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6.追跡開始

6.追跡開始



 井川は将門の兵と志田の兵を集めて同盟を祝う宴をも要した。 その一方で名取に命じ、成禎を密かに呼び寄せた。

 成禎が井川の部屋を訪れると、そこには志田の姿もあった。 成禎は警戒心を強めた。

「将軍、よく来てくれた。 この男のことは知っているな?」井川が志田の方を見た。

成禎も志田を見て頷いた。

「井川殿はどうやってこの者を味方につけられたかお聞かせ下され」と成禎。

「いいだろ。 取り合えず、座りたまえ」井川は成禎のために椅子を引いた。 成禎が椅子の座ると井川と志田も席に着いた。

「将軍、お前さんはお館様の特別な力のことを知っているな?」井川は単刀直入に切り出した。 成禎は少し驚いた顔をしたが頷いた。 「薄々は感じております」

 井川は、自分たちがこの時代へやってきた経緯や志田がどうして将門を狙っていたのかを説明した。 全ての話を聞いた成禎は意外と冷静に受け止めていた。 その様子を見て井川は確信した。

「つまり、我々はただ自分たちの時代へ戻りたいだけなんだ。 お館様はいずれ首をはねられる。 これはもう変えることができない歴史上の事実なんだ。 このままお館様にお仕えしていても、捕らえられれば将軍も一緒に首をはねられるだけだ。 俺が何を言いたいか分かるかね?」 井川はそう言うと酒を一杯飲みほした。 そして、成禎にも勧めた。 成禎は酒を一口飲むと表情を変えた。 「こ、この酒は…」 井川が成禎に勧めたのは志田が作った現代の物に近い酒だった。

「口に合わなかったかな?」志田が訊ねた。 成禎は首を横に振った。

「こんな美味い酒は初めてでござる」 成禎がそのまま一気に飲み干すと、井川がすぐに酒を注いだ。

「私はどうすればいいのですか?」


 その頃、宴の席では名取が護衛兵たちと“舞”を志田の兵士たちに披露していた。 名取は知美にいいところを見せようと張り切って踊った。

「名取君、格好いいわよ」そう言って知美が拍手をしてくれている。 名取は益々調子づき、さらに激しく回転を加えた。 既に相当量の酒を飲んでいた名取は踊っている最中に意識が飛んでその場に倒れ込んだ…。 というより寝転がった。

「大将! どうなされましたか?」 護衛兵たちが名取に駆け寄った。

「大丈夫さ。 酔っ払っただけだよ。 しばらく寝かせておけばいいさ」良介がそう言っても兵士たちは心配して名取を部屋へ運んで行った。

 その直後に、井川が宴の席にやってきた。 知美と今日子に部屋に食べ物を運ぶよう頼むと、良介には早朝にここを発つ旨伝え、準備をしておくように指示した。


 話が終わると、志田は成禎に手を差し伸べた。 成禎はそれが何を意味するのか分からない様子だった。 そこへ戻ってきた井川が成禎の手を取って志田と悪所をさせた。 「成禎殿は握手を知らないらしい」

「当たり前です。 この時代の日本にそういう習慣はありませんから」 そう言って知美が部屋に入ってきた。 その手に持たれた膳には現代の食べ物に近い料理が並べられていた。 成禎は見たこともない料理に目を細めた。「これはまた何とも美味そうな料理でござるな! それに、井川殿たちの時代の女子(おなご)は皆このように美しいのでござるか?」 成禎は、そう言って知美をじっと見つめている。

「英雄色を好むと言うが、将軍も例外ではないようだな」井川が笑いながら言った。

「冷やかさないでくださいよ」知美はそう言って井川の足を踏み付けた。

 そんな様子を見ていた成禎は呆気にとられポカンとしている。 この時代では女性が目上の男性に対して手をあげることなど考えられないのだ。

 知美は部屋を出る際、成禎の手を取ってこう言った。

「将軍、未来では実力があれば女子でも一国の主なれるんですよ。 女子がきれいなのはエステのおかげ。 といっても分からないでしょうけど。 この時代にはありませんから。とにかく名取君をよろしくお願いしますね」 そして、ウインクして部屋を出ていった。 今日子もお辞儀をして知美に続いた。

 成禎は顔を赤くしてその場で固まったように立ちつくしている。 そんな成禎を井川がからかう。 「将軍は知美嬢のことを好きになったようだな」 

「冗談はそのくらいにして、早速、明日の朝出発しよう。 計画通り俺の軍が先に行く」志田はそう言って席を立つと部屋を出て行った。

 井川は成禎に酒を進めた。 成禎も酒には目がないと見えて、ためらうことなく盃を差し出した。

「追い付けますかな」成禎が一瞬真顔に戻る。

「あいつは俺達より3年早くこの時代に来ているんだ。 その3年間で民に神と崇められるようになった。 それがどういうことか分かるかね? 将軍」井川の問いに成禎は首をひねった。 井川は続けた。

「あいつが一言発すれば一瞬で千里先まで伝わっちまう。 だから、将門の居場所なんてすぐに分かるさ」そう言って井川は盃に酒を注ぎ足した。

「なるほど、確かに! それにしてもこの肉の味は格別でござるな」 知美が作った醤油風ソースで味付けした牛肉のステーキを頬張りながら成禎は衣の帯を緩めた。


 

 その頃将門は、今でいう東京の多摩地方の辺りを進んでいた。 その日は同行した兵士の家に泊まった。 当然、自分が将門だということは隠していた。 しかし、兵士は家族にこっそり自慢話をし、将門の共で京へ上る途中であることを喋ってしまった。

 このことはすぐに志田のもとへ伝えられた。 志田はその方面に地理に詳しい兵士を先鋒舞台の隊長に任命し、日が昇る前に二千の兵を引き連れて将門を追って陣を発った。

 後から追ってくる護衛兵と常に連絡を取れるように通信兵を絶えず行き来させる手段を講じて二つの軍がはぐれることのないよう井川と打合せをしておいた。

 そして、夜明けとともに名取大将率いる将門の護衛兵五百が出発しようとしている。

「名取君、何か格好良くないなあ」知美が言う。

「仕方ないですよ。 だって馬に乗れないんですから」数人の兵士に抱えられた輿の上に鎮座した名取が申し訳なさそうに言った。

「いいんだ! そんなこと気にするな」後ろの方からそう叫んだのは将門の馬車に乗った井川だった。 隣にはちゃっかり今日子を乗せている。

「知美さんはどこで乗馬を覚えたんですか?」颯爽と馬を乗りこなす知美を見て名取が聞いた。

「ここで。 何しろ3年もいるんだから。 遊ぶところもないし、暇つぶしで乗ってるうちにコツを覚えたわ」そう言って知美は馬に気合を付けると、最前列を進む良介たちの方へ走って行った。

「知美さんはやっぱり格好いいなあ」そう言ってため息をついたのは名取の隣を同じように輿に乗せられてついて行く青田だった。

「ぷっ!」名取が思わず噴き出すと、青田は名取に向かって持っていた握り飯を投げつけた。

「あっ!」青田は思わず叫んだが後の祭り。 握り飯をキャッチした名取は即口の中に詰め込んだ。


 こんな大将で護衛兵たちを指揮出来るのだろうか…。 そんな風に気をもんでいる良介をよそに、鼻歌交じりで旅行気分の井川はすでに酒を飲み始めていた。






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