Crimson teatime
崩木柚子 技師
斑鳩燕 設計者
斑鳩燕は天才だった。
環境にも恵まれていた。
幼い頃から彼女は大学に出入りしては書物を時間の対価として消費した。
彼女は若さとその他でも無い彼女自身が創りだした成果で多大な称賛と、惜しまれぬ賛美に包まれた。
しかし、今は彼女に触れたがる人間はあまりいない。
それは斑鳩燕の右脚が二度と十全な働きをしないのと関連があるらしいが気にしなかった。
僕には相手の以前に興味は無い。今を以て天才である必要がある。
才能は開いてる内に出会わないと大して意味が無い。
散った花を愛でる粋狂は持ち合わせていない。
「あぁ、そうだ君の祖父には感謝してるよ」
作業も仕上げに入るころ、斑鳩は急にそんな事を呟いた。
「いつ言おうかタイミングに困っていた」
「何で僕に言うの?」
「君は私の設計に忠実に仕上げてくれるからね」
「今まで、そういう経験無いわけ?昔は有名だったんでしょ?」
「どちらの質問から答えたらいいかな」
「時間列から考えて前者または二つの質問を併せて合理的な回答を」
「機械みたいな返答だ」
斑鳩は少し笑ってうなずいた。
「有名であることで人は集まったの。それこそ電子機器から車まで、何でも創れるくらいにね。けどそこに満足だけは無かった…こんなんでいいかしら?」
僕はただ頷いた。
斑鳩にけられた技師達には何の感慨も抱けない。
仕方ない。求められるモノを持ち合わせていないのだから。
そういう因果は神様が決めていて、皆何処かに自分の能力を活かせる場所があるに違いない。
神様、きっとシステムみたいに愛しいヤツに違いない。
「翔ぶと思う?」
頬杖ついて斑鳩は柔らかい笑顔でそれをみつめる。
「翔ぶさ」
僕は速答する。
「どうして?」
「斑鳩が考えて、僕が創った。どこにケチがつく?」
「そうね、…そうだといいわ」
夢に浮かされたみたいな午後。
少し温い紅茶とケーキの三角。
「――、」
なにか言おうとしたけど結局口をつぐんでしまった。
言うべき言葉がよくわからなかった。
きっとエラーだ。
どうして、いつも、最善でいられないんだろう。
「後百年早く生まれたかったよ、そうすれば良かった」
少しだけ、そういう斑鳩に同情した。
「崩木、君は大したスペックだよ」
「褒めるな、僕は僕の仕事をしたに過ぎないんだから」
「それが出来る人間はそういないよ」
紅茶はもう冷めた。
そろそろ飲み頃だろうか。