのだと辿り着いた。いつそれが私たちに牙を向くか分からない。奴らのことは総じて『死神』と呼ぶことになった。


 その後1か月もしないうちに、その『死神』の話も聞かなくなった。あらかた狩り尽したからだろうか。だが動かなくなっても死んだわけではないだろう。ゲーム攻略に加え、今も私たちの中に『死神』がいるという出来事は私を更に精神的に追い込んだ。


 そして私は、簡単なミスを犯して仲間をまた1人死なせてしまった。ちょっとしたミスで、一時的に行動不能になり前衛を抜かれてしまったのだ。


 その日私はいつも以上に重い足取りで町に戻った。もう何も考えられなかった。というより、何から考えればいいのか判らなくなっていたのだ。


 町に入って大通りを通っていると、美味しそうな匂いがした。特に食べたいと思った訳ではないと思うのだが、不思議とその匂いにつられていった。そこにはフィールドで見かけた奴らがごろごろいる。そいつらは、いや、私達プレイヤーは装備を寝るとき以外には外さないのだが、そんな中、この匂いを作っている人物は、黒のシャツに黒のズボンと全身真っ黒だがとてもラフな格好をしていた。


 私は何をしているのかと、その人物に尋ねた。すると彼は「料理を配っているんです」と答える。そして私に料理――カレーライス――を渡し、「無料ですので1つどうですか?」という。受け取らないのも悪いので一口食べて、美味しかったとでも言おうと思った。そして、一口食べると…。そこからの記憶がない。ただ気づいたときには全部食べていて、頬に涙が流れているのを感じた。今まで食べたことのない位、美味しかった。ちゃんと私はお礼を言えたのだろうか。美味しかったと言えたのだろうか。そんなことも覚えてなかった。今まで無駄を省くため食事をパンで済ませていたが、決して食事は無駄では無かったのだと自分を恥じた。


 次の日、また狩りから戻ってくると彼が料理を配っていた。昨日よりも多くの人が食べに来ていた。私は料理を受け取りつつ、昨日のお礼を言った。美味しかったとも。すると彼は「ありがとうございます」と逆にお礼を言い、笑みを返すだけだった。


 それからだった、攻略だけをしていた私達の中に料理スキルを取るものが現われた。そこから衣装にこだわり始める者も出てきて、仕舞いには夜でもないのに休みの時間を摂るようになった。そのせいで攻略速度は落ちたが、犠牲者が大幅に減った。人々の心に余裕が生まれたのだろう。


 その流れを作った彼はその次の日も、更にその次の日も夜に料理を配っていた。それは、彼が山を買い、子供たちの世話を見始めるまで続いた。


 このEOの世界に囚われる前の私は一応大学生になることが出来たが、将来の進路は決まっていなかった。無難に公務員を目指そうかとも思っていた。しかしあの時、あのカレーライスを食べてしまった日から、私は現実に戻ったら自分の作った料理を人に食べて貰って、同じ気持ちを味わって欲しいと思ってしまった。


―――――――――――――――――――――



4月27日 (日)


 今日もいつも通りに見え、19時になった。外のプレイヤーが一斉転移されたのを確認して、皆で食事を摂るために大食堂に向かった。すると他のこの世話を見てくれている女子の1人が「先生、もうお話は終わったのですか?」と不思議そうに声をかけてくる。よく意味が分からなかったが、周りを見渡すと席が6人分空いてある。


「あの席の子たちはどうしたの?」

「さっき、ジン君達は『先生に呼ばれた』と言っていましたよ?」

「ジンたちが?」


 読んだ覚えはないのだが……まさか…いや、そんなはずは…。


 ボクは悪い予感がして彼女と一度、大食堂を出る


「君はあの子達のなかでフレンド登録している子はいるか?」

「はい、2人だけなら」

「急いでその子たちの居場所を探してくれ」

「えっ?…あ、はい!」

 「出たか?」

 「…うそっ!…第78の都市からその北側に位置からする『ヘカトンケイルの森』へと続く道を進んでいます…」

 「…分かった。今から彼らを迎えに行くから心配しないように。それと皆にはカイン達との話が長引くから先に食べておくように伝えて。その後は自由にしていいから」

 「…はい」


 ああ、そうだった。この子たちのことも気にかけないと。


 「君がそんな顔していると他の子も不安になってくるから、いつもより明るい位を意識するんだ。大丈夫、ボクを信じてくれ。」

 「…はい!」

 「うん、いい返事だ」


 ボクは驚いていた。どうやってジンたちはこの教会から抜け出したのか。個人の所有するエリアは確かに『入るものを拒み、出るものを拒まない』の作りになっているのだが、教会を建てる際にそれを克服している。教会を中心としたボクの所有地を囲むように幅1mほどの敷地を別の所有者が管理していて、更にその外側をボクが管理するというバームクーヘンのような形になっている。つまり、『個人のエリアへの侵入をこばまれる』という形で出られないようになっているのだ。では、土日はどうしているのかと言うと、1ヶ所だけ誰でも通れる場所を作り、そこに門番を置くという形を取っている。


