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1.幸福の鈴の音

1.幸福の鈴の音



 年が明けた1月の4日。 小林商事の仕事始め。 小林商事では毎年、仕事始めの日に商売繁盛と安全祈願で神田明神へ参拝に訪れることになっている。


 良介は仕事始めだということもあり、いつもより少し早めに出社した。 事務所に入ると最初に佐々山知美に出会った。

「あけましておめでとうございます」知美は笑顔でお辞儀して良介に挨拶した。

 年の初め。 真っ先に出会ったのが美人の佐々山知美だったので、今年は縁起がいいと良介は思った。

 早めに来たはずが、良介が出社したときには既にほとんどの社員が席に着いていた。 良介は社長の志田から順番に新年のあいさつをして歩いた。


 安全祈願は午後4時から。 それまでは通常業務だが、ほとんどの社員が出社するとすぐに年始あいさつに出かけて行った。

 良介は暮れに納品した物件のデータをまとめ、収支報告書を作成していた。 社内には良介の他に総務の石山と須藤今日子、企画の佐々山知美しか残っていなかった。

 昼になると、石山がランチに行こうとみんなを誘った。 4人でそば屋に行くと、天ぷらとそばのセットを石山がご馳走してくれた。 やっぱりツイてるなあ…。 良介は改めてそう思った。

 午後には、直接神田明神へ出向く社員を除いて、ほとんどの社員が戻ってきた。 総務の青田と工務の浅井は戻るとすぐに安全祈願の段取りのために先に出かけて行った。

 午後3時。 集合時間の30分前ということもあり、社内にいる連中は一斉に出かけ始めた。 総務の石山だけは留守番のため、会社に残った。


 参道が近くなると、既に参拝客の行列が通りにまであふれていた。 制服の警官が何人も出て参拝客の誘導を行っていた。

 良介たちは行列の脇をすり抜け、御社殿の前までたどり着いた。 既に、直行組や協力業者の代表といった面々が来ており、新年のあいさつを交わしている。 すると、いつの間にか近くに来た名取が良介に声をかけた。「あけましておめでとうございます」良介も挨拶を返して、しばらく雑談をしていた。

「ところで、日下部さん。 神田明神って何を祀ってあるんですか?」と名取。 良介が平将門だと答えようと思った瞬間、背後から声がした。

「平将門だよ」井川だった。

「へ~、井川さん詳しいんですね!」名取が感心している。 井川が得意万弁に続ける。

「将門様にはちょっとうるさいんだ」一瞬、なんだか訳ありのような表情になる。

 そうこうしているうちに、浅井が手を上げて、参拝の順番が来たことを告げた。 良介たちは社長の志田を筆頭に御社殿へ入った。 同時に参拝する10社の代表者が最前列に並び、社員達はその後ろに控えた。

 さすがに、この日は参拝する企業も立て込んでいるのだろう。 いつもなら足がしびれてしまうほど長い祝詞があっという間に終わってしまった。 とはいえ、どこをどう省略したのかなど、さっぱり分からなかった。

 祝詞が終わり榊を奉納すると、二人の巫女が出てきて幸福の鈴の音を授けてくれる。 このとき「清らかな乙女による幸福の鈴の音を…」との紹介があると、良介の後ろにいた名取が“ぷっ”と吹き出した。 隣にいた井川が肘で名取の脇腹をつついて睨みつけた。「バチが当たるぞ!」

「…。 軽く頭をお下げ下さい」 その場にいる全員が頭を下げる。 巫女が参拝客全員に鈴の音を振りかけるように鈴を鳴らす。 “シャリーン シャリーン ”


 毎年聞いている鈴の音だが、今年は特別に神秘的な音色に感じた。 そんなことを思っていると、急に目まいがしてきた。 同時に、まわりが真っ暗になった。 最初、目を閉じているせいだと思っていたが、目を開けても本当に真っ暗だった。 そして、闇の中に吸い込まれていくような感覚を覚えると、意識が遠くなっていった。


 どのくらいの時間が過ぎたのか…。 良介は体を揺さぶられているような感覚にふと我に返った。 すると、井川の声がはっきりと聞こえてきた。

「おい、日下部よぉ。 エライことになっちまったみたいだぞ」

 良介の意識がはっきりした時、周りは真っ暗な闇の中だった。 良介の周りには何人かの人の気配がした。 一人は井川に違いなかった。 しばらくすると、だいぶ目が慣れてきた。

 神田明神の御社殿にいたはずなのに、ここはどうやら別の場所らしい。 良介は胡坐をかいて座ったままの状態でいる。 そして、すぐ横で立ち上がって、茫然としている井川。 他には、まだ座ったままの状態で意識が戻っていない様子の名取と青田。 どうやら今ここにいるのは4人だけらしい。

 他の連中は一体どこに行ってしまったのか…。 それとも、逆に良介達4人だけが別の場所へ飛ばされてしまったのか…。 じきに名取と青田も目を覚まし、辺りをキョロキョロ見まわし始めた。

「日下部さん? どうなっちゃったんですか? ここ、どこですか?」名取が聞いてくる。

「俺にも分からないよ。 もしかしたら、巫女さんを笑ったバチが当たったのかもな」良介はそう言って立ち上がると、井川が見ている方に目をやった。

「マジっすか?」冷や汗をかく名取。 遠くの方にかすかな明かりが見える。

「お前、超能力って信じるか?」井川が聞いてくる。

「どちらかというと、信じる方ですかねぇ…」

「どうやら、お館様に呼ばれたらしい…」井川が神妙な面持ちで言う。

「お館様?」良介は首をかしげた。

 名取と青田も井川のそばに来て遠くに見える明かりを眺めた。 その時、かすかに何かの音が聞こえてきた。 何かが近づいてくるように、だんだんの大きくなってくる。 馬の蹄の音のようだ。 しかも、1頭や2頭ではなさそうだ。

「まずいぞ!」井川はそういうと、良介達に伏せて隠れるように指示した。

 その瞬間、良介たちの周りに“シュッ”という音がすりぬけたと思ったら、“ドスン”という音とともに、何本もの矢が地面を突き刺した。 全員、体を小さく丸め、目を瞑って地面にひれ伏した。 しばらくして、恐る恐る顔を上げてみる。 すると、何頭もの馬が良介達を囲んでいた。 馬の背にまたがっているのは侍のような格好をした男たちだった。





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