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5.名取大将

5.名取大将



 良介は思い出していた。 将門が名取を大将に任命した時のことだ…。


 将門は井川に影武者としての任務を託すと、護衛兵を井川の傍に置いて行くと言った。 井川は自分の部下である名取を兵士たちの頭に置くことを条件にあげた。 将門はしばらく名取の様子を見てニヤリと笑い、それを承諾した。

「名取とやら、ここへ来るが良い。 今からその方を護衛兵の大将に任ずる」 将門は名取を見つめた。 そして、さらに続けた。 「護衛兵の大将になったからには、いつ何時でも主君に危機が迫らば、即座に駆けつけ、命を賭して守らねばならん。 その方にその覚悟はあるか?」そう言うと、更に鬼気迫る形相で名取を見た。

 名取は将門が言っていることの意味を深く考えもせず、“大将”の言葉に有頂天になっていた。 そして、井川の方をチラッと見た。 井川が頷いたのを確認すると、将門に向きなおった。

「仰せの通りにいたします」名取は、時代劇で見たイメージを思い浮かべながら将門にひざまずいて忠誠を誓った。

「その言葉、忘れるでないぞ」 将門はそう言うと名取に念を吹き込んだ。 すると、名取の体が一瞬、黄金の光に包まれた。

 将門はこうして名取を大将に任命すると、井川に合図を送った。 『あとは頼んだ』 それを受けて井川はウインクをして返した。 将門は井川の奇妙なしぐさに首をかしげて苦笑いをしながら踵を返した。 そして、部屋を出る間際に名取を見て一瞬だけ意味ありげな笑みを浮かべた。 良介は将門のこの表情を見逃さなかった。


 井川の条件だとはいえ、将門が自ら大将に任命したということは、配下の兵士達にとって名取は将門同様の存在と言えた。 将門からの勅命がない限り、名取の命令が絶対なのだ。

 将門の護衛兵は将門が最も信頼を置く兵士達でもある。 本来なら、例え、密かに京へ向かうとしても、護衛兵を伴うのが道理である。 だが、影武者を立てて敵を欺くためには、影武者のそばに護衛兵がいなければ疑われる。 将門の護衛兵は敵方にも顔を知られているので代替えは通用しない。 敵を欺くにはこうするしかなかったのだ。


 良介達がこの時代へ引き込まれた理由は将門が影武者として井川を呼び寄せたことだ。 井川は将門が行く所ならどこも付いて行くことができるが、井川以外の者たちは、いわば、この時代の異物であるため、結界により移動範囲が制限されているのだ。 したがって、井川以外は関東を出ることができないのだ。


しかし、将門は万が一のことを考え、いつでも護衛兵を動かせるようにしておきたかった。 そこで、名取の結界を解いて、いつでも護衛兵と共に京へ移動できるようにしたのだった。


 

 良介の説明を聞いた井川と志田は改めて作戦を練り始めた。

「まず、俺たちは同盟を結んで、京へ向かうふりをして将門を追う」と井川。

「そして、関東を出る前に将門に追いついたら俺の軍で将門を討つ。」志田が続ける。

「間に合わなければ、部長と名取で追いかける」と良介。

「将門の護衛兵には用心が必要だろう」志田は腕を組んで井川を見る。

「ああ! 将軍の一人は将門からすべての事情を聞かされているようだからな。 だが、将軍一人じゃ戦には勝てない」頷きながら井川。

「そうか! それで、名取に兵士と酒を飲むように言ったんですね」良介が指を鳴らした。

「そういうことだ。 実際に走り回る兵隊に信頼されれば、ある程度の動きは封じることができるさ。 それでなくとも、あいつがあの軍の“大将”なんだからな」井川は椅子に腰かけ、陶器の器に注がれた酒を一杯口に運んだ。 「なんだ? この酒は?」

「どうだ? 美味いだろう? 三年の間に、今… いや、俺たちの時代に近い味の酒を造ったんだ」志田が自慢げに言う。

「それより、その後だ」志田が話を進める。 「将門を見つけられなかったらどうする?」

「関東から出たら、先廻りして京で迎え撃つ。 俺が先に朝廷をだまして将門を謀反人に仕立ててやるよ」自信たっぷりに井川が笑う。


 その頃、将門の屋敷では名取が兵士たちにせがまれて舞を披露していた。 “舞”といっても、その時代の舞ではなく名取が得意なブレイクダンスだった。 兵士たちは名取の激しい動きにヤンヤヤンヤの喝采を浴びせていた。

「大将殿、そんな激しい舞は初めて見ましたぞ。 まさに、これから戦に向かうにふさわしい舞でござる」将軍の一人、嘉政が名取に近づき絶賛した。

「私にもその舞を教えては下さらぬか?」将軍がそう言うと、他の兵士たちもこぞって舞を習おうと、名取の周りに集まった。 気を良くした名取は兵士たちにブレイクダンスを教え始めた。 そんな様子を見ているうちに、将門の腹心の将軍である成禎も次第に名取の人柄にひかれていった。 

 宴は一晩中、盛り上がり、次第に東の空が明るくなってきた。 すると、見張りの兵から報告が入った。 「お館様がお戻りになるぞー!」

その声を聞き、名取達は戻ってくる井川達を出迎えようと、兵を引き連れ城壁に上った。 すると、井川は白旗をあげた志田の兵二千を引き連れ、こちらに迫ってくる。 それを見た護衛兵たちは敵が攻めて来たと思いこみ、慌て始めた。 どうやら、この時代は白旗が降参の証しだと認識されていなかったようだ。 名取は、白旗を見て、敵軍が降参して配下に下ったことを味方の兵士達に伝え、城門を開けさせた。

志田が、場内に入ってくると、名取は城壁をかけ下り、志田に挨拶をした。 「社長、お元気でしたか?」すると、名取に倣い、五百人の護衛兵たちが一斉に志田にひざまずいた。

「ほーう! さすが名取だ。 一晩で兵隊の心をつかんだようだ」志田が言うと、井川は「俺が見込んだんだ。 当たり前よ」と笑った。

 志田に続いて、良介や青田、そして、知美と今日子の姿を見ると、名取はさらにテンションが高くなた。

「名取君、格好いいね」知美と今日子にそう言われると、すぐに兵士に命じて、知美達の荷物を持たせ、部屋へ案内させた。

 成禎将軍は名取に尋ねた。 「あれは反乱軍の志田とその兵士たちではござらぬか? お館様はいつの間にあ奴らを降伏させたのでござろうか?」

「あの二人は昔から友達だったんだ」名取は笑って答えた。 そんなことより、憧れの知美に会えた喜びで名取は頭がいっぱいだった。






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