 ボクは彼女が大食堂の中に入っていくのを確認するとシフォンに連絡を取る。第78番目の都市と言えば、先週開かれたエリアだ。彼に手伝って貰った方が早いだろう。なぜジンたちが短時間で、最前線まで辿り着いたのかは不明だが後で考えればいいだろう。ボクも早く向かおう。


 ボクは教会の自室から転移門を使って最前線まで移動する。転移門は利用者が1度でも訪れたことがある他の転移門の存在するエリアへ移動することが出来る。ボクは物資調達のため出来るだけ多くのエリアを行けるようにしてあるため、第77の町まで転移可能だ。


 町から都市、都市から森に向かって移動していると、前を多数のプレイヤーが走っていた。たしかシフォンのギルド『天地雷鳴』の人たちだ。プレイヤーは基本、夜になると動かないのでシフォンが動かしてくれているのだろう。ボクは追いつくと移動速度を下げ、その中の1人の男性に話しかける。


 「こんばんは。シフォンさんは?」

 「あぁ、『神父』さんか。ギルマスなら森の入り口で交戦中らしい。応援に来るように俺らは言われたんだ」

 「交戦中?ボス級モンスターでも出ましたか?」

 「いや、相手はギルド『マリオネット』の奴らしい」

 「相手はPKプレイヤーですか…」

 「数は5人なんだが、ギルマスは子供たちを守りながらの戦闘だから少々、厳しいらしい」


 こんなときにPKプレイヤーとは厄介な…


 「子供たちは無事なんですね」

 「あぁ、まだ誰も死んでないらしい」

 「すいません、先を急がせていただきます」

 「ん?先を急ぐって言ったって…いや、そもそもなんで俺らに追いつけ…」


 ボクは男性の話を無視して移動速度を再び戻すと、一気に彼らを置いて森に向かった


 ボクがシフォンたちに追いついたのはその2分後の事だった。


『ヘカトンケイルの森』。巨人族の名を冠している通り、木の1本1本が大木で生息するモンスターもデカい。その入り口付近で彼らは戦闘を行っていた。『マリオネット』のメンバーは前衛2人、後衛3人。対するシフォンは1人で交戦している。両手剣と短槍を片手剣、魔法を魔法で応戦している。シフォンの体中を電気が迸っているのは付加魔法によるものだろう。すさまじい速度で動いている。1人で元攻略組だったプレイヤーを5人も正面から相手取っているシフォンの実力は、まさしくトッププレイヤーのものだ。子供たちはシフォンの近くで固まって防御態勢を取っている。


しかし、ボクが来たことで均衡が崩れた。ボクたちにとって悪い方へ。


一瞬、皆の注意がボクに向かれる。その中で短槍使いがスキル『首狩り』を使う。『首狩り』はこのEO唯一の即死効果をもつ。スキル取得可能条件は他プレイヤーを15人、首への攻撃で殺すこと。しかしこのスキルが相手の首に当たることで意味を成し、また取得できることは昔から知られている。だから仮に『首狩り』を持っているPKプレイヤーとの戦闘で一番警戒されるものなので実際に当たることは少ない。シフォンほどのプレイヤーにはまず、当たらないだろう。


だが、その一撃はシフォンにではなく近くにいるジンに向かって放たれた。ジンは恐怖で体が凍り付く。ワンテンポ遅れてシフォンが背後から短槍使いに切りかかる。短槍使いは槍を後ろに向かって振り、シフォンの喉を狩ろうとする。このままいけば5人を相手取る速度で動いていたシフォンの剣が先に相手に届くだろう。けれど切りつける瞬間、剣筋が少し鈍った。それでも先にシフォンの剣が攻撃を示したが、元々の攻撃力が無く、短槍使いの攻撃が入ってしまった。


シフォンのHPが一気に0になる。シフォンは崩れ落ち、徐々に体が光の粒子となって散っていく。


ボクやジンたちはそれを呆然と見ることしかできなかった。だが、相手の勝ち誇ったような笑い声ですぐに現在の状況を認識する。ボクの中で明確な殺意が沸いていた。ゲームだけでなく現実でもここまでの殺意を抱いたのは初めてだった。



