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この力は誰の為に  作者: 榎木ユウ
この力は誰の為に
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15 この力は全部

 結局、その後、ちとせは殆どのことを説明させられた。


 隼生の家に行ったこと。

 そこで、この力が、相手を思う強さによって変わるということを聞いたこと。

 そして、隼生が同窓会で知り合った美作という女性にストーカーしているという噂があったこと。

 

 途中、ごまかそうともしたが、全て筒抜けで無理だった。

 ただ、会話をしている間に、全て考えていることが筒抜けというわけではなく、お互いに関することを思った時だけ筒抜けになることだけは分かった。


【なんて、私の願望を満たしてくれる力!!】


 当然、隼生のことを思いながら考えたので、そのことは隼生に筒抜けだ。

「お前、顔にも出てる」

と隼生も呆れ顔だが、

【結局、全部筒抜けか...】

と、漏れたため息も丸聞こえだった。


「す、すいません。変な力ついちゃって」

「その内、俺限定で透視とか身につきそうで怖い」

「まさか!」

【その手があったか!!】


 言葉では否定してもだだ漏れだ。

 隼生が僅かにテーブルから逃げたのをちとせは見逃さなかった。


「ぎゃーーー! そんな脳内下品ツッコミまで筒抜けないでー!」

 頭を抱えて俯いた瞬間、ぶほっと隼生が吹き出した。


「お前、本当、女か? ていうか、女ってそんなにあけすけなこと考えてるものなのか?」

 ひーひー、と涙を浮かべながら大笑いする隼生を、ちとせは初めて見た気がした。


「違うんです! 思っちゃ駄目だな!とか、ちょっと思ったら、つい!

 いつもはもっと違うんです!」

 自分の前で両手を精一杯ふって否定すると、頭に声が響いてくる。


【何でこんな力があるんだろうと思った】


「え?」


 隼生を見たが、隼生はまだ笑っている。

 多分、思ったことが漏れていることに気づいていない。


【好きな女を縛りつける位しか出来ないと思ってた。禄でもないものにしか思えなかった】


 流れてくるのは見たこともない女の人の映像。

 イメージまでだだ漏れするとは思いもよらず、だけど、その鮮明な映像に目を奪われる。


 階段を登る女性と男性。それを見ている映像。多分、隼生の目線。


 それが誰なのか、考えなくても分かった。

 美作雪だ。

 隼生が同窓会で知り合ったという女性。


 彼女が階段をあがりながらハンカチを鞄から取り出す。

 だが、突然の強い風がそれを飛ばす。


 振り向く彼女。


 彼女の手が伸び、ハンカチをとろうとして、バランスを崩す。


 何とか彼女が落ちるのを隼生が止めようとする。

 手は届かない。


【力があったって、何の意味もなかった...】


 隼生の弱い力では何も出来なかったのだろう。助けたかったのに、助けられなかった。

 しかも落ちる瞬間、自分の不注意だったにも関わらず、美作雪は隼生に気づき、そして怯えた目で見たのだ。

 まるで隼生が突き落としたみたいに。


【この力は何のためにあるのか、そんなことばかり考えてた】


 場面は変わる。


 そして、今度こそ息を飲む。

 今度はあのストーカーにちとせたちが襲われる瞬間だった。

 やっぱり手を伸ばしている隼生。

 だけど、その手は届かない。


【この力は何のためにあるんだろう。

 好きな人を傷つけることしかできない...】


(あぁ、この人はずっと苦しんでいたんだ)


 浅間隼生という人間に触れて、彼の弱さを知った。

 でも、その弱さは誰しも持つ弱さで、ちとせにだってある弱さだ。


 大切な誰かに何もできない、という罪悪感という名の優しい弱さだ。


【なのに、こんな力なのに、ちとせはこんな風にあっけらかんと使うんだな。

 うじうじしてる俺の弱さなんか吹き飛ばすみたいに】


 暖かい声が隼生から流れてきて、ちとせは隼生にしがみつく。


「ちとせ?」

「全部、筒抜けです」

「?!」


 漸く気づいたのか、赤面する隼生に、ちとせは強くしがみつく。


「隼生さん、忘れないで」

「ちとせ?」

「力とか関係なく、私が隼生さんを好きなんだってこと。

 そして、この力は全部、隼生さんの為にあるんだってこと」


 ぎゅっとしがみつく手を強めると、隼生の手が背中に回る。

 少しだけ怯えたような、それでも触れていいのか躊躇う手に、隼生への愛しさが募る。


「私、今、この力に感謝してます」


【だって、どれだけ私が隼生さんを好きか、言葉にしなくても伝えられる】


 躊躇っていた隼生の手が、その瞬間、強くちとせを抱きしめる。

 まるで溺れる者が、助けを求めてしがみつくかのように。


 そして聞こえた隼生の言葉にならない声。



【力を渡したのが、ちとせで良かった】







 私、今、世界一、幸せかもしんない。

 

 

 


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