識と創子―サイド識―
恋心が怖かった、暖かな友情にひどく憧れていた。
―――彼と出会うまで。
「どこの隊の術師ですか?」
遠征部隊への補佐へと回されたその日、
見知らぬ術師の青年を見つけ、思わず名乗りもせず声をかけてしまった。
…次の瞬間、赤い瞳に睨まれたのも今となってはいい思い出。
怜悧な美貌と裾の長い白い外套、術師にしか見えなかった彼は暗器使いだった。
しかし、僕には彼がいまだ術師にしか見えない。
特に、今のように黙って本を読んでいると学者-彼の一族は学者が多い-に見える。
実際に彼の両親は有名な術師だったし、彼自身も術に対する知識は深い。
「ねえ、創子。」
「なんだ?」
「どこにも…僕の知らない所に行かないでくださいね?」
「…は?」
ずっと本に注がれていた視線がこちらに向く、
相変わらず綺麗な赤目は、僕の薄青の目と正反対でとても綺麗。
彼が僕の前で本を読むようになってどのくらい経っただろう?
隠し事ばかりの彼が、ほんの少し…本当の自分の片鱗を見せてくれたのは。
「僕は意外と友達思いなんですよ?」
「…お前、俺以外に友達いないだろう…。」
心底呆れた、と雄弁に語る瞳が嬉しい。
彼が間違いなく僕を友人としてみてくれている証拠だから。
だから早く気づいてくださいね、
君が彼女を好きなら、僕は彼女への想いを捨てますよ?
だって、僕は恋心より友情をが大事なんだから。
ね、親友を。