 ―――――――――殺す――――――――――



 ボクはメニューのアイテムからダガーを取り出し、スキル『首狩り』を発動、そして終える。短槍使いが光の粒子へと変わる。ただそれだけ。たったそれだけ。


しかし、その間に次の行動に移れたものは居らず、ボクが1人殺した後も周りの者には今の出来事が理解できなかったようだ。いや、『首切り』を使ったこと自体は分かったかもしれない。短槍使いは死んだのだから。今度はボク以外の者が全員、唖然とする番だった。


ボクが『首切り』を使えることに驚いているのか、それともその速度になのかは分からないし、そんなことは考えていなかった。また『首狩り』を発動させ次は両手剣の男が死ぬ。そこで、後衛だった3人は行動を起こし始める。逃げようとしているようだが逃がすつもりはなかった。


残り3人を殺した後、ジンたちに近づく。ジンたちはボクの持つダガーを見て震えていたので、ダガーを装備から外す。それでもボクを怖がっているようだったが、一応ボクの後についてきてくれる。


帰り道で『天地雷鳴』の人たちに会った。ボクは『マリオネット』の5人、そしてシフォンが死んだことを説明した。泣き出す者もいるかもしれないと思ったが、皆、泣くのを必死に耐えていた。辺りを警戒しながら『天地雷鳴』の人たちと共に第78の都市へと戻り、そこから僕たちは教会へ転移した。


ジンたちと話をしたいところだったが、とりあえず彼らにはここまで会ったことを言わないように口止めするだけにする。ボクは第4の町へと向かった。


この町には死んだプレイヤーの墓地がある。その中からシフォンの墓石を探し出す。墓石の前に立つと1つのアイテムを使用する。『反魂香』。とある知られていないイベントのレアドロップで半日の間に死んだものを5分だけ生き返らせるという意味の解らないものアイテム。『反魂香』から出てきた煙は凝縮して人の形を成す。


