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4.再開

4.再開



 志田は二千の兵を率いて、将門の屋敷へ進軍した。 その知らせはすぐに井川のもとへ伝えられた。 井川は将門から託された五百の兵に迎え撃つ準備を整えるよう命じると、名取を大将に据えた。

「いいか、名取。 俺は今から反乱軍の本陣に行ってくるから、お前はあいつらと一緒に酒でも飲んでろ」そう言って井川は良介と青田を伴い、三人で屋敷を出て言った。 名取は井川が指した方を向いた。 タイムスリップして来た時に屋敷まで案内してくれた将軍と兵士たちが整列してこちらを見ていた。


 名取は鎧を身につけ、大将らしい格好をしているが、どうしていいか分からず、うろたえるばかりだった。 見かねた将軍が何もしなくていいから悠然と座っていればいいと助言してくれた。 どうやら、この将軍は全ての事情を知っているようだった。

「よし、じたばたしても仕方がない。 部長…。 いや、お館様の言った通り酒でも飲むか」名取は開き直り、見張りの兵を残し、他のすべての兵を集めて大宴会を始めた。


 井川達はこの世界に来た時のスーツに着替え、志田の本陣へ堂々と乗り込んだ。

「部長、大丈夫ですか? いくら向こうの大将が社長だと言っても、兵士達には僕らが社長の知り合いだと知らないんでしょう? 平民の格好ならともかく、こんな格好で出向いたりしたら捕まって殺されちゃいませんか?」

 青田の心配はもっともだ。 良介もそういう不安はあった。 しかし、今の井川はただの酔っ払いとは違うように思えた。

「いいんだよ。 わざと捕まるんだから」井川は笑いながら言う。

「えー! そ、そんな」青田の顔が青ざめる。

「まあ、そんなに心配するな。何か考えがあるんだろう」良介はそう言って青田の肩にポンと手を置いた。

 そうこうしているうちに、案の定、井川達は敵の兵士に見つかった。 すぐに捕らえられ、本陣に連れて行かれた。


 本陣では知美が食事の支度をしていた。 知美は味噌や醤油、塩などの調味料を作り、それらを使った料理の方法をこの時代の兵士達に教えていた。 志田の軍の兵士はこう言った料理をたらふく食べていたので、他の軍の兵士達より、体力があった。

 その頃、本陣の外で怪しい輩を捉えたという情報が志田に伝えられていた。 志田は、かねてより、自分たち以外にもこの時代に飛ばされたものがいると考えていた。 兵士には志田が着ていたスーツを見せて、同じ服を着たものを見つけたら殺さずに連れてくるように言ってあったのだ。

「志田様、例の服を着たものを連れてまいりました」兵士が伝えた。

「ご苦労。すぐに会いに行こう」志田は、今日子を従えて捕虜に会うため席を立った。


 井川達は縛られることもなく、本陣内で待たされていた。

「間もなく志田様がお前達にお会いになる」兵士はそう言って井川達にひざまずいて待つよう指示した。 井川は言われた通りにひざまずいた。 良介と青田もそれに倣った。 しばらくすると、ひときわ背の高い男が巫女を従えて現れた。 青田は思わず目を丸くした。