「こんばんは、シフォンさん」

「私を呼んだのはカノ君だったか。」

 「…驚いていないんですね」

 「いや、十分驚いているよ。こんなアイテムがあったんだね」

 「でも、効力は5分しかありません」

 「うん、それはなんとなくわかる。子供たちはあれからどうなった?」

 「無事、教会まで連れて帰りました」

 「そうか、それは良かった」

 「…シフォンさん、ボクは1つシフォンさんに言いたいことがあります」

 「なにかな?」

 「こんなこと言っても信じてもらえないと思うんですけど…」

 「大丈夫。信じるよ。それとも君は死人に嘘をつくのかい?」

 「…実はこのデスゲーム、ボクにはただのゲームなんです。ログアウトも出来るし、死に戻りもできる。正確な理由は分からないんですけどね」

 「やっぱり、そうか」

 「え?…やっぱりって…?」


 ありえない。ボクはこれまで誰にもこの事を話してないし、ログアウトするときは細心の注意を払っている


 「あぁ、君がログアウト出来ることは知ってた。いや、予想していた」

 「どうして…?」

 「カノ君は、私以外にフレンドは作っていないのかい?」

 「ええ。……!!」

 「気づいたか。フレンドは相手の居場所が分かる。だが、このデスゲームになってあまり意味をなさなくなったがログイン状況も判るんだよ」

 「なら、どうして」

 「君が話すまでこっちから訊くのは止めようと思ってね。いや、フレンドを作ることでばれることは教えておくべきだったか」

 「…それじゃあ、シフォンさん。なにか現実(むこう)に伝えておきたいことはありますか」

 「……いや、やめておこう。この事を、(おおやけ)にしたら問題になるだろう」

「でも!」

「いいんだよ。それとも君は私に君への罪悪感を抱かせたまま逝かせるつもりかい?」

「それは…いえ、わかりました」

「すまない、言葉が悪かったね。…そうだ、カノ君に私の現実での名前を憶えていてほしい」

「名前ですか」

「ああ。私の名前は西浦(にしうら)(こう)()だ。よろしくね」

「はい。わかりました。」

「カノ君の名前は?」

「ボクの名前は鹿屋(かのや)(しょう)太郎(たろう)です。」

「ははは、鹿屋だからカノか。単純だね」

「西浦さんだって何も考えていなかったんじゃないですか?」

「まぁね。幸次って呼んでいいよ。翔太郎君」

 「…幸次さん。あの時の幸次さんの最後の一撃はやっぱり……」

 「ああ。私は相手を切るのをためらった。人を切るのはあれが最初で最後だったんだよ」

 「そうですか」

 「あいつらはあの後どうなった?」

 「ボクが切りました」


 ボクがそう言うと、幸次さんは「そうか…」と言って、ボクに向かった頭を下げた。


 「すまなっかった!私のせいで君は…」

 「大丈夫です!……ええ、大丈夫です。大丈夫ですよ」


 ボクは笑ってそう言ったが、うまく笑えた自信はなかった。ただ、どちらにしろ今のボクの気持ちを幸次さんが正確に汲み取ることはないだろうと思った。


 シフォン…幸次さんの体が徐々に光の粒子に変わっていく。先ほどに比べればかなりゆっくりだが、もうあまり時間はない。


 「幸次さん、もし次の人生があったら料理、いっぱいしてくださいね」

 「あぁ、今度は自由奔放に生きてみるとするよ」

 「…ギルマス、お疲れ様でした」

 「あぁ…、やっぱり自由奔放にするのは少し休んでからにするよ」

 「ならこれ、その間の暇つぶしにでもどうぞ」


 ボクは、メールで幸次さんに今まで作ってきたレシピの写本を渡した


 「写本ですので、気にしなくても大丈夫ですよ」

 「…ありがとう」


 その言葉を最後にシフォンの体は光の粒子となって、天高く昇っていった。


 この時初めて、ボクは人の死を感じた。



―――――――――――――――――――――


ボクがゲームを開始して10日目、1つの変化が起きた。職業『暗殺者の王』への転職が可能になったのだ。まだ当時、職業が発見されていない中で見つかったそれは異質なものだった。職業『暗殺者の王』の転職可能条件は昼夜のログイン時間の割合が夜が8割以上の状態で連続10日間過ごすこと。ログイン不可となったこのデスゲームでまずそれを達成することは不可能だ。おそらく、スタッフが遊びで作ったのだろう。ボクは製作会社に意趣返しをしようと思い、転職した。


職業名を見れば判ることだったが、この職業はどちらかと言えば対人向けの職業だった。ボクは更に他のプレイヤーと共にすることが出来なくなった。しかし、即死スキル『首狩り』をこの職に就いたときから自動取得してあったので、圧倒的高レベルの敵にほとんど一撃でやれるかどうかという戦闘ばかりを繰り返し、レベルを上げた。仮に失敗しても死に戻りすればいいので、HPが0になることに何の不安も無かった。ただまだ自分は、他のプレイヤーの役にたってないなと思った。


しばらくして、あの大事件の話を聞いた。7番目のボス攻略の時にPKギルドに襲われて500人を超える犠牲者が出たらしい。ボクは、これだと思った。


そのPKをする奴を倒せばいいじゃないか。


悪人退治だ。


幸いにしてボクの職業は対人向けだし、ボクに知り合いのプレイヤーはいない。


返り討ちにされても死に戻ればいい。


 ボクは周りの人からそのPKギルド『蒼色の夕陽』の情報を集めて行動に移し、それは意外に簡単に達成することが出来た。こちらはやられるどころか一撃すらくらわなかった。


 それから、毎日ボクは多くのPKプレイヤーを潰した。PKをしようとする連中ばかりみていると人間の暗い部分が多く見た。そしてその悪を切った。そのうち周囲から『死神』と呼ばれるようになった。しかし彼らは複数によるものだと思っていて、ボクの事に辿り着くものは居なかった。


 1ヶ月くらい経った頃だろうか、ボクはネットで『最近、多数のEO犠牲者が死んでいる』ことについて書かれた記事を見つけた。ボクはその最近増えた死者はほとんど裁かれるべき犯罪者だったと思い、そこで違和感を感じた。


 当時、現在の教会のように工夫してPKプレイヤーを隔離出来ないため、PKプレイヤーをやること自体は悪くないと思う。だからボクはこれまで多くのPKプレイヤーを潰した。


 そうか、ボクは自分が人を殺したという実感を持たなかった。いや、持てなかったのだ。


 ボクは恐怖で体が竦んだ。その恐怖は皆が普段から無意識に感じている。その恐怖は皆知っているのに見て見ぬふりをしている。その恐怖は徐々に感じられなくなっていく。しかし、その恐怖はある日突然、自身を喰らいにかかってくる。


 そうやって恐怖について考えて、またボクは逃げる。


ボクは人を殺してなんとも思わないわけがない。


これはボクだけデスゲームに巻き込まれていないから、まだゲーム感覚が抜けていないんだ。


そうやって、ボクは殺した人たちのことは考えず、必死に自分を正当化する逃げ道を考える。


本当にゲームを通しているから感じないのかもしれないが、それを確かめる合法的手段は無い。


 そうしてその記事を見た日を境に、ボクはPKプレイヤーを狩るのをやめた。


 その後、ボクは別の方法で他のプレイヤーたちに貢献しようと取れた食材で料理を作って配給をしたりしていた。他にもデザインに凝ってみたりしてみた。いろいろ挑戦してみた末、最後に辿り着いたのは子供たちの保護だった。