「す、須藤さん?」青田は思わず、生唾を飲んだ。

 井川は志田の顔を見ると、ニヤリと笑った。「ずいぶん偉くなったもんだな」

「なんだ、お前か」志田は井川の顔を見て張りつめていたものが和らぐのを感じた。

「後ろにいるのは日下部と青田か?」志田は良介達にも声を掛けた。

「はい! 社長…。いや、し、志田様」青田は今までとは打って変わって安堵の表情を浮かべた。

「皆さんお元気そうでなによりです」今日子も嬉しそうな顔をしている。

「やあ、キョンキョンもいたのか?」井川は今日子を抱きしめた。

「知美さんもいますよ」と今日子。

「こっちは、あと名取がいる。 あいつは今、将門の屋敷で五百の兵の大将だ」

「まあ!」食事の支度を終えた知美がやって来た。

「まあいい。 ちょうど飯の支度も出来たようだから一杯やりながらゆっくり話でもしようか」そう言って志田は宴席の準備をするよう兵士たちに命じた。


 良介は志田の話を聞いて納得した。 良介達が来たばかりのこの時代で志田はすでに、朝廷をも脅かすほどの勢力を持っている。 志田なら3年もあれば可能かもしれない。 そう思った。 それに、知美と今日子が少したくましく、しかしながら、より大人の女になったように感じたのにも納得した。

 逆に志田たちは井川の話を聞いて驚いた。 自分が命を狙っていたのが井川だったと知った時には額から脂汗が流れ落ちた。 そして、将門が既に京へ向かって経ったことを聞くと地団太を踏んで悔しがった。

「さあ、これからどうする?」人ごとのように井川が聞く。

「どうするもこうするも、早く元の時代に戻るにはどうすればいいんだ? もう、こっちで三つも年を食っちまったからなあ」と志田は腕組みをして呟く。 

「部長はこうなることが分かっていたんじゃないですか?」と良介。

「まあな。 子供の頃から聞かされていたからなあ。 我が家の宿命らしい。 最も子供の頃は何のことか分からず、ただ、チャンバラが好きだった俺はおとぎ話でも聞くように興味津々で聞いていたが、大きくなるにつれて、そんな話は忘れていたよ。 ところが、この会社に入って、神田明神で祈願するようになって、急に妙な感覚が芽生えだしたんだ。 じいちゃんやおやじが話していたことはまんざらデタラメではないと思うようになった。 そして、今日はなんとなく『覚悟しなきゃならない時が来たかな』なんて思っていたところでこうなった。」井川は無表情で淡々と話した。

「それじゃあ、どうすれば元に戻れるのか知っているのか?」志田が詰め寄るが、井川は首を横に振るだけだった。

「しかし、お前も良くやるよなあ。 たった3年で天下をひっくり返そうかというところまで上り詰めるとはな。 こんな話テレビだけの話かと思っていたけど、やりゃあ出来るんだな。 その調子で、会社ももっと大きくしてもらいたいもんだ。」そして、井川は志田に皮肉を言った。

「それじゃあ、私たちがここへやってきたのは、平将門が井川部著を影武者として引き寄せたからなんですよね?」知美が聞いた。 井川はうなずいた。 知美はさらに続けた。

「だったら、将門が死ねばその神通力も消えて私たちは元の時代に戻れるんじゃないかしら」知美の言葉に青田は安堵の表情を浮かべた。 ということは、何もしなくても将門はこの反乱で首を着られることになるからだ。

「それはどうかな?」井川が反論した。

「どういうことですか?」良介が訊ねた。

「歴史の上ではそうなるはずだったが、社長が余計なことをしてくれたおかげで、将門は密かに京へ向かった」井川がそう言うと、皆、納得した。

「だったら、やっぱり将門の首を取るしかないのか…」志田は立ち上がり、将門が向かった西の空を見上げた。

「無理だな。 将門がどのルートで京へ向かったのか分からないし、車も携帯も使えないこの時代で将門を見つけるのは不可能だ。 それに、俺のカンが当たっていたら、付属で付いてきたお前らは関東から出られない。」そう言って井川は志田の横に並んで同じように西の空を恨めしそうに見上げた。

「結界が引かれているんですね」知美が言った。 井川がうなずく。 青田は希望が無くなったと思い、その場にうなだれた。

 しばらくの間、無言の時間が続いた。 良介は一人残して着た名取のことを考えていた。

「あっ!」良介が急に大声を出した。

「どうした?」志田と井川が振り向いた。

「名取ですよ! あいつが切り札になりますよ」良介は微笑んだ。 何か思いついたようだ。





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