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4月28日 (月)


 今日は、昨日とは違い普段通りの教会での時間が過ぎる。ジンたちは、自ら謝りに来たのでそこで許した。ギルド『天地雷鳴』の人たちにも謝りたいとのことだが、それは次の土曜日まで待つように言った。ジンたちが教会から出ることが出来たのは、その日の門番がギルド『マリオネット』の連中だったらしい。考えればすぐに判ることだった。外に出た直後、あいつらに脅されて、『ヘカトンケイルの森』まで向かったようだ。ソロプレイしかしなかったボクは知らなかったが、転移門で転移できる場所は起動させた人に由来するようで、ジンたちも第78の都市まで転移できたのだ。


 ボクは皆が寝ていつもの物資調達の時間になると、いつもの装備を整える。しかし、いつもの装備と言っても昔の“いつも”だ。ボクは再び『死神』に戻った。狩る相手は決まっている。PKギルド『マリオネット』。その拠点も昨日のうちに調査済みであった。蛇の道は蛇。そういう情報を多く持つプレイヤーだっている。


ボクは相手の拠点に到着する。この前の『ヘカトンケイルの森』の最奥。並大抵のプレイヤーはまず近寄らない。貰った情報によれば、このギルドは拠点を1つしか持っておらず、ギルメンが全部で37人。量より質の高さを基準としているらしい。


まずは見張りのプレイヤー4人を発見する。ボクはその中の1人の男の背後に移動する。そしてその首を『首狩り』で切る。男は倒れるが音を発しない。結局最期まで静かに男は光の粒子へと変わった。これは職業『暗殺者の王』の中のスキルの1つでパッシブスキル『認識阻害』の効果である。これは直接的な視覚以外による認知を阻害する。だから正確には音を発していないのではなく、音が認識されてないのだ。これに透明になれるスキル『姿隠し』を使えば完璧と言っていい。『姿隠し』の効力は3分だが十分だ。


いくら『認識阻害』や『姿隠し』をしても死んだプレイヤーの放つ光の粒子は消えないため、暗い中で光る粒子を見て他の3人が敵がいることに気づく。だが、それに気づいたときには既にまた1人を仕留める。暗殺に必要なのはスピードと正確さだ。伊達に何人も殺していない。パッシブスキル『認識阻害』は職業『暗殺者の王』になってから100人位を狩ったころに取得可能になった。


 残りの見張りも仕留めると、一度『姿隠し』を解いておく。拠点の真ん中まで近づくと再び『姿隠し』を発動する。『姿隠し』しても光の粒子でばれるのになんで夜に行うかと言うと、ちゃんとそこにも意味がある。


ボクは自分の真上に簡易な光魔法を使用する。夜間の戦闘で通常のプレイヤーなら必須になる魔法『フラッシュ』。ただ光源を生み出すだけのもの。しかしボクにとってはプレイヤーの影を生み出す魔法だ。太陽のない今、皆が『フラッシュ』によって決まった方向に影を作り出す。ボクは職業『暗殺者の王』の中のスキルの1つ、スキル『影渡り』を使用する。このスキルは生物の影の中を影がつながっている限りどこまでも移動できるものだ。いや、移動ではなく転移と言っても過言ではない。そうして、プレイヤーの首に近づき『首狩り』を発動させる。


ここまでくれば後は流れ作業だ。『姿隠し』『フラッシュ』『影渡り』『首狩り』これを繰り返すだけ。


そしてPKギルド『マリオネット』は完全消滅した。


その場に残っていたのはボクただ1人。


ボクは震えていた。


嬉しさと恐怖に震えていた。


ボクはこの日初めて人を殺したことを実感することが出来た。


シフォン…幸次さんの死を見届けたからだろうか。それともこれが、昔と違い完全な私怨だからだろうか。


次の日、ボクは初めて学校だけでなくEOの両方を休んだ。



この大体、1か月後にEOは製作会社の倒産という形で終わりを迎える。それでもボクのEOのアバターは残っている。そしてゲームが終了しても週に一度、幸次さんへメールを送る。届くはずないのは分かっているのだが、なぜか送信出来るのでもしかしたらと思ってしまうのだ。内容はゲームの終了のとき以外は、料理や調味料なんかのレシピ。向こうで退屈にならないように。




PKプレイヤーを殺したことを後悔はしていない。


しかし


多くの人を殺してしまったことを抱えて今を生きている